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表現者への演奏家6

歌をうたえば当然ながらに気になってくること。

それは。

「奏一さん。」

「え?」

「恋とか愛とかって、なんなんでしょうね。」

奏一さんは、もう何に驚ければいいのかも分からなくなっている様子。

彼は意外と突然のことに全力でびっくりする姿勢のようだから。

それで私は、小説を持っていた。

だって、知るには擬似体験するしかないのだから。

「...その本、面白そうだね。」

「いえ...。」

「今どきの子って、本をちゃんと読むんだね。」

「いえ...。

まあ分かると思いますけどライトノベルってやつですよ。これはケータイ小説です。」

「それはなかなかに良きチョイス。」

そんな彼も小説を持っていた。

実は後々知ったのだが、別の話ながらにもあらすじはそんなに変わらないのだとか。

変わらないというか...それ以上に理解する必要もなさそうな...。

そんなすこしばかり悲恋的なもの。

「なんだか、本筋に見合わない表現が多いですよね、今の小説って。」

「なるほど...。」

ああ...また出てしまったサトリ世代の弊害(むじゅん)...。

でも、それは小説に限った話でもないかも。

「でもね、このひとってどんなひとなんだろう...っていうのを知っていくのが面白いんだ。」

この人はいつも、若い子に話をききたいんだって。

手を変え品を変え、言うことは全部一緒。

だからつまんない人でもあり、そこが面白い人でもある。

そもそも若い子っていうのは、子どもに限った話ではなく、大人であっても子どもらしさくらいがあれば話をきいてしまう人なんだろうな。

...やっぱりつまんないよ、そんなのって。

「ほんとにそう思ってますか?」

「うん。」

うん...ですか。

...ああ...なんか...。

「奏一さん。」

「はい。」

「...奏一さんは、わたし以外の子にもレッスンついてるんですよね。」

「うん、君のグループの子が何人かと、

あとは先月新しく事務所に入った子...くらいかな。」

...ほんっとうに、つまんない...っ

この人だって、性質が理不尽と逆に振り切っていようが、理不尽な大人(やさしいひと)なんだ。

大人は結局、どっちにいこうがそんなもの。

理不尽の反対は理不尽。

所詮はアイドル食って、それで食っていってるひとなんでしょうね。

...そんなひと、ほんとはもっといっぱいいるのに。

そのときばかりは、本気で彼に対して煮え切らない思い...いや、もうはっきり嫌いになりそうになった。

...いや、理不尽(わがまま)はわたしか。

「...どうしました?先生。」

「なんでもないよ。」

嘘つきって、意外と人の目をまっすぐに見るというけれど。

彼は表情は穏やかで真っ直ぐながらも分かること。

もういっぱいに動揺している目をこちらに向けてきている。

...あ、この目...。

たぶんだけど、兎の目に似ているのかも...。

この前話してくれた、つくり話の兎の目は、もしかしたらこんな感じかもしれない。

...まだ、何も言っていないのに。

「あ...の、とりあえず...歌います。」

「はい。」

...もしかして、わたし...。

なりたくない大人になりそうになったのかな。

それで、奏一さんの胸に針を刺した。

食べようとしたのは...もしかしたらわたしなのかもしれない。

「奏一さん...。」

さっきの悲恋の話に花を添えるような前奏を弾きはじめている。

それに耳を傾けていると入ってくることがある。

...そうか、彼はただ知ろうとしただけ。

好奇心は猫をも殺す、とはよく言ったもの。

兎ならなおさらだろう。

理不尽(いわかん)の正体がわかった気がした。

彼は単純に、自分を語ろうとはしない。

だけれども、他人のことは知りたいと言ってくる。

なぜか。

それは、ひとりだとしぬからだ。

...なんだ、結局つくり話でもなんでもないじゃないか。

結局兎(かれ)はそのまま、献身的だということ。

「...っ」

彼は驚いている。

それもそうだろう。

自分の思い通りの歌になっていないからだ。

でも、それだってあなたが生み出した曲であり、あなたがあるからこその歌なんですよ。

それにここまでできるんだってこと、みせてあげれば。

今後つまんないってこともない。

彼が誰かに歌を教えていても、わたしのことだけ見てくれるとおもう。

それ以上は、彼も無理強いで引っ張ることなんてなかった。

まあ分かってる、こんなの大袈裟だって。

まず兎は寂しくて死ぬなんてことはないのだそう。

それこそつくりばなしだ。

ひと通り演奏を終えたあと、彼は向き直った。

「...これね、思いついたは良いけど表題は決まらないんだよね。」

「少なくとも、これに私の歌なんていらないと思いますよ。」

「どうして」

「ささじゃーたか、です。」

「...あれはこどもがつくった話だよ。」

「知ってますよ。前にもそうやって自分のこと知りたいって言ったひとに仕返ししたんでしょ。

こどものときからずっと。」

「ごめんなさい。」

...どうやら、先生がたくさん努力(くろう)をしたのは嘘ではなさそうだ。

でも、彼は反省していない様子で今度は違う曲を弾き始めた。

「うたって」

う...歌うけど。

これは、グッドチョイスという名の悪手だよ、せんせい...!

だって、今芽生えた気持ちが、

ほんとのことなのかどうなのかが分からなくなるじゃない...!

彼が弾いていたのは、初々しい恋の曲だった。

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