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表現者への演奏家5

「ふーん...なるほどね。」

フルヤ先生、譜面を見ているけど、今日は眼鏡を使っているみたい。

なかなか様にはなってるけど。

「目でも悪くなりました?」

「まあ思ったよりは不摂生が祟ってね。

今のうちに視力は矯正しておかないと。次からコンタクトにはするけどね。」

「まあまあ似合ってるんでいいと思いますけど。」

「なかなか抵抗あるよ、しかもなぜかブロー型だし。」

彼は一度眼鏡を外し、縁をなぞってみせたのでそれがフレームの話なのだと分かるけど。

「言うまでもないけど、音楽やるのにも視覚情報って結構重要なんだよ。」

「見た目ですか?」

「...外見至上ではないけどね。人は正直だ。」

「まあアイドルなら...なおのことですね。

気をつけます。」

彼はじっとしたあと、またフレームをなぞってみせた。

それから眼鏡をかけ直す。

「あ、そうそう。タカトーさん、これ歌うんだね。」

「今じゃ、ジョウシキなんで。」

「ふーん...なるほどね。

でもこんなふるい歌、よくうたえるじゃないか。」

まだ、先生の前で歌ってないけど。

「ピアノが必要かもしれないですね。」

「ああ...心もとないかな。」

先生はたまにこうやって私の気持ちを理解してくれる。

「心もとないというより、不服なんだね。」

「はい。」

せっかく歌が上手だってことは伝わっても、結局誰かの、それもふるい歌をうたわされるだけだから。

「たしかに、このうたも...あのころの歌は全般的に好きですよ。今よりもかなり厳しい世界で輝いてきた先人たちの歌ですし、何においても素晴らしいです。それを私が公に歌わせて頂けるなんてありがたいとも思います。」

「君が評価されている証拠だね。」

でも、大人たちには分からないだろう。

あの頃は良かった、あのころは輝いていた...。

幼い頃からそう言われながら育ち、同調を半ば矯正(キョウセイ)される若い子の気持ちなんて。

そして、本当にそうだったんだなぁとバカ正直に思ってしまう私の気持ちなんて。

「ああ...分かるよ、それじゃ綺麗事であっても本末転倒だろう?」

「はい。」

先生には筒抜け。

そこまで私が飼っている天邪鬼なんて単純ってことなんだろうな。

タチが悪いとすらも言えないただのわがまま。

「そうだね。歌で人に希望や勇気を与えたいのがもとならば、過去に囚われてしまう今の風潮は、一概に良いとは言えないかもしれないね。」

「そう、結局過去が全てなんです。

あのときが懐かしいなぁってただ思いたいだけなら、ここまで若い子が忖度することはないんですよ。」

「前を向いてほしいよね。」

「はい。」

先生はわらった。

「私って性格悪いですか?」

「君は悪くない、器用(しょうじき)なんだ。

だから俺はむしろもっととがろう?っておもう。

若い子の特権だよ。」

「...だって、いくら過去の素晴らしい人の真似をしたって、とても上手な歌をうたっても、結局私はあの頃の人たちの苦労とか感情?とかまったく理解できるわけじゃないので。

だから、どうなるかって分かるでしょ先生。」

「結局は、あの頃とは違うとだけいわれるんだろうなぁ。」

最初はわたしだって、みんな寛容だと思っていた。

素敵な歌が、これからも歌い継がれていくのならば微笑ましいとみんな思ってくれるだろうと。

だから、うた声は磨いてきたつもり。

でも...待ちうけていたのは、大概はそんな評価。

みんな、見た目が全てではないと言いながらもそれだけを気にしている。

わたしの歌なんて、べつに聞いてないんだ。

...ここで、今のうち若い子からいっぱいお話をきいておくんだ、と言っていた目の前の彼をわざわざ思い出した。

「...そういえば先生の格好って、どこか古風ですよね。」

「ううん、これは大したこだわりがなければ自然とそうなるだけだよ。」

「...あー...。」

古着なわけじゃないだろうけど、そうはいっても目新しいものなんて社会全体から無くなりつつあるってことだな。

どこか昔にあったような、見たことあるデザイン。

みたことある服装、みたことあるマンガにみたことあるうた...。

「でも、先生なら変えられるんでしょ。」

「きみは、俺が全くのゼロからイチまでをつくれるひとだと思う?」

「やろうと思えばできそうとすら思いますけど、そんなの意味がないって言うんでしょ。」

先生が目を丸くして驚いている。

驚いた表情のまま、

「そもそもピアノには弦を弾く音階と強弱しかないんだよ。」

あと若干の伸びしろ...?

とか言っていた。

「でも、元は何かのアレンジでもいいからもっと違う感じがいいんです。」

「うん、きみの歌をね...きいてほしいよね。」

そう。

今はただ前を向いてほしい。

そうやって前だけ向いてわたしのうたをよそ見するのならいい。

ただ、後ろだけ向かれても、顔が見られるわけじゃないから困る。

わたしは元から、大人たちに期待なんてしてはいなかったから。

将来は子どもたちに、輝く未来を歩んでほしい。

そう言って生き急ぐ大人もだいぶ減ったのだと知ったのだから。

そしてただ、過去に囚われるだけ。

わたしもそういう大人になっちゃうのかな。

「でもね、今日はちょっと楽しい歌にしようかな。」

「楽しい歌?」

「うん。きみ、最近わくわくしたことって少ないでしょ。」

「わくわく...そういえばないですね。」

「そういったときにいい歌がある。」

といって、彼は明るく楽しい曲調の童謡を弾き始めた。

童謡か...確かに先ほどまでの歌謡曲とはまた違ったセンスが試される...?

いや。

間奏にクラシックっぽいのを挟んだり、別の童謡へうつったりと、だいぶ自由なアレンジをしている。

ついていくのがやっとだったけど。

...たしかに、ちょっと楽しいかも。

次はどんなアレンジがくるんだろう...なんて。

前半のわがままジトジトモードから打って変わって、私はこれならもっと、もっと歌いたいなぁってすなおで晴れやかになっていって。

気づいたらとまらず終わりの時間ギリギリまで歌ってた。

...で。

私が1番気に入ったのは、その終わり方。

潔くてとってもすっきりした。

...ああ、これがわくわくってやつなのかな。

「え、タカトーさん。どうして笑ってるの?

俺の演奏そんなに変だった?」

なんて終わり際彼が言うものだから、もう思わずおおぐち開けて笑ってしまったじゃないか。

ほんと、こんなに笑ったのは久しぶり。

「先輩...それ、やっぱり今みたらめちゃくちゃダサいですっ!」

「え!?」

そう、たしかによく見たら、彼がかけていた眼鏡のカタチはちょっとおかしかった。

それになにより...かけ方、なれてないから変なふうに曲がったりしてるのにも気づいた。

そうそう、わたしの悩みなんて、そんなちっぽけなものだったんだな。

...ただ、わたしにとって、(フレーム)が古くて変なかたちだっただけ。

だから、似合うように何かべつのものをかけ直せばいいだけ。

むしろかけ方がおかしいなら、かけなくても、いいんだけど。

彼はまたわたしにそんなことを教えてくれたんだなぁ...しらんけど。

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