表現者への演奏家4
「つくりばなし。」
何の話の流れかは忘れたが、彼は作り話をしたときのことを語った。
まあ、私が身の上話でも突っついたからだったと思う。
話の概要はこう。
「あるとき、腹を空かせた兎がいた。
兎は、空いたことがとてもくるしくて苦しくて、藁にも縋る思いで、人間の老人の家に助けを求めようとした。」
すみません...わたし...、
わたしに...どうか...、どうか
すこしだけでも、たべものをめぐんでくださ...っ
「言い終わるや否や、兎の小さな胸には、見事な針が刺さっていた。
いいや、これは人間にとってはそうだが、彼にとっては生命を絶やすための刃そのものだったのだ。」
兎は、胸にひろがる絶望の色をみずに、ただただ老人夫婦をみた。
彼らは笑っていた。
ほそくまだ小さいが...それゆえに柔らかい肉がやってきた、と。
...そう、
彼はまだ、おさなかった。
「...。」
...。
「たぶん、これがつくるってことなんだと思うよ。」
「は、い...、...?」
「このつくり話は、兎が自ら身を捧げた逸話をきいたあとなのさ。
若いときはね、このくらい捻れたつくりばなしをするものなんだろうね。」
「...あの...それいつ作った話ですか?」
「俺が10になるときかな。
そのときは、兎になりきったように演技してきかせたから、自分でやっててとても悲しくなったよ。」
「...だれに...?」
「ああ...今のはあくまで要約だし当時は言葉も達者じゃないよ。紆余曲折拙い話を経て。
でも、たべものを...っていうセリフはあんまり変わらないね。」
兎なのに喋るし。
と、彼は変に気を逸らそうとする。
そんなことじゃ...。
「ささじゃーたか、でしたっけ。」
「やっぱり君は博識だね。
それ、あまり言及はしないで。
こどもがつくったはなしだ。」
...10で末恐ろしい話をつくるものだ。
いや...10になるのだから9...?
分からないけど。
、
「さ、今日もはりきって歌おうか。」
「せんせー...気分は最悪でーす...。」
「あはは、まあ少しでも心がぎゅーってしたなら君はやさしいひとだね。」
やさしそうなおとな...に、
たすけをもとめたおさなご...。
...い、いやだ。
私はそんな「理不尽な大人」にはなりたくない!!
「...いや...、あ...。」
知らないうちに、彼がピアノを触っていた。
...ああ...だからか。
「先生、今回はピアノは、なしじゃなかったんですか?」
「うん、まあこれは、びーじーえむ。
あれば生えるので。」
...彼の悪戯って本当にタチが悪いことが分かった。
元はわたしが悪いんだとしても。
「仕返しが過ぎます。」
「ごめんなさい。」
「...歌います。」
「はい。」
その後、彼は私に歌を教えた。
でも、やはり教え方はおかしかった。
まるで私が歌ってきかせ、彼に教えているかのようなペースの持っていきかただった。
もちろん、気持ちを入れすぎると発音がやや疎かになり呼吸やリズム感に影響するとか、
音域の差による発声法を克服できたとは言えないとか、
そういったわりと初歩的なところで躓いていることを教えてはくれたが。
彼はまたどこか裏の拍子をとるのが好きなようで。
「いや、そうではなくて...だよ。」
「何がですか?」
「きみがとても鋭く気づいて、うたいかたを自分で直すのはとても良いとは思うんだけどね。
プロとして美しい響きを意識する、そのちょっと手前くらいであっても俺は良いと思うんだよね。とてもひとらしいじゃないか。」
「たぶんですけど、要するに、
こどもらしい歌いかたが好きなんじゃないですか?」
「うん。」
やっぱりね。
まあ最初からそう言っていた気がするけど。
子どもとか、若いひとならではの少しくずれた歌いかたを良しとするというか、好きなんだろうな。
そういうへそ曲がりなひと。
なんでへそ曲がりかって、自分だってかなり若いからだ。
わたしとあまり変わらないはず。
「そういうのって、人生周回した人かおじさまが言う台詞ですよ。」
「うん。」
さすがにそれは信じ難い...。
と、思ったけど。
「ああ...でも、先輩にはピアノ(さいのう)があるんですものね。」
そう、先輩はピアノ(チート)が使えるからだ。
「だからこそですけど。
今日は、先輩のピアノなしで私の本気の歌きいてくださいよ。」
「もちろん。
おれは
きみのうたがだいすきだよ。」
は、い...、...?
...彼の悪戯って本当にタチが悪いことが分かった。
元はわたしが悪いんだとしても。
「仕返しが過ぎます。」
「ごめんなさい。」
「...歌います。」
「はい。」
その後も彼は私に歌を教えた。




