表現者への演奏家3
「...高遠黎子さん」
「RE-KOです。」
「今はレイコだっけ。」
「はい、まあ。」
「レイコさん、でいい?」
「うーん、やっぱタカトーで。」
「はい、タカトーさん。」
彼はいつもの笑みを浮かべた。
「あの、フルヤ先輩。」
「ん?」
「その譜面なに?」
「ああこれ?
君のグループの一曲を任されたからね。」
「...ふーん。」
つまんない曲。
わたしはするっと譜面を簡素なファイルに戻した。
「身の丈に合ったものをつくらないとね。」
「...引き返す(ソロに戻る)って言ったのに。」
「まあ、滑り止めはあってもいいかもしれないし。」
「自信ないの?」
「まったく。」
私がどう思ったかなんて言うまでもないけど。
挑発には態度でのらないことにしている。
「...じゃあきかせて。
持ってるんでしょ、私だけの曲。」
「ん...。」
「恥ずかしいの?」
「いざというときはちょっと自信なくすの。」
変なひと。
でも、ほどなくして折れたようでピアノを弾き始めた。
そのまま1コーラスほどで止める。
「どう?」
「...良いんだけど、
正直言うと、ちょっと足りないところがあるかもしれないです。」
「そうだね。」
「これもわたしの身の丈に合った曲なの?」
「いいえ。
仕上げのスパイスは折角ならここでと思ってね。」
「え?まあ...、
じゃあ覚えたので歌入れましょうか。」
「...おねがいします。」
たまにこうやって向こうからへりくだる。
というか、会話の間も含め急に変拍子...みたいな。
彼の音楽性がすでに彼の人柄に現れているんだろう。
彼がピアノを弾き始める。
わたしは自分なりに歌を入れてみた。
彼が色んな工夫を入れてきたことはわかっているが、流石に慣れてきたのか、頭がグワんぐわんする感覚はなくなっている。
まあ心地良くはある...といったかんじ。
...なんだ...。
「つまんないな。」
「...。」
「...すみません。」
彼は時間差で笑みを浮かべた。
それは一周して機嫌を損ねた顔なのかもしれないと思って、根は人見知りな私は少しだけこわくなる。
「...〜」
今度は彼が、手帳を開いて書くとか片手間の作業をしながら、さっきまでの歌を鼻歌でハミングしている。
...これは怒ってるのかな。
「...あの...。」
「タカトーさん。」
「あ、はい...。」
「俺ね、こういったやりとりがすごく好き。」
「え...。」
「君はやっぱりプロだね。
ここでおわるうつわじゃないよ。」
上機嫌...ってことでいいの...?
「あの...怒ってないんですか...?」
「え??!」
あ、ちがったみたい。
思いっきり意外なこと言われた顔された。
...びっくり。
するし、その後ちょっと居住まいを正して、
「ごめん...気に障った?」
とか言ってくる。
「いいえ。
むしろさっきまでそう思ってたのは私なんですけど...。気に障りました?」
「まったく。」
あ...さっきのまったくとは全く違う。
ああ...もう...。
「とりあえず、もう一回歌います...。」
「だいじょうぶ?」
「大丈夫ですから、もういっかい。」
「えがおさく〜」
おい。
...でも上機嫌なのには変わりなく、先輩はまたピアノを弾き始めた。
ので。
「...!」
...油断、してた...!
「うたえる?このまま...。」
「あ...やばい、かもしれない...ですっ」
「がんばれっ」
...なんだこのひとっっっ
やっぱり手加減だったんだっ!
うう...まけるか!!
そのまま演奏を止めないので、こちらも負けじと食いついた。
メロディと歌詞は覚えたのに、今歌ってると全く違う歌におもえる...。
うう...胸が...。
鷲掴みにされてる...っ
...やばい...このままじゃ...!
...。
「...ぁ...おわ...った?」
「おわったよ。」
「先生、わたし流石に途中から何も覚えてないんですけど。」
「うん、うん。」
先生は今度は淡々と五線譜にペンでお玉杓子を置いていく。
そして最後余白にQ.E.D.みたいな変な記号を流した。
「うん、おわった。」
「...あ...。」
「ここ、きみががんばって歌ったメロディだね。
とてもおもしろいとおもうよ。」
「...あの、毎回こんな感じで作曲するんですか先生は。」
「いいや。基本は自分で作るよ。
今回は、レッスンの内容が思いつかなかったから試してみただけ。
きみ、本来レッスン必要ないくらい歌上手いし。」
「だからって...。」
「次からはちゃんと教えるよ。
しばらく俺のピアノ(ちから)はおあずけで。」
「え!?」
わたしがびっくりするはずなのに、わたしにびっくりしたのか、彼は驚いていた。
...今更だけど、掴みどころがない。




