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表現者への演奏家2

小さなスタジオで、またレッスンがはじまった。

降矢(ふるや) 奏一(そういち)です。

よろしくお願いします。」

「あ...はい。」

フルヤさんは乾いた笑みをこぼした。

「やっぱり。俺のことわすれてたね?」

「いや、そうじゃないんですけど。」

「だって名前言っても、君はどこか別のところを見ていたよ。

俺の目を真っ直ぐに見ながら、別のことを考えられる子なんだ、最近の子ってそんなに器用なんだなって思えた。」

「いえ。そういう先生は若い子キラーだなって思っただけだとおもいます。」

「え、きらきらしてるって?」

「はい。」

外見どこか着飾っているわけではないけど、内面は一生懸命着飾っている感じがする。

別に悪い気はしない。

「そもそも、そんなに歳変わらない気がするんですけど。」

「おれのことおにーさんとでも呼んで。

老いたい...。若さだけはどうにもならんっ」

「へえ...その若さこそ楽しんでる気がしますけど。」

「だって、若いと君みたいな子がいっぱいお話きかせてくれるからね。」

今のうちいっぱいきいておくんだ、だって。

なんだろう、新手の口説き文句かなにか?

自分に自信はある人なんだろうな。

実際、その後のレッスンパートでは私はその自信とやらに翻弄されっぱなしだった。

「つかれた?」

「はい、憑かれました。」

「ふふ...きみには色んなことが通じるね。おもしろいよ。」

「いいえ、いえ...。分からないですよ、なんなんですかこれ。」

うまく、言語化できない...。

「きみには、周回をしてもらいました。」

「はい...。」

同じ曲を何度も歌わされた。

「でも、それぞれがそれぞれ、きみの良いところが出ていたね。」

「ち、ちが...。

それは先生が...。」

「どれを選ぶ?」

「え...。」

それこそ分からない。

「うん、じゃあ種明かし。

きいててね。」

また先生はピアノを弾き鳴らしはじめた。

頭がまたグワんぐわんと掴まれて揺らされる感じがした。


そうだね、これが「気持ちがこもった歌」ってやつだ。前の先生や、プロが本来目指しているものに近い。

でもこれは誰にでも良いというものじゃない。むしろゆらゆらゆれすぎてる。ひとによるライブにはいいかもしれないけど。

まだ子どもにうたわせるものじゃない。


これは、誰にでも「売れる」歌。

さっきのを少し抑えたと感じればいい。

ゆれながら、ときおりどこかに飛んでいきそうだが、

そうはいっても

それが「音源」の限界なんだというくらいのちょうど良さ。

そ。曲がきょくだしウケるかどうかはともかくとして、売ることはできるね。ほんとは中庸(ここ)にこそこだわるのがプロ...なのかもしれない。


他にも、これはカラオケで点数が取れる歌、宴会で映える歌などいろいろあったようだが。


思わず口ずさんでしまったのは。


...これは、若いときにしか歌えない曲かもしれない。

とかれはわらった。


「前のレッスンで話したとおりだよ。

世間とは、少し距離をひらいた歌いかたなんだ。」

「世間知らず?」

「ああ。でも、私は世間を知りたいときにこそ歌うものだと思っている。

そういった正直なうた。」

悲しいかな、今きみが行こうとしている道は。

芸能という道はまだまだそれを良しとはしないんだ。

良しとしても、それを演出として利用するだけ...なのかもしれない。

まあそれをたのしみとしているここらの文化人たちもよっぽど感受性というもののキョウヨウがあるのかも。

だからアイドルという道に携わるのも悪くはないかもなって。

「...やっぱり、アイドルを食ってきてますよね。」

「え、なんかすごい言い方だね。」

でも、これが演奏家(このひと)の実力...。

にわかには信じがたいが、彼は演奏で歌い手の表現を引っ張っていってしまう力があるんだ。

実際、私が目指せと言われていたプロっぽい歌いかたも何のことはなくやらされてしまったのである。

彼が、ピアノを演奏しただけで。

「先生はピアニストで良いんじゃないですか。」

「うんまあ。でも、興味があるかないかで言われたら、こっちの方がよほどおもしろいからってだけだね。」

「...天才ですね。」

「ありがとう。いっぱい努力したんだよ。」

「それで、悪魔に魂でも売ったんですか。」

「博識だねぇきみは。

まあ間違ってはいないかもね。

俺が魂を売ったのは、一体なんなんだろうか。」

芸能人ってみんな、魂を売る仕事かもね。

なんてそのひとは素直にわらった。

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