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うたいて

ひと月が経った。

もうすぐ本番だ。

彼女は、それまで気丈に振る舞っていた。

本番直前のリハーサルでも、特に変わった様子は見られない。

淡々としている。

こんなにもおおきな。

大きな虚無感漂うステージで。

ずっと、歌も、ダンスも。

ふたりで考えた粋な演出もすべて。

たったひとりで、入念にリハーサルをこなしていたのだった。



彼女のさいごのステージは、評判(ひと)を集めるには十分だった。

それまで、何度も公演を成功させていたからだ。

このひと月でさえ、何度も。

なんども…何度も。

彼女は何曲も歌った。

彼のつくったものは、のこしたものは、いくつもいくつもあったからだ。

でも、もう彼の演奏はきけない。

別れは、本当にとつぜん、やってきたのだから。

彼を失ったあと、流れているものはまったく別のもののように感じられた。

…いいや。

そんなこと、聴衆には関係ない。

確かに、彼のことは残念で不幸なことだったかもしれないが。

彼女は、公演は中止しないと声明を出した。

それが、失われた彼のためだと思ったからだろうか。

すでに別れを持つ者たちへの励ましのためか。

しかしいずれにせよ、彼は主役ではなかったのだから、彼の演奏がないことに。

演奏者を失ったことに、「そのもののかわりよう」に…。

「本当に」気づいた者はいなかった。

彼女だって、ステージの主役になりたいわけでは、なかったはずだ。

むしろこれは彼が用意した、まっさかさまな落とし穴のようなもの。

だからこそ、ひとりで本番をむかえ、

また、何度もなんども。

何曲も。

好きだった彼の歌を、うたいつづけた。

淡々として。

さいごの、最後…まで。



さいご…まで…?



セトリの最後を歌いおわり、彼女のステージが終わった。

彼女は、気丈な笑顔で感謝をのべ、ステージをおり…喝采のなか去っていった。



アンコールの声が沸き起こる。

予定にはなかったが、彼女のうたがとても素晴らしかったからだろう。



それでも。

彼女は、そんなものはさいしょから求めていなかった。

そんなこえが沸き起こるまえに。

用意していたうたが、あったからだ。



会場がいっそう、くらくなる。

そこへ、彼女の歌声が響きはじめた。



そう。

これはアンコールではない。



エンディングの、じかんだ。



この物語を、そのすべてを…きちんと終わらせるために。

彼女は、さいごの力を振り絞り、淡々とそのうたを歌った……。

ピアノ(かれ)だけを、まえにして。

うたわない



わたしはもう うたわない

つまらないわたし(それだけのこと)しか わからないから



いきることも たいせつだとおもうことも

「じぶん」で みつけてきたわ

きみ(花)はきれいだ どうせそうおもってるんでしょ?

わたし(さなぎ)はまだ ハナなんかじゃ(むしでしか)ないのに


なにができないことだった?

わたしだからわからない?

けっきょくここへ のこさなかったね


なにも


私...わたしはもう わらわない

これからもひとりきり なくことしかない

わたし...わたしはもう

こたえない

くだらない?

わからない...

まだほんのすこしとも いわないから



生きる意味って 愛ってどんなことなのよ

ひとりじゃ わからないでしょ

()はまたくる あなたそうおもってるのでしょ?

ここには ライトしかないのに


ほんとに がくふにがてね?

まっしろでも わたし(みせ)てよ...

たんじゅんなこと そちらこそわかんない?


なにも?


私...わたしはもう うたわない

こんな曲奏でるの 簡単 じゃないから

わたし...わたしはもう

きこえない

もどらない

わからない...


あとほんのすこしでも いてくれないから

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