表現者
すこし遅れてしまったかもしれない。
スタジオ(会場)につくと、スタッフが集まっていた。
「遅れてすみませんっ」
それで、彼はどこにいるんだろう…?
「え…まだ来ていないんですか?」
めずらしい…。
いつも、誰よりもはやく着くくらい足がはやいひとなのに…。
それも、
ごふん、じゅっぷん経ってもまだ来ない。
…どうしたのかな…。
練習をはじめてしまおうか、という声もあったが、そこは待ってもらっていた。
ひとまず連絡してみようとしたが、繋がらないし、メッセージも既読すらない…。
それは他の誰であってもそうだった。
彼との連絡が途絶えてしまった…?
いったいどうしちゃったの…?
時間がいっこく、一刻と過ぎていった。
もうずっとずっと時間が…。
何度もなんども、みんなが先にはじめてしまおうと言う…。
でも、わたしは…。
すこし、待ってよ…。
おねがい…、
待って、ください…。
だってこの練習は。
この音楽は。
おんがくは、ぜんぶ。
彼がいなくちゃ、意味がないんだもの…。
どこにいるの…そういちさん。
でんわにでて…。
これをみて…。
みんな、しんぱいしているから……。
そういちさん…はやくきて…!
あいたいよ…。
そういちさん…。
あいたい。
そうでないと、わたし……、
あ、
「そういちさんっ!!」
ばたん、ととびらが勢いよく開け放たれた。
そして彼がそこに……
「…え…?」
いっしゅん、そうみえたのに……
あわててはいってきたのは、別の誰かだった。
若い人だ。
息が荒く、血相を変えて。
彼はわたしをみると、すぐに目を逸らした。
あわてて。
いえ…青白い顔で、うつむいた……。
代わりに、ふらふらと別の誰かに耳打ちをする。
きこえない、なにを言っているんだ。
声がちいさい。
もっと声をおおきくしてしゃべってくれ。
みみが、すこしわるいひとだったのだろうか…
いいや、すこし年配だったが、そんなことはない。
若者のこえが、ふるえていたのだ…。
ふるえて……いる……?
どうして……?
え…じたく、の…
クローゼット、で…?
若者がびくりとして、必死に首を振りつづける。
そ…んなにおおきなこえ…じゃ…
かのじょに……きこえ……
え
まだ……わからない、から……
しずかに……
いいや……
わかった。
かくにんをとるから、
きみはもっと、れいせいに、なりなさい。
れいせいになれ。
たいして、ふるえてなどいない。
こんなこえがきこえたのもきのせい。
ただ、おくれるとれんらくがあっただけ。
そうでしょ…?
黎子さん。
…はっきりとした女性のこえが、わたしの肩に手をおいて声をかけた。
今日はひとまず、あがりましょう。
「え…なにがあった、んですか…?」
なにがおきたのかは、まだわからないから。
あがって、わたしたちといっしょにいましょう……?
「やだ、な……なに……なにが、あったの……?」
黎子さん…、
まだそっちに行っちゃだめよ
だめ、……だめです。
なにが、だめなの……?
あ
あ…
え
なに……??
なに、なに、なに…なにこれ、なにこれなにこれ!!、!!!!!
なに、なにが、なにがなにがなにが…………
なにがあったのよ
「かれは……いま、どこにいるんですか……」
「……」
「そういちさんは…無事ですか……?
……無事ですよね……?」
だれか、
そうだと、いってくだ……さい………。
きのう…かれにいったいなにがあったのか。
みんなはしらなかったのか…?かれのクロウのすえ、けいやくした神(正体)を。
とても……そのおとは、おぞましいもの……?であろう……だって彼のホントウは、
いっしょに、きみ(理想)と…逝きたかったのだから。
きみに、おしえてあげよう…彼の、心の中に住まう、ミにくい神(本質)を。
たなとす「Thanatos」(死への衝動)だよ。…でもかれは、けっきょくひとりで、
くるしんだ…すえに、
なにも……彼女に伝えられず。
いのちを、絶って……しまったようだから、ね……?




