表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/35

表現者への演奏家23

あのあと、結局手の込んだ食事も作ってもらって、泊まり込んでお世話になってしまった。

元からそのつもりで、きたんだけど。

でも、私の前ではあれほど抜け目なくても、気になったことは。

…彼はまた、何度か電話をしていたことだ。

仕事の電話だといって、何度か。

キッチンにいるときも。

しかも、夜更けでもお構いなし、といったかんじ。

むしろ時間が遅くなるほど、かかってくる電話がある…といったような履歴…。

みて、しまったのは申し訳ないけれど。

でも…なぜか、電話帳には電話番号が思ったよりも登録されておらず、数件か常連みたいな電話番号があるのに、それらの名前が登録されていない。

…誰か特定の著名人だと、ふとしたときにそれが誰か流出したら困るから…?

…いや、今どき芸能人ですら、メッセージグループでやり取りでしょ…?

それに、メッセージ自体も思ったより少ない。

…そういえば…。

前のデートのとき話していた人は、メッセージを送ってきたと言っていたのに、それらしい履歴も見当たらない。

…消したってことじゃないよね…?

「ねえ奏一さん。

そういえば、あれつけないの?」

「あれ?」

「うん。お揃いで買ったでしょ。ストラップ。

わたしは携帯につけてるよ、ほら。」

「…なんだか、使っているうちに、落としたりなんかしたらもったいなくて。」

「えー、まあ確かに限定品だけど、おとしてもどこかに売ってないことはないでしょ?」

「そうかもしれないけどね…。」

いや…そういえば。

買ってすぐ、2人でつけたような気がするのに、わざわざそう気づいて外したってことなの…?



「レイコ」

「あ…はい、ミユキ先輩。」

「最近、どこかうわのそらだねぇ…一応仕事中(打ち合わせ)なんだけど?」

「…すみません…。」

「まあいいけどさ、アタシとレイコの仲だし。」

彼女は、元はモデルだが今はその事務所の管理部で働いている先輩。

ひとまず、多めに時間はとってあるので、話進められるところまで進めようとのこと。

そのあと食事に誘われた。

彼女との打ち合わせは、最近いつもこんなかんじ。



「ねえレイコ、さっきなに考えてたの?」

「あ…いえ。

仕事のこととか、ですかね…。」

「ふーん…なら、いいんだけどさ。」

彼女はこんな感じで、しばらくふくみがあるような相槌をうっていたが。

「そういえば、なんだかんだいって久しぶりじゃない?

ここで食事するのもさ。」

「そうですね。

あ、ほら…ここで食事するときっていつも、わりと改まって重要な話すること多いから。」

そんなにお堅いレストランじゃないんだけど。

景色だっていいし。

「…ああまあ…それはご明察…かもね。なーんて。」

「え、どうしたんですか?」

「いやぁー…、レイコには、ちょうどいい機会だし先話しておこうかなーって思って。

…アタシ、結婚するの。」

「え、ほんと?

ミユキ先輩、おめでとうございますっ」

「うん…ありがとう。」

ミユキ先輩は、はにかんだ笑みをうかべた。

…しあわせそうでよかったな。

「レイコは、いい人いるの?」

「え、いやなんでわたしの話なんですか…。

せっかくですから、ミユキ先輩の話きかせてくださいよ。

どういうひとなのかとか、どこで知り合ったのかもわたしきいていないですよ?」

「だってさー…。ずっとうわのそらじゃん。

アタシより、こっち気にしてくださいって言ってるようなもんだよ。」

「えー…?そんな感じだったかなぁ…。」

「で、いるの?」

「うーん…まあ…。」

「やっぱり。えーだれかなー…?」

「…そんなこといって、先輩薄々気づいてるんじゃないですか?」

「んー?なんのことかなー?」

「誰かって…いうのは…。」

「…あー…。」

降矢奏一くん?

私が頷くと、

「やっぱり。」

と、先輩は言った。

「やっぱりって…それこそやっぱり先輩知ってたんじゃん。」

「いや知らないよ。

あんたたちどこまでいってるのかもさ。」

「別にどこまでってことは…ないですけど。

たまに、デートしたり、お家おじゃましたり…。」

「……」

「え、いや…。

もちろん、親には許可とってますし、だからってなにかしたとかじゃないですよ?」

「でしょうね。」

「でしょうねって…。」

「だって、レイコにまで手出したら、

アタシ、あの男のこと許せないから。」

…え?

「…だって、レイコだって最初言ってたじゃん。

あの人はおそらく色んなアイドル食ってきてる男だって。」

「そりゃあまあ…だって、あんな人ですから。モテそうだし。」

「それが、なんでレイコにかぎってこうなるわけ?」

「あ…あの先輩…。

なんていうか…私見かけで判断しちゃって…変に人間不信みたいなとこあるし…。

でも、話してみたら、そんな人でもないってわかったから…。」

「……やっぱりしらないんだ。」

ミユキ先輩は、私にきちんと向き直る。

「ねえ、レイコ。

アタシ、彼の音楽に関してはすごいと思うよ。

それは否定するひとは誰もいないの。

黎子も、うたすごいし、ユニットとしてはお似合い。」

「……はい。」

「だけどね。

アタシ、こんなとこに勤めてるし、マネージャーもやったことあるから、彼に関しての話はわりと近しいところで色々きいているのよ。」

「……はい?」

「レイコ、とりあえずきいて。

もし、降矢奏一くんと付き合っているなら、別れたほうがいいとおもう。」

……は?

「いや……先輩、てっきり私、先輩ならわかってくれるものだと…おもってたんですけど。」

「ごめん。

でもさ、実際…、彼と知り合ってどれくらい?

彼のことどれくらい知ってる?

客観的に、黎子なら考えられるよね。」

「……。」

「彼はなんだか訳ありってことも、一応は知ってるの。

だからこそあんな芸術的な音楽作れてるのかもしれない。

芸術では、才能があり苦労や努力だってして、だからあんなに立派な人になってるんだとは思うよ。それは黎子のかんじたとおり。

でもね。」

「先輩……もう、いいですから……」

「きいてレイコ。

本当に色々あるのこれは。

例えば、どうして彼のマネージャーさんがやめたのかきいた?」

「家庭の……事情だって。」

「彼は耐えられなかったの。ついていけなかったんだって。

……降矢奏一くんの、パワハラに。」

「あの…それはどこからきいたはなしですか。」

「キサラギさん(かれ)本人に、直接…相談を受けたの。

他にも奏一くんがときおり、人が変わってしまうって話はここらでは有名なの。

黎子は…そんなことを感じたときはない?」

「ありますよ。

でもそれは、彼が自分の正義を貫き通そうとしたときです。」

「正義って…どういうとき?」

わたしは、デートであったときのことを彼女に話した。

それでも、彼女は驚きはしなかった。

なぜなら。

「そう……彼ね、なんというか……。

彼の中でね、曲がったことがあることが許せないらしいの。

彼なりの、信念ってものはあるらしくて……確かにそれで良いように変わった事もあるのよ。だから一概に言えないっていうのは確かにそうなの。」

「……」

「でもさ…、彼、そのあと隠したり、逃げたりしなかった?」

「……」

「ふだんも人はいいのよ。

だから、いろんな人の相談にものってあげて、それで惚れやすいってのはあるみたいなの。

相手の子もだし、奏一くん自身も。」

彼が、わたし以外のいろんなひとに…?

確かに、そんな性格ではあるのは知ってるけど、でも…それは。

「アタシや、管理部…そういう視点からみるとね、

相手の子がとっかえひっかえなの。

外にも迷惑かけた話だってなくはない。

レイコでなければ、それは…そういうもつれた恋愛の話は仕事とは別の話だし、そうで済めば良いんだけど…。」

「なにが……いいたいんですか。」

「最初もいったとおりだよ。

彼の音楽に惚れて、それで彼と仕事をしたいなら、ちゃんと線引きができるならすれば良いとは思う。でも、プライベートには深く関わらないほうがいい。

だって、レイコ……歌手として舞台に立つのはレイコの夢でしょ?

レイコには夢があるじゃない。」

「ゆめなんて、当たり障りのないものでしょ。」

「それも、彼の言葉?」

「……」

「じゃあアタシも、あえて。

彼がどう言っているのかをありのまま話すね。」

ききたくもない言葉を、彼女は話し始めた。

うそだとおもって、きいているしかなかった。

「彼は、自分が惚れやすい性格であることも、曲がったことが嫌いなことも、そういう…別の自分がいることも自覚はしているんだって。それは申し訳ないともおもってる。

でも、今は正直冷めてしまった。なぜなら自分は仕事に集中しなきゃいけない。

それなのに、レイコには毎回家に押しかけられたり、デートに連れていかなきゃならなかったり、交際をしつこく迫られたりしている。彼にとって仕事以外のことをするのは迷惑で苦痛でしかないんだって…。」

「……」

「こうやって、彼にも頼まれてることなの。

自分じゃなかなか断りづらいから、まずはありのままを客観的に話してくれる人が必要だった。

アタシはレイコがかわいくて、大事な後輩だからっていうのもあるけど、

こうやって仕事で言いにくいことも言わなきゃいけないの。」

「……しんじられません。」

「それは、アタシが苦手だから?」

「……そういう、ことじゃなくて。

どうしてそんなことをいま……」

「だってさレイコ。

アタシみたいなひと、苦手だよね。

アタシみたいに、自分(性別)を変えたひとは、自分を偽ってるひとだって、思うんでしょ?」

「そんなこと……いってないじゃ、ないですか……。」

「アタシにも訳があるって、レイコは表面では理解してこうやって仲良くしてくれるけど、どうしても苦手なことはあるでしょ?

だから、そんなひとが言うことは信用できないって、おもってる?」

「そんなこと言ってない。

勝手に分かったように言わないでください。」

「うん…そうだね。

ごめん、これはアタシも冷静じゃなかった。所々、そういうところもあったよね。

でも、どっちみち…そのあとは自分で話すって、彼も言ってるの。

だから、彼と話をしてごらん。」

彼と…話を…?

こんなことをいわれて、なにを話せば良いの…?

わたしとおそろいの、ストラップ…、

迷惑で苦痛だから、外したんでしょって…いうしかないの…?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ