表現者への演奏家22
「…れいちゃん?」
「ごめんね奏一さん…きちゃった。」
「よくきたね、とりあえずあがって。」
彼は私を家に入れた。
それから、リビングでお茶をだしてくれる。
「仕事のかえりかな。
でも、もう遅くなってしまっているよ。」
「大丈夫です。
遅くなるからって許可はとったもの。」
「このあとちゃんとお家まで送るよ。」
「泊まっていいって、言われたけど?」
「…あしたも仕事だったはずでしょう。」
「一緒のしごと。」
「そう…だったね。」
彼はあきらめたようだ。
テレビをつけてもらうと、お堅い情報番組がやってた。
「そういえば選挙、あるんでしたっけ。
奏一さんって、投票いきます?」
「行きます。」
「え、すごい。意識高いんですね。」
「いいえ…?権利ですから。」
権利…ね。
「わたし、政治とかよくわからなーい。
奏一さん、おしえて?」
「どんなことが知りたいのかな。」
「わたしが18になったら、どこに入れればいい?」
「…それは、俺が今回どこへ入れるかということでしょうか。」
「そうでもありますね。」
テレビ、つけてもらったけどやっぱり興味がなくて、携帯をみてた。
「…どういうこと…?」
「どうかしたの?黎子さん。」
「これみて。」
人気ライブをお忍びで見にきていたべつのミュージシャンが、たまたまスリの現場を止めたというおはなし。
どこかでみたことのある話なのだが。
彼はそれを見ても眉ひとつ動かさず、私にそれを返した。
「おかしいとおもわないんですか?」
「ちっとも。」
「だって、これは奏一さんの話でしょ。」
「わからない。
どこかで起きた別の話かもしれない。」
「じゃあこの記事みてよ。
確かに同じ場所でおきてた。」
「会場は広かったよ。」
「でも…。」
「彼はとても、的確にインタビューに答えているじゃない。」
それに、別々のひとが、それぞれの話をしているようだ。
…こんなひと、わたしは全然知らないのに。
……。
「あ…あった!」
「…。」
わたしが、ほらみろと見せた誰かのつぶやきも、彼はまともに見ようとはしなかった。
やっぱり気づいた人はいたのに。
「ふるやそういち…」
「…呼んだ?」
「奏一さんの名前、知られてないわけないじゃないですか。」
「うたが、素敵だからだね。」
彼はにっこりと笑う。
ねえ…俺よりいやなやつ、探してるんじゃなかったの?
それとも、こうやって探したってこと?
…彼はなにを探しているんだろう。
ますますわからないけれど。
「ねえ奏一さん、物件探してる…?ってことは引っ越すの?」
「…ああ、それね。
だってここもまあまあ遠いでしょ?」
「…また引っ越すんだ…すごいね、意識高い。」
「さすがに…仕事の都合だから。」
確かに、彼は仕事が以前に比べ忙しくなっているようだ。
「奏一さん、今どれくらい仕事うけてるの?」
「元々ゆったりしていたから、これが通常ペースですけれども。」
手帳を見せてくれたけど、週に1日休みがあるかどうか。
…なんで、こんなに仕事が?
「きみも同じペースじゃない。」
「いえ。わたしちゃんと休みは週に最低限1日、できれば2日以上まるまるとってます。
まだ未成年っていうのもあるけど、時間も固定だし。
奏一さんのは、どうしてこんなに時間がバラバラなの?」
「…不満なのは、分かるよ。
でも相手の都合に合わせることもあるからね、これは。」
「仕事相手…選んだらどうなの?」
「はい。しっかりと反省して、これは今月限りにします。」
ページめくると、確かにペースが戻ってる。
彼って、もしかして世話焼きみたいな性格だったりするのかな。
「マネージャーさんは?」
「おかげさまで、来月からきちんと管理してくれるひとがきます。」
「やめたんじゃ、なかったっけ。」
「うん。前の彼は家庭の都合があったようでね。」
「いい人だったんだけどなぁ…。」
「本当だね。残念だけど、うまくやってくれているといいね。」
…そっか…彼って、やっぱりある程度スケジュール管理する人いないとこうなっちゃうんだ…。
デートのときはあんなにしっかりしてるように見えたのに。
なんだかんだいって芸術家…だもんなぁ。
わたしがしっかりしないとだめかな。
…ひとまず、わたしはテレビのチャンネルを変えた。
バラエティをやっている。
会ったこともあるアナウンサーや、それなりに著名な俳優や歌手も揃って、何かトークをしているようだ。
…これも、そんなにまともに見てきていないから、面白さがよく分からないけど。
確かに、こんなにテンション高くみんなで話していれば、おもしろいかもしれない…とも思えてきた。
特に、生放送ともなると、若干ハプニングもあるようすだし。
…まあ、それも演出かもしれないけど。
「ね…奏一さん。
このひとこんなにおもしろいひとだったっけ。」
「ん?」
「ほら、少し前仕事で会ったことはあるじゃないですか。
でも、会ったときはなかなかに真面目そうなひとだったから。
こうやってバラエティで見ると、なかなか弾けるひとなんですね。」
「……。」
「奏一さん?」
「……うん、まあ……。
こういった芸風のひと……だったかな。」
「あー…。
確かにテンション高すぎて若干周りが引いている感じありますけど……^^;」
「……ごめんね、黎子さん。
俺、バラエティ(こういうの)はなかなかついていけないのかな。」
「あ、チャンネルまわします?」
私がリモコンを渡すと、彼はすぐにチャンネルを変えた。
それに、
「黎子さん。夕飯たべた?」
「まだです。」
「そっか。簡単にだけどつくりますね。」
「いいんですか??
ありがとうございます。」
彼は微笑んでからキッチンの方へと向かっていった。




