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表現者への演奏家19

たまには少し広い場所で彼と会った。

正確にいえば、待合するところだ。

彼はひらひらと手を振ってにこにこしている。

「おはようございます」

いつもこんな人だから安心する。

「おはよう、奏一さん。」

「うん。」

「今日もよろしくお願いします。」

「はい、よろしくね黎子さん。」

いつもこんな人だから、愛おしい。

でも。

今回は、ちょっとしたハプニングが。

がた...っと音がしたので振り返ると、

「兄さんはやいって!」

息を切らしながら待合場所にドタドタと入ってきたひとがいた。

(かける)、とりあえず落ち着いて息を整えたら?」

「いやなんであんな遠い場所からこんな早く来れんの...体力どうなってんだよ...!」

「だって自転車使ったじゃない。」

「あーもう...そもそも自転車で競走すんのが間違いだった...!

意外と坂多いじゃんここ!」

奏一さんがクスリと笑った。

それはそれで私にはしない笑いかただ。

いいなぁ...。

「ねえ君、兄さんが毎回どこから徒歩でここにきてるか知ってる?」

「知ってますよ、おうちお邪魔したことあるから。

電車でも遠いですよね、びっくりしました。」

「え、きみやっぱり兄さんと付き合ってるの?」

「そうだって言ったら...どうします?」

翔さんは、少し困ったように笑った。

それからなぜか照れたような表情をして、

「まあ...きみならお似合いだよ。」

と。

...兄弟なのはわかるな、たしかに。

「だって、デビュー曲きいたから。

...はっきり素直にいって、兄さんに釣り合うから認める。」

「ありがとうございます。

だそうですけど、わたし、弟さんから公認もらいましたので付き合っていいですか?奏一さん。」

奏一さん...。

なんで兄弟で同じ顔してるんだろ、かわいいな。

奏一さんは軽く咳払いすると、

「改めて紹介するね、俺の弟でバンドをやってる、降矢(ふるや) (かける)くんです。

翔、この子がボーカルの高遠黎子さん。一緒にユニット、組ませてもらっています。」

あら、改まっちゃって。

でも、お互いにっこりして礼をした。

若干、静電気くらいばちばちしそうだけどこの人とは。

まあ奏一さんのこともだし、音楽性とかも...。

「俺は演奏者の降矢奏一です。」

「それは知ってます/るって」

「うんよろしくね、ふたりとも。」

なんだか、さっき胸を張って自己紹介してたので、笑ってしまった。

翔さんは、けっこう声出して笑ってる。

「はぁ...おもしろい。

まあでも...確かに名前全然覚えられてないんだよねこの人。音楽はすげえのにさ。」

「不思議ですよね。」

翔さんはひとしきり笑ったあと、そういえばきいてよ、と慣れ親しんだ前置きで話し始めた。

「花見連れ出したときにさ、この人ずっと好きな子のことばかりなんだ。

実際ききだそうとしても、話はあまりしてくれないけどさ、見りゃ分かるんだ、乙女みたいになって変だったからさこの人。」

乙女...たしかに変だ。

「で、ここで合点がいった。

好きな子の前では変に強がってカッコつける、この人。」

今度は翔さんがくすくす笑っていて、奏一さんがさっき自転車で追い越された翔さんと同じ顔と仕草をしている。

なんかいいなぁ...きょうだいって。

「へー、奏一さんは翔さんとはお花見行ったんだ〜、いーなー。」

「見ての通り、花より団子だけどこの人。」

「やっぱりお団子ばっかり食べてたんですか。

前も一緒に食事行ったとき美味しそうに食べてましたから。量足りてるのかなって。」

彼のことだから、それなりに食べるペース合わせてくれてはいたけど。

「いーや全然。

食べてもたべても、美味しいおいしいはいいんだけど、そのあと何見ても美味しそうっていうからこのひと。

どんだけ腹減ってんのって心配になって、俺もあれこれ買ってあげるわけ。

申し訳なさそうにはするんだけど、そのあとめちゃくちゃ喜んで大事に食べるからさ、いやもう...もっと腹一杯になるまで食えよって。

...俺も食うからさ。」

結局花見じゃなくて、共々食い倒れになった。

それはそれで楽しそうだ。

とてもいいこと。

「この人はさ、彼氏にするより彼女にしたほうがいいよ。それに俺は弟であるのが歯がゆいよ。この人の親代わりになりたいんだ。

だって知らなかったんだよ、こんな兄さんがいるってこと。」

わりと最近までね。

...こんな弟がいるってこと、奏一さんもはやくに知っていれば。

あそこまでかなしいことは、もしかしたら...。

「れいちゃん。」

「...奏一さん。」

「おれ、すごくしあわせだよ。

れいちゃんも、かけるもいるから。」

彼は今日会ったときのような、にこにことした顔だった。

いつもこんな人だから安心する。

「今日は、3人で音楽やろうね。」

「うん。」

いつもこんな人だから、

こんなひとたちだから、いとおしい。

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