表現者への演奏家16
「るんるんだね」
「はい、だって。
わたし奏一さんと音楽できるんですもの。」
「え、そうなの?」
「あれ、きいてませんでした?」
「はい...今とてもびっくりしています。」
あれ...もしかしてサプライズするつもりだったのかな、かれらは。
「奏一さん、けっきょくわたしは、歌手としてソロデビューすることになりました。」
「...うん、おめでとう、黎子さん。」
「はい、それでもね。
メインの活動は、ユニットだってきかされました。」
「ゆにっと?」
本当に知らないのかな...。
「奏一さんに、曲をつくって演奏してもらえるって。」
「...。」
本当にびっくりした顔してるんだけど。
「そういえば、近ごろ仕事がひとつ入りまして。」
「はい、おおきな仕事になりそうだって奏一さん前に言ってたから、わたしちょっと嫉妬したの。」
「嫉妬...ですか。」
「うん...。」
わたしが思いのほか甘えたような声を出してしまったのに自分でもおどろいた。
けれども彼は思いの外、それをスルーした。
...じれったい。
「大きな仕事って俺は言っていたかな。」
「はい、おもしろそうな仕事だって。」
「ああ...なるほど。
確かにそうとは言った気がするね。」
「だって...わたしとここ(スタジオ)にいる以外にもおもしろそうなことはたくさんあるんでしょう?」
「でもそれは大きな仕事以外にありえない...。」
...じれったい。
「わたしよりも大きなものってなに?」
「それはとてもとてもおおきくて言い表せませんね。」
じれったい。
わたしのこと...。
「わかった。
わたしと奏一さんが好きなあの歌手に曲をつくることができる...とか。」
「そうか...それはたしかに。
答えは考えればたくさんあるね。」
わたしのことがいちばん。
すきなくせに。
「くだらないです、そんなこと。」
「ん...と...。
さいしょに...きみにこたえをきいたからね、おれは。」
「でも、どうしておもしろそうって先にいったの?
しらなかったんでしょ?」
「それは...おれに仕事を教えてくれたマネージャーさんがね、とてもおもしろそうな顔をしていてね。
ああ...彼は、何かいたずらしたいんだってかお。
その目をちゃんとみれば、なにかを誤魔化したいんだってわかる。」
だから深くは探らなかった。
答えにはなっていないけど、気持ちはわかったような気がした。
「ユニット名、せっかくなら自分たちで考えろって言われたんです。
私も色々考えましたけど、良いものは思いつかなくて。
奏一さん、なにかあります?」
「そこはかとなく」
いえ...そのかおは、
そこはかとある。
これは、彼がさっき誰かに指摘したのと同じかお。
わたしがじっと見つめてうながすと、彼はそれを口にした。
「トゥイードル」
「ディー、ダム...の?」
「うん。」
「わたしたち、似たもの同士ってこと?」
「それもあるね。」
彼は、ノートに綺麗な字でこう書き記した。
Twydal
「トゥイーダ...る...、トワイ...ダル...?」
「うん、鋭い。
意味は色々あるけれど、それこそ。」
そこはかとなく、そこに在る
という意味だ。
「じゃあ、奏一さんは、この名前のユニットで曲...どんなのつくるの?」
そう問うと...、彼の何かが変わった。
...目だ。
彼のこんなに鋭い切先のような目は...みたことが、ない...。
これが、おもしろいことに全力で立ち向かう彼の目なの...?
「...奏一さ」
「れいちゃん」
「きゃ...あ...は、い...っ」
「これを」
彼はひらりとわたしの手に紙をおとした。
曲が書かれたかみを。
その題名は、
「みて」
「...あ...」
Chronos クロノス




