エピローグ
番組のオンエアから数日後。事務所のマネージャーが、まるで国家機密を扱うような深刻な顔でばななに歩み寄ってきた。
「ばなな……落ち着いて聞いてくれ。県から連絡があった」
「県? ……えっ、私、何か悪いことしました!? 許可なく勝手に人口とか調べたから!?」
ばなながガタガタと震え出したその時、マネージャーが差し出したのは、重厚な菊紋が印刷された封筒……ではなく、どこか親しみやすい、それでいて公的な雰囲気を漂わせる一通の依頼書だった。
「鳥取県知事が、君に会いたいそうだ。『観光大使』として」
数日後、ばななは人生で一番緊張しながら、鳥取県庁の知事室の前に立っていた。
テレビ局の楽屋口では三十度の角度でお辞儀していたが、今日は気合が違いすぎて、もはや頭が膝につくほどの勢いで待機している。
「どうぞ、お入りください」
秘書に促されて入った部屋で待っていたのは、穏やかな、しかし眼光に郷土愛を宿した知事だった。知事の机の上には、あの「デザインが微妙」と酷評されたはずの「鳥取県民 遭遇証明書」が、あろうことか額縁に入れられて飾られていた。
「因幡ばななさん。君の活躍、拝見しましたよ。……いやあ、素晴らしい!」
知事が立ち上がり、熱い握手を求めてくる。
「『遭遇証明書』、あれは盲点でした。我々がいくら『砂丘があります』『梨が美味しいです』と叫ぶより、君が東京のど真ん中で『私はここにいます!』と言ってくれることの方が、どれだけ多くの人に響いたか」
「そんな……私、ただ必死だっただけで……」
「その必死さが、鳥取の底力なんです」
知事は窓の外を指差した。
「そこで、正式にお願いしたい。君を『とっとり遭遇大使』に任命します。これからは県の予算で、その証明書を……公式デザインにアップデートして増刷しましょう!」
「ええっ! 公式になっちゃうんですか!?」
ばななは思わず声を上げた。
「でも、知事! あのカードの良さは、私の手書きの『ばなな調べ』っていう怪しい数字とか、ちょっと安っぽい紙質にあると思うんです! ピカピカの公式カードになったら、逆に遭遇した時の『レア感』が薄れませんか!?」
知事は一瞬キョトンとしたが、すぐに豪快に笑い出した。
「なるほど、ブランディングですか! さすがは東京で戦うアイドルだ。では、デザインは君の『絶妙なダサさ』を完全再現しつつ、紙質だけは最高級の和紙──因州和紙を使いましょう。これなら、世界に誇れる『遭遇証明書』になります」
「因州和紙! それなら最強です!」
その日のうちに、ばななは特製の「とっとり遭遇大使」のタスキをかけ、知事と並んで記者会見に臨んだ。
翌日のニュースには「希少種アイドル、ついに県の公認へ」という見出しが踊った。




