ランチはコーヒーカップのお店で
「お腹空いたね。ランチ、どこにする。」
僕は自信を持って、尋ねた。
この日のために、軍資金をお年玉貯金から引き出し、
ネットで上野周辺のお洒落なお店を検索し、昨日、土曜日
下見に来たからね。
「私ね、子どもの頃から行きたかったお店があるんだ。」
「へえ~、それはどこのお店なの。」
「特定のお店じゃないの。」
キラちゃんが選んだお店は、何とどこにでもあるチェーン店の
回転寿司であった。キラちゃんは、僕の予想を裏切った。
やっぱ、稽古と実戦は違う。僕は、まだ甘いな
日曜日のお昼時なので、そこそこ混んでいたが、二人なので
カウンターに待たずに座れた。
キラちゃんのテンション、ハンパない。店内を走り出さないか
心配になったくらいだ。
「私ね、子どもの頃からずっと来たかったの。友達が、学校で
色々話しているのを聞いていて、不思議だったんだ。
クルクル回るお寿司って、遊園地のコーヒーカップみたいなって
思ったの。」
「ちょっと、それは盛ってない。」
「本当よ、私が嘘をつくと思う。」
キラちゃんのくっきり二重で大きな瞳で睨まれると、即答した。
「思いません。」
「それからね、カッパが握っているとか、いや握ってないとか、
違うよ、新幹線が握ってんだよとか。僕はサーモン星人、
私はマグロ星人って、みんな宇宙人になるんだよ。
まだ、あるの。何でお寿司屋さんなのに、ラーメンや
ケーキまであるのか、不思議でたまらなかったの。」
きっと、キラちゃんのお家は、庶民が行けない銀座の高級
お寿司屋さん、回らないお寿司屋さんだったんだろうな。
子供の頃のキラちゃんが抱いた回転寿司のイメージを想像すると、
可笑しくなった。
「ちょっと、馬鹿にしてない。」
「ううん、可愛いなって思った。」
「まあ、実はリズ君、女の子の扱い慣れてたりして。」
「そんなことないよ。それより、早く食べよう。回ってるの、
取ってもいいし、職人さんに注文してもいいんだよ。」
「はあ~い。」
キラちゃんは、サーモン、炙りサーモン、マグロ、エビと
次々と制覇していった。そのたびに、歓声を上あげる。
見ていて、僕まで嬉しくなる。食事って何を食べるか大事だけど、
誰と食べるか、メッチャ大事なんだね。
僕は、そんなことを考えながら、鯛を食べた。ヒラメ、ハマチと
白身から攻めて、赤身へと繋いだ。
鰻は回ってなかったので、キラちゃんが玩具に触るかのように
嬉しそうな表情で、タッチパネルで僕の分まで2皿注文した。
暫くしてから、新幹線で運ばれてきた。
「やった~、スゴイ。」
手を叩いて喜ぶものだから、職人さん、自分のことのように
照れている。只でさえ、キラちゃんは人目を惹く美少女、
店内のお客さんの男性のほぼ全員の視線を集める。
こんな時って、誇らしいような、見るなって独占したいような
複雑な気持ちになるんだね。これも、初めての経験だ。
果たして、美少女が鰻を食べて、どんなリアクションをとるか、
みんなが見守る中、キラちゃんは、鰻を食べた。
「う~ん、超美味しい。」
嘘偽りのないリアクションに、みんな、軽くどよめく。
安心したような、自分のことを褒められたような嬉しい気分、
幸せな気分になる。
キラちゃんの存在は、まさに周りを明るく照らす星みたいだ。
名は体を表わすを、実感した。
この日、このお店始まって以来の鰻の注文が殺到し、
すぐに売り切れになったらしい。新しい都市伝説が生まれたか
どうかは定かではないが。
「もう、お腹一杯。食べられない。」
「どれ、どれ。」って、キラちゃんのお腹を触りたい衝動を
全身全霊で断ち切った。まだ、早いじゃなくて、セクハラ親父
みたいじゃん。
僕は、10皿に抑えておいた。三時のお茶が待っているかも
しれないからだ。
ここは私が払うと、黄色い皮の財布から見たことのない金色の
カードを取り出したが、そのカードはここでは使えないかも
しれないと言いくるめ、僕が男らしく現金で支払った。
銀座の高級お寿司屋さんに比べれば、安いもんだ。
二人分でも5千円で、おつりがくるもんね。
「さて、次、どこへ行こうか。」
僕の問いに、キラちゃんが返した言葉。
またもや、予想を裏切られたもんじゃなかった。




