昼休みの屋上で
『枯れ葉舞い散る校庭は 来る冬の寒さを 告げる。』
あれから、僕は昼休み、屋上で一人弁当を食べるように
なっていた。教室で食べていると、クラスメートだけでなく
他のクラス、他学年の生徒まで僕を見学に来る始末。
僕は、オリハルコンでできた貝と化し沈黙を守るが、
親友のタックンまで好奇の眼で見られるのは、心が痛いので、
一緒に居られない。
タックンは僕に何も尋ねないし、笑って、気にしないでと
言ってくれるから、猶更だ。
弁当を食べ終わっても、屋上で過ごすしかない。前に、
図書館に行ったら、みんな本を読む手を止め、僕を見て
ヒソヒソ噂する。それで、体育館の器具庫に行こうと思ったら、
鍵がかかっていた。なるほど、あんなこと、こんなことの不祥事を
避けるためか。きっと、コンカツの指示に違いない。
僕は、昼休み、引きこもりのヒッキー、もとい、屋上だから
オッキーで詩人になっていた。
このままでは、心、寒いだけなので、龍笛を吹くことにした。
何もかも忘れ、無我夢中で倶利伽羅龍の真言をイメージした
曲を演奏する。心の闇が晴れ,澄み渡り、感覚が鋭くなる。
僕は演奏中、かすかだが誰かが隠れて僕の演奏を聴いている
気配を感じた。見事な隠形、僕だから気がついた。
案の定、演奏が終わったら、パチパチと拍手してくれた。
誰かと思いきや、そこに現れたのは、星のビーナスこと
森 星明ではないか。
僕は星のビーナスと憧れていたが、龍美の悪魔の策略で、
決闘をする羽目に陥り、僕が勝ったが、結果として彼女の
両胸をこの手でさわり、唇まで奪ってしまったことは
忘れようとも忘れられない。一日も、忘れたことはなかった。
僕は心臓がバクバクしそうになったが、倶利伽羅龍の真言を
声に出さずに唱え、冷静さを取り戻す。
ここで正体がばれたら、殺されるかもしれない。
「見事な演奏ね。私の高校に、龍笛の名手がいるとは知らなかったわ。」
「褒めても、何も出ないよ。」
「まあ、あなた、私が誰だか知らないの。私に声をかけてもらえるなんて
光栄なことなのよ。ましてや、褒めてもらえるなんて、・・・」
「自慢話をしたいなら、他所へ行ってくれ。邪魔。」
「ごめんなさい。邪魔しないから、もう一曲聞かせてもらっていい。」
僕は答えず、龍笛を演奏し始める。自分でも、あきれるくらい
冷たい態度をとっているのがわかる。昼休み、屋上に来るなんて、僕と
同じで、よほどの理由があってのことだろう。顔を見れば、わかる。
でもさ、しかたないじゃないか、恋愛経験のない僕は女の子に優しく
甘い言葉なんかかけることはできない。恋愛偏差値ゼロだね。
高校2年生のくせに、好きな子に意地悪する小学生レベルだな。
『僕の馬鹿、大馬鹿野郎。』
せめて、心を込めて、演奏しよう。僕は、龍神祝詞をイメージした
曲を全身全霊で演奏した。
終わったが、今度は拍手が起こらなかった。見ると、涙を流している。
でも、瞳に光が輝き、迷いが晴れて明るい表情になったように感じた。
それでこそ、僕の星明だ。
このまま、言葉を交わさずとも、何時間でも一緒にいたいけど、
非情にも昼休みの終わりを告げるベルが鳴った。
森 星明は、僕に深くお辞儀をして、去って行く。
彼女の残り香にキュ~インと萌える僕であった。




