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二人の旅  作者: kazu
3/4

男の告白

大分遅れました。

頑張ります。

ある夜の事だった。

アルスがアオイと出逢って、一週間とはいわずとも数日が立っている。

「ほら。」

放物線を描き投げられたソレを、アオイは、まっすぐ上へ伸ばしただけの片手で器用に受け取った。

それを見たアルスは、呆れた様に首を振る。

「色々と格好がつく奴だな。」

「そう、普通だけど。」

アオイは手の中にある林檎を、かりっ、と可愛く齧った。

アルスがなぜか黙っている為、室内にはアオイの咀嚼音のみが響いていた。聴く者には、その小さな口元の動き、果肉から汁が弾けて唇を少し湿らせる情景すら、目視せずとも想像できたのかもしれない。

林檎を完食すると、アオイは最後に赤い舌を出し、口周りの汁を舐める。

そして余韻に浸る。

ふとアルスの方へ視線を戻すと、首を傾げた。

「・・やけに静かだね。それとも、いつもこうだったの?」

先日丁度忍び込んできた際の、窓の桟を尻の下にして寄りかかっていたアルスは、不自然に背けていた顔を戻す。

「いや・・近頃退屈しないだけさ。」

その言葉にアオイは興味を引かれた様で、瞳を少し大きくする。

そして若干拗ねた様な表情で言った。

「僕は欲求不満だけどね。」

あくまで悪戯っぽい言い方である。

出逢いの瞬間と異なって、隠れながらも静かに流れている二人の状況ではあるが、彼なりに面白みも見出している様ではあった。

「もし・・俺が決めたら。」

「うん?」

アルスの呟きに、ベッド上で半ば体育座りをしているアオイは、捉えどころのない笑みを浮かべる。そのハーフパンツから伸び、下へ降ろされた白くすらりとした足は、視るものを惑わす様に左右上下に動いた。

「俺が、このろくでもない街を出る、と決めたなら・・お前はどうする?」

アオイの動きが止まった。片方の足も床へ降ろされる。すっと立ちあがった小柄な美青年は、ゆっくりとアルスの傍へ歩み寄る。

二人の今の目線は大体同じ高さだが、アオイは相手の顔を覗きこむ様な姿勢を取った。

そしてアルスは瞳をそらさない。

だが、本当にかすかではあるが、その身体は震えていた。

「どうして?」

響いた甘い声は、アルスと同性である事が疑わしく思われるものの一つだった。

男は、何度か口を開閉する。

そして呼吸を落ちつけた後で、ひどく淡々と言った。

「何・・丁度良い頃合いだと思っただけだ。ここにいても、いずれは呆気なく死ぬだろうよ。何の意味も残さずに、だぜ。仮にも人の子として生まれてきたのなら、もっと上を・・目指しても良いだろう?」

「・・そう。」

答えた男に、アオイは特別な反応を見せない。笑みを絶やさぬままで、数度頷いた。

だが男は固まったままだ。

まず、アオイが離れていない。問いかける様な視線も、アルスから外そうとしない。

「・・・う。」

「ん?」

小首を傾げたアオイの身体が、一見して離れる様な動作を見せた瞬間だった。

「俺は!」

大声が室内に響いた。

アオイは驚かない。一方の男は、己の出した声に少し当惑している様だった。

「だから・・そのきっかけはお前で。お前が、現われて、ここ数日近くにいて・・だけどお前は、余裕で死ななくて・・。」

その言葉は途切れ途切れで、しかも支離滅裂だった。

「お前は、俺なんかと違っていて・・強くて・・だけど、視た事がないくらい綺麗で。」

「・・・。」

アオイは黙って聴いていた。

「このままの俺じゃあ・・。」

男の声が明らかに震え、高くなった。

「お前みたいな奴は、別の・・。」

「はい、ストップ。」

半ば茫然とした表情のアルスは、アオイを見る。

彼は悩ましい表情で、頭を掻いていた。どこか、仕方ないな、という苦笑も窺えた。

「・・その、アオイ。」

「いや。お兄・・アルスが思いつめていたのは分かっていたけれど、ここまで、とはね。」

そして男の瞳が見開かれた。

ぽすっ、という音と共に、アオイの身体が彼へ無造作に預けられたのだ。

その乾いた耳にも、柔らかそうな唇が寄せられた。

「アルスは僕に外の空気を感じて、そして無性に街を出たいと思えた。そして・・できれば、僕に友人兼護衛役として付いてきて欲しい・・そういう事?」

「・・・それは。」

何か異論を述べようとしたアルスだが、その目前には、アオイの類まれな、少女の如き美貌があった。相手の口に芳しい息を吹き込むかのように、アオイの唇は語る。

「今は、それくらいが丁度良い。」

そして謎めいた微笑みを浮かべる。

その了承の意思を受け取った、アルスの表情は、自嘲しているも喜色を隠し切れていない。

男の手は、ゆっくりとアオイの背へと動いていった。

だが途中で止まる。

「・・・寝てやがる。」

己の胸にある天使の如き寝顔に、男の邪な意図は消えていった様である。

「・・信用されている、という事か。」

アルスは嬉しげに呟いた。

決して舐められているとは考えない。

それなりにすれてはいても、どこか素直で単純な所が、この男には確かにあった。

だからアオイは、彼に対しこんなにも無防備なのだろうか。

それは、まだ誰にも分からない。


アオイは寝ている。

たぶん。

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