名乗る二人
可愛い青年というイメージを掴みかけている所です。後から描写を付け加えていくかもしれません。
「りゃあ!」
男は近くのゴミ箱を蹴る。
追ってくる者達の足を止める狙いがあった様だが、呆気なく弾かれてしまった。
それでも男は諦めない。
死に物狂いで走りながらも、途中拾ったものや、通りすがりの相手からすれ違いざま奪ったもの等、何でも背後へ投げつけた。
ぱっと見れば、酷く見苦しいものがあった。
「あのさ。」
男の隣を、並行して走る青年は、呆れた様に言う。
「僕がいるの、忘れてないかなぁ?」
逃走しながらも、男は青年の方を向く。
見返す青年の瞳は、静かに男へ問いかけており、何かを試している様な光さえあった。
「・・悪いな。」
汗を流しながらも、男は笑みを浮かべてみせた。
「これ以上の助けは必要ねぇよ。」
そしてまた前へ視線を戻す。時折後ろも振り返った。
「そう・・ふーん。」
極めて小柄な青年は、軽やかに何の疲れも見せず疾走しながら、興味深げに男を見つめる。
少し時を遡るならば、男と青年が出逢った後、二人はひとまずその場を離れた。血の匂いを嗅ぎ分け、新たな有象無象が集まってくるかもしれなかったのだ。
四方を何もない荒野に囲まれて、逃げ場等どこにもないと思われる街ではあるが、その日の命さえ保てれば構わない、と言うなら、隠れる場所は幾らでもあった。
さもなければ、住民はとうに皆死に絶えていたはずだ。
「まあ俺は・・なるべくなら死にたくない。生きていたいわけだ。」
男は身体を横にした状態で呟く。
手頃な廃屋を見つけ、素早く侵入すると、その一室のベッドへ転がっていたのだ。
ベッド脇の椅子の上、逆向きに座り、背もたれへ顎を乗せる青年は微笑んだ。
「素直だね。」
男は首の後ろで腕を組む。瞳を閉じて言った。
「何事も素直が一番さ。この街では、な。」
そこで会話が途切れる。
外の喧騒は遠のいていたのか。非常に静かになる。午後も半ばが過ぎれば、夕方の気配が室内にも漂い始める。
寝息こそ聴こえないものの、男が眠ったかと思われる程の時間が経ったのか。
そうでもないのか。
「・・・そういえば。」
男が瞳を開き、沈黙を破った。
「・・あんたの名前、訊いてなかったな。」
青年は、眠る男の寝顔を覗きこむ様な形のままだった。そのせいか、赤面した男に、青年は、くすっ、と笑った。
「まあ、随分バタバタしていたしね。」
照れているらしい男は、咳払いをする。
「何だ。教えてくれても構わないか。この際、偽名でも良いぜ。とにかく、縁ができた人間を、いつまでもあんた呼ばわりじゃあ、な。」
「縁・・ね。」
そこで青年は尋ねる。
「僕が、さっさと街を出るとは思わないのかな?」
「・・それでも、良いさ。今の俺はちょっとばかり舞いあがっているだけだよ。」
不思議そうな表情の青年に、男は自嘲する様な笑みを見せた。
「・・久しぶり、なんだよ。こんな風に、人と話すのは。餓鬼の頃は・・まだ甘い奴同士で互いにつるんでいられた。けど、この街で一緒に生きていれば、裏切りもする。どちらかを生かす為に、片方が死ぬ事もあるのさ。それが合意の上であれ・・何であれ、な。」
青年は柔らかく瞳を細めた。
「貴方はどこかが、甘いままだね。こんなに短い付き合いでも、何となく分かるよ。」
男は力なく答える。
「ありがと、よ。」
悪戯っぽい笑みと、冗談の様な言葉が返ってきた。
「褒めたつもりはないけど、ね。」
「俺の解釈の問題さ。」
また一拍間が空いた。
「僕の名前、だったね。」
青年は口を開いた。
「これから僕の事は、アオイ、と呼ぶと良いよ。もちろん、これが本名かどうかは、それこそ君の解釈の問題さ。」
男も応える。
「俺は・・アルス、だ。アオイがこの名を信じてくれると、俺は嬉しい。」
中々定期的に投稿するのは難しいですね。そうしみじみと感じています。




