その1
ある晴れた夏の日の早朝、数人の青年達が広場に立てた的に向けて弓矢を放つ練習をしていた。
そこに二つの小さな人影が近づいてきた。
「早く、早く、ユタ!」
「待ってよ、ユラ!」
騒がしくやって来たのは、ユラとユタ。二人は今年の春に十一歳になったばかりの双子の姉弟だ。
二人とも肩までの黒髪に黒い瞳。ほっそりとした体つきだが、はつらつとしている。
そして、二人は顔もそっくりなら声もそっくりだった。
その上、服装もそっくり同じで、膝丈までの貫頭衣に、ユラが桃色の帯、ユタが萌黄色の帯を巻いている。帯がなければ、二人が入れ替わっても誰も気が付かないだろう。
といっても、ユラは女の子で、ユタは男の子だし、二人の性格は随分と違っていた。
幼い頃は姉のユラが太陽の下で走り回っているなら、弟のユタは木陰でシロツメ草の冠を作っているのが常だったし、雨の日にユタが古老の昔話をじっと聞いているなら、ユラはその横でうたた寝しているのが常だった。
そんなふうに好きなことこそ違う二人で会ったけれども、仲は良かった。
それに、双子ゆえの特別なつながりなのか、雷の魔成力を持つ者ゆえの力なのかはわからなかったが、ユラは遠く離れていてもユタに考えていることを伝えることが出来たし、ユタもまた遠く離れた場所にいるユラに自分の考えを伝えることが出来た。
魔成力とは、水や炎、雷や風等を操る力のことだ。危険なこともあるけれど、使い方さえ間違えなければ、人の生活に役立てることもできる力だ。
ただし、すべての人が魔成力を持っているわけではない。魔成力を持っているのはごく少数の者たちだけだ。そういった魔成力を持つ人間は、どこの郷でも大事にされる。例外にもれず、ユラもユタも生まれた郷で大切に育てられていた。
二人には郷長をしている父親と母親、兄が三人、姉が二人、それに祖母という家族がいる。特に二人と仲が良いのは、四つ年の離れた三番目の兄タトだ。タトは面倒見がよく、幼い頃から双子と一緒に遊んでいた。
二年前、トタが十三歳になり弓矢の練習を始めると、ユラとユタも一緒に練習をしたいと言い出した。
しかし、ちょうどよい大きさの弓矢がないという理由で、二人はあと五年待つように言われたのだった。
それ以来、ユラとユタが練習の時に現れることは滅多になかったのだが、今朝、トタ達が弓矢の練習をしていると、ユラとユタが現れた。
「兄様達、私達も弓を使ってみたい。見て、これ。ユタが作ってくれたんだよ」
そう言ってユラが見せたのは、小柄なユラたち姉弟の体の大きさにちょうどあった弓と矢だった。同じような弓をユタも手に持っている。
「へえ、こりゃ上手くできてるなあ」
ユラが差し出した弓を手に取ったのはミトだ。二番目の兄で、タトの弓矢の指南役でもある。
受け取った弓をじっくりと検分すると、
「ユタはモノづくりの才能があるんだな」
そう言って、ユタの頭をぐしゃぐしゃと撫ぜ回した。
「だが、矢はどうするんだ?」
「これ、作ってみたんだけど」
そう言ってユタは背負った矢筒の中から一本の矢を取り出した。ユラの方も得意そうに矢を握りしめてミトに差し出している。
ミトは二人の持つ矢をよく検分してから「うーむ」と唸って、
「よし、いいだろう。よくできている」
と言って弓をユラとユタに返した。それから、
「これは二人で作ったのか?」
と、聞いた。
「もちろん、ユタが作ったんだよ。材料の木と枝と羽は私が集めたんだ!」
ユラが得意そうに答えると、
「そんなことだろうと思ったよ。なんで材料を集めただけのユラの方が得意げなんだよ」
トタが呆れたようにつぶやいた。するとユタがおずおずと言った。
「ユラはちょうど良い木の枝を手に入れるために高い木に登ったり、雉を捕まえて羽をむしったりしてくれたんだよ」
「おいおい、拾い集めたんじゃないのかよ?」
トタはハシバミ色の目を丸くしてユラを見た。苦笑いしているミトの横で、ユラは歯を出して「イヒヒ」と笑っていた。
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