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勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第9章 王都の祝賀会

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第65話 ドルマン家の挨拶

 私達の円卓へ向かう途中に、ヴァルスさんから怒りの追撃を受けたドルマン家の四人は、完全に取り乱し内輪で揉め始めていた。もはや貴族としての体裁など欠片も残っていない。


「お前らぁ!!」


 元お父様が血走った目で元姉様を振り返る。


「ヴァルス様の書簡とは何だ!? 何が書いてあった!? 何故私に報告しなかった!?」

「し、知らないわよ! 書簡なんてしらないわよ!」


 クラリッサ元姉様も涙と汗で、顔をぐしゃぐしゃにしながら叫ぶ。


「書簡なんて知らない! ロザリアが隠したんじゃないの!?」

「は、はぁ!? 何で私なのよ!? 姉様が捨てたんじゃない!」


 ロザリア元姉様も髪を振り乱して叫び返す。すると元母様は、三人を突き飛ばすようにして一歩後ろへ下がった。


「ぜ、全部貴方達が勝手にやったことよ! 私は関係ありません! 関係ないわ!」

「か、母様!?」


 三人が信じられないものを見るような顔になる。だが元母様は狂ったように首を振った。


「全部、貴女達が悪いの! 私は反対した! 勘当するなんて可哀想だと止めたわ!」

「う、嘘よ!」


 元姉様達が悲鳴を上げた。


「母様が一番喜んでたじゃない! ”泥まみれ令嬢”なんて恥だって!」

「役立たずは早く追い出しなさいって言ったのは母様よ!」

「黙りなさい! 嘘を言わないで!」


 元母様が負けじと叫ぶ。しかし――元姉様の強烈な叫びがその場に響く。


「父様がアイリスをいやらしい目で見るから腹が立つって言ってたじゃない!!」

「な、な、何て事言うのッ!? この馬鹿者がぁ――!」


 ロザリア元姉様が涙を撒き散らしながらの指摘に、絶叫する元母様。そして同時に元父様も大いに動揺する。


「い、いや、違う! 私はそんな目で見てない!」

「いつも見てたわよ!」


(う、うわぁ……)


 私の口から思わず声が漏れた。


「何よ、母様も勘当してせいせいしたって言ったじゃない!」

「父様がアイリスに見惚れて見てムカついてたのよね!?」

「お前達、もう黙れええぇ!!」

「ア、アイリスが誘惑したんだ! 私は悪くない!」


(も、もう嫌ぁ……!!)


 見苦しすぎて見ていられない!


 王家と二つの公爵家に囲まれた円卓のど真ん中で、責任の押し付け合いを始めるドルマン家。目茶苦茶すぎて、会場中の貴族達も完全に呆れていた。


「さ、最低だ……」

「娘に責任を押し付けるとは……」

「よくあれで貴族を名乗れるな」

「品性の欠片もない」


 そんな冷たい視線が突き刺さる中ついに、アルヴェリア公爵家当主が優雅に紅茶を置き、口を開いた。


「それで? ドルマン家は、いつになったら我々に挨拶に来るのかね?」


 穏やかな声。しかしその一言だけで、ドルマン家の四人がぴたりと時が止まったかのように固まった。


「……ッ!」


 四人の顔から更に血の気が失せる。レオンハルトお父様は柔らかな笑みを浮かべた。


「お前達は、祝賀会を止めている自覚はあるのか?」

「ひいいぃぃ!!」


 ドルマン家の全員が飛び上がった。


「ひっ……ひぃぃ……」


 四人揃って転がるように赤絨毯を進み、這々の体で私達の円卓の前まで辿り着く。髪は汗で張り付き、厚化粧は涙と汗で崩れ、礼服もドレスもぐっしょり濡れていた。その姿は貴族というより、嵐の中を彷徨った遭難者である。


「こ、この度のご帰還……ま、誠に……おめでとうございます……」

「うむ」


 一気に老け込んだドルマン子爵の歯の鳴る音を含んだ挨拶に、レオンハルトお父様が頷く。そして――


「で? 何か言うことはないのか?」


 笑顔のまま告げるレオンハルトお父様。無様な姿を晒している彼らを、アルヴェリアの家族全員が見下した。


「……こ、こ、公爵様あぁ!!」


 元母様が突然、私を震える指で差した。


「違うのです! その娘は嘘をついております! 私達は悪い事など何もしておりません!」

「ええっ!?」


 その言葉に私はびっくりして飛び上がった。


「そ、そうよ! そいつが被害者のように出鱈目(でたらめ)を言いふらしてるんだわ!」

「勘当したのは仕方がなかったのです! 私達の方こそ被害者なんです!」

「その娘に騙されないで下さい!」


 水を得た魚のように元姉様達も追従する。


 すると、レオンハルトお父様から笑顔が消えた。ぞわりと空気が震える。


 膨大な魔力が漏れ出し、会場中の温度が下がったような錯覚を覚える。優しい紳士の顔は消え、そこにいたのは戦場の修羅場を知る熟練の魔術師。凄まじい圧を放つ獰猛な獣だった。


「お前ら、どこまで私を怒らせるつもりだ?」


 低い声が響く。私の背筋まで冷たくなった。


「……ッ!」


 その圧を直接受けた四人が、あまりの迫力に尻餅をつく。


「先程の陛下の御言葉を聞いていなかったのか? 二度とアイリスを娘などと呼ぶな。アイリス・アルヴェリアは私の大切な娘だ」


 黄金の燃える瞳が細められる。


「何故、お前らごときが娘と呼べる?」

「ひいいぃ!?」


 ドラゴンに睨まれた小動物のように、ドルマン家一同は言葉を失った。掴める物を探すように両手を彷徨わせている。


「自分の事しか考えられない君達に、仕方がないから教えてあげるよ」


 エリオット様がにこにこと微笑みながら告げる。しかし瞳が全く笑ってない。


「勘違いしてるようだけど、勘当したこと自体は感謝さえしてるよ? 最悪の事態に陥る前に、アイリスが地獄から抜け出せて、こうして僕達と巡り逢えたのだから」

「えっ?」


「問題なのはドルマン家が、アイリスに長年やってきた仕打ちだ」


 その笑顔のまま、彼の瞳から光が完全に消える。ドルマン家の顔色が変わった。


「こ、公爵様はアイリスに騙されています! 私は虐めてなんておりません!」

「わ、私もです! 血の繋がった家族を嵌めるなんて、何て恐ろしい子なのッ!」

「ええぇっ!?」


 興奮した二人の元姉様は泡を吹きながら狂ったように叫び、私を血走った瞳で睨んできた。そしてふらつきながら私を指さし近づいて来る。この事態に怯えていると――


「あんた私を――カハッ」


 突然、元姉様達が首元を押さえた。そして隣から鈴のような声が聞こえる。


「私の可愛い妹を怖がらせるなんて、死にたいの?」

「えっ……!?」

「う……あっ……!?」


 水中でもがくように苦しみ始める元お姉様達。涙を流しながら床をのたうち回る。


「すごいわね、こんなに馬鹿だなんて」


 そんな二人をルミエラお姉様が眺めて、呆れたように微笑む。


「醜態は見れたし、クズ具合も直接知れたわ。もう黙ってなさい」


 苦しそうに床を転がる元姉様達に、私は唖然とするしかなかった。


(ま、魔法……? お姉様が何かしてるの?)


 アレクシスお兄様が諭すように静かに言った。


「ルミエラ、意識は刈るなよ。こいつら全員に理解させる必要がある」

「ええ、もちろん分かっているわ」


 ルミエラお姉様は面白そうに微笑んだ。やがて解放された元姉様達は、激しく咳き込みながら顔を上げた。


 すると、今度は二人の視線は何故かアレクシスお兄様へ向いていた。まるで助けに来た白馬の王子様を見る乙女のような瞳に、背中がぞわぞわっとしてしまう。


(な、なんで!? 助けられたわけじゃないでしょう!?)


 私が呆れていると、アレクシスお兄様は心底不快そうに眉を寄せた。


「気味の悪い目で私を見るな」


 ばっさりと、容赦なく切り捨てられた元お姉様達が、石のように固まった。

この物語を読んで頂き有難うございます。

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