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勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第9章 王都の祝賀会

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第64話 勘当の裏話

 倒れ込んだドルマン子爵はすぐに意識を取り戻し、床に手をついてがばりと身を起こした。しかし、目の前に座るアウローラ女王陛下の姿を視界に収めた瞬間。


「ひいぃっ!」


 情けない悲鳴を上げ、再び尻餅をついて後ずさった。そんな彼を、シリウスお兄様が冷ややかな金の瞳で見下ろす。


「ドルマンよ、拝謁は終わりだ」


 その声には感情らしい感情はない。だからこそ恐ろしい。


「アルヴェリアの円卓へ向かうが良い」

「……っ!」


 びくりと四人の肩が大きく跳ねる中、シリウスお兄様は僅かに目を細めた。


「精々、我が家族に誠意を見せることだ」

「ヒッ……!」


 元お父様の顔が引き攣る。次の瞬間――


「い、いやだああぁぁっ!!」


 まるで死刑宣告を受けた罪人のような悲鳴が、星冠の間に響き渡った。元お父様の足元には水溜まりが出来ていた。


「さっさと行け」

「ひいぃ……!」


 シリウスお兄様が面倒臭そうに吐き捨てる。その一言だけで、四人は飛び上がるように身体を震わせた。そして、ふらふらとした足取りで動き出す――その時だった。


 元お父様が突然ぐるんっと自分の家族を振り返った。血走った目に汗と涙でぐしゃぐしゃになった顔。もはや貴族の威厳など欠片もない。


「お前らがァァ!! アイリスを勘当しろと言ったんだろうがァァァ!!」

「いっ……!」


 元母様と元姉様達が揃って悲鳴を上げた。


「と、父様も賛成したじゃない!!」


 クラリッサ元お姉様が涙目で叫び返し反論する。どうやら勘当の発端は姉様っぽい?


「無能に食わせる飯も金もないって、父様が言ったんでしょう!?」

「お、お前らぁぁ!! 言うんじゃねえぇ!!」


 元お父様は完全に錯乱していた。すると今度は、厚化粧が汗で流れ崩れた顔のロザリア元お姉様まで泣きながら叫び始める。


「母様だって言ったわよ! 無能は追い出しなさいって! 見た目だけの役立たずに家の金を使うなんて、無駄だって言ってたじゃない!」

「い、言ってない!」


 元お母様が凄まじい勢いで首を振る。


「わ、私は言ってない! 言ってないわ!」

「嘘つき、言ってたわ! 母様も笑ってたじゃない!」


(み、醜い……!)


 責任の擦り付け合いが始まり、元身内としては恥ずかしくて真っ赤になってしまう。祝賀会の真っ最中に、しかも女王陛下の御前の出来事とは思えない惨状だった。周囲の貴族達も苦笑いを浮かべている。


「あれがドルマン家か……」

「見苦しい、子爵家も落ちたものだ」

「誰一人責任を取ろうとしないのか」


 そんな囁き声が広がっていた。


 そんな惨状を前にアルヴェリア家の皆は、なぜか穏やかな笑顔で眺めていた。レオンハルトお父様は優雅に紅茶を飲み。アレクシスお兄様は満足そうに腕を組み。ルミエラお姉様は楽しそうに微笑み。エリオット様は、にこにことした顔でお菓子を摘まんでいる。


(み、皆が一番怖いんだけど!?)


 きっと、貴方達が仕込んだんですよね!? アルヴェリア家の皆に引いているそんな時だった。


「おい」


 とても低く轟く声が、反対側から飛んできた。アークフェルト公爵家の円卓、その席から立ち上がっていたのは――ヴァルスさんだった。


 彼は怒りを堪えるように体を震わせている。


「ドルマン家、そしてそこの姉妹。お前ら、私に嘘をついたな?」

「ヒイイィィーー!?」


 元姉様達が揃って飛び上がる。


(ヴァルスさんーー!?)


 怒気を纏った未来のアークフェルト公爵は、鋭い目で二人を睨み据えた。強く握りしめた右の拳は怒りに大きく震えていた。


「横領、暴力、横暴、自分勝手、騎士団を軽視した数々の大問題。そして、やむを得ずアイリスを勘当した。そう私に説明したよな?」

「い、いやっ! 嘘ではございません!」


 涙目になりながら叫ぶ二人。だが、ヴァルスさんの怒りは収まらない。


「我々の訪問より、年に一度の花市を優先した。たったそれだけの事が、お前達の家では勘当に値する大罪なのか?」

「も、問題ではありませんか!!」


 低い声に会場の空気が張り詰めた。クラリッサ元お姉様が必死に叫ぶ。


「貴方様や名門貴族が集う騎士団の訪問より、花市を優先したんですよ!?」

「違う、我らが無粋だった。アイリスの都合を知らずに来訪した私達に非があったのだ」


 ヴァルスさんはきっぱりと言い切った。


「花市に行きたいなら、いくらでも待った。 だがそもそも、私はアイリスの直近の予定を全く知らされていなかった」

「……っ!」


 ぎろりと猛獣のような眼光が姉達を射抜く。元姉様達が凍り付いた。


(そうだったの?)


「到着した私に伝えられたのは、問題を起こした無能な妹を勘当したという話だけだ。そしてお前達は、我ら騎士団に随分と気色の悪い接待をしてくれたな?」

「なっ……!」


 ヴァルスさんは吐き捨てるように言う。


「お前達は知っていたのだろう? 私が求めたのはアイリスだと。お前らは私が書いた書簡を勝手に読んだな? だから会わせなかった、勘当を強引に進めた」

「ち、違います!」


「お前達が邪魔をしていたんだろ? アイリスの美しさに嫉妬していたんだろ? 私の目に留まり自分より遥かに良家に嫁ぐ未来を恐れていたんだろ?」

「や、やめてぇぇ!!」


(そ、そうだったの!?)


 容赦なく言い放つヴァルスさん。元姉様達が泣き崩れた。その様子を元父様と元母様が唖然とした表情で見ている。


「ドルマン家よ、覚えておけ。お前達は私の不興までも買った」


 ヴァルスさんの怒気が更に膨れ上がる。


「お陰でアルヴェリアにアイリスを取られたではないか!」

「ヒイィッ!?」


 ビリビリと怒りの覇気を飛ばす彼に震える元姉様達。私もびっくりしてしまう。


(取られたって何ですか……?)


 思わず突っ込みたくなってしまう。ヴァルスさん、貴方はもう第二王女殿下の旦那様ですよ?


 ちらりと隣を見ると、案の定ヴィオレッタ第二王女殿下は面白くなさそうな顔をしていた。アレクシスお兄様ばかり見ている彼女も、人のことは言えないと思いますが……。


「……すまん、割り込んだ」


 ヴァルスさんは咳払いを一つして、アルヴェリア家に向かい頭を下げた。そして一層泣き崩れるドルマン家を睨みつけながら、最後の通告をする。


「ドルマンよ、アルヴェリアの裁きを受けろ」


 そう吐き捨てるように言うと、不機嫌そうにどかりと椅子に腰を下ろした。


「今回ばかりはいい働きをしたな、ヴァルス」


 その様子をじっくり見ていたアレクシスお兄様が、満足そうに微笑んだ。


「当然だ、私も被害者だからな」


 不機嫌そうに腕を組むヴァルスさん。その時だった。


「ヴァルス、帰ったら話があります」

「……っ!?」


 第二王女殿下にそう告げられ、ヴァルスさんは魚のように口をぱくぱくさせた。きっと何も考えずに発言してたんだと思います。その光景に私は思わず吹き出しそうになった。

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