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勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第9章 王都の祝賀会

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第63話 ドルマン家の拝謁

忙しく時間無くて今になってしまいました。後で少し改稿するかもです。

 子爵家の列も終盤に差し掛かり、いよいよ最後尾に並ぶドルマン子爵家の順番が近付いてきた。


 皆に勇気をもらっても、怖いものは怖い!


 だけど、より近くに見えたドルマン家の一同を見て恐怖より驚きで目を瞬かせる。


(うわぁ……)


 そこにいたのは、かつて私が知っているドルマン家の面々ではなかった。


 全員が今にも倒れそうなほど土気色の表情で俯き、視線は定まらず忙しなく泳がせ、大雨の中を歩いたかのように礼服やドレスがぐっしょり濡れて、肌に張り付いていた。


 元お父様は若干白目を剥きかけていて、口元を引き攣らせながら何かをぶつぶつ呟いている。


 元お母様は自分の腕を強く握りしめ過ぎたのか、爪が食い込み血が滲んでいた。


 元姉様は親指の爪を噛みながら歯をガチガチと鳴らしてるように見える。


 四人全員がガタガタと地震の最中のように大きく揺れている。あまりにも異様な姿に、周囲の貴族達もざわつき始めた。


「あれは、ドルマン子爵家ではなくて?」

「どうなさったのかしら……?」

「顔色が悪すぎるぞ」


 ひそひそと囁き声が広がり、ドルマン家に視線が集まっていく。そのたびに四人の肩がびくりと跳ね上がっていた。


 ゆっくりフラフラと心許なく歩くドルマン家。まるで処刑台に向かうかのような表情と雰囲気に戸惑ってしまう。


(だ、大丈夫……?)


 一気にやつれ老け込んだような元家族に、心配になっちゃう。心の底から怯えているのはドルマン家の方だった。


 やがてドルマン家一同は、上座へ続く階段の真下へと辿り着く。そこでピタリと歩みを止めた。


「さぁ、昇ってこれるのかしら?」


 隣のルミエラお姉様が楽しげに呟く。


「いやいや流石に、そのくらい出来ないと困る」


 アレクシスお兄様が呆れたような口調で言った。


「まさか国を挙げての祝賀会なのに、祝辞を述べないなんて無礼過ぎるよね」


 手を広げ首を振るエリオット様。


「ちょ、ちょっと!?」


 皆の冷たい小言に慌ててしまう。そんな声が聞こえたのか、ドルマン家一同の肩がびくりと大きく跳ねる。


 会場中の視線が、完全にドルマン家へ集中していた。


 彼らは意を決し覚悟を決めたように、震える体で階段に足を掛けた。


「ふぅ……ふぅ……」


 一歩、一歩、酷くゆっくりと、ふらつきながら。そこに低くよく通る声が飛ぶ。


「ドルマン家、早くしろ。後の予定がある」

「ひいいぃ!」


(シリウスお兄様ーー!?)


「も、も、申し訳ございませんっ!」


 王配の言葉にその場で跳ね、慌てて汗を撒きながら階段を昇るドルマン家。


「はぁ…はぁ…はぁ……!」


 ただそれだけで、長距離を全力疾走したかのように息を切らしていた。


「早くしろ、何度も言わせるな」

「ヒッ!」


 鋭い視線で金色の瞳を細めるシリウスお兄様。格好いいけど、向けられた方は堪ったもんじゃない!


「じょ、じょ、女王陛下には……こ、心からお、お祝い申しあげまする……」


 元お父様の声はか細く掠れ、震えていた。


「うむ、苦しゅうない」


 そこにいるのは、グランディール王国を統べる絶対の君主。


 その祝辞に被せるようにアウローラ女王陛下は「ふふん」と微笑みを浮かべ、優雅に扇子を広げ口元に添える。


 妖艶な笑みを浮かべた女王陛下は、わざとらしく小首を傾げた。


「そういえば……」


 ぱちりと紫紺の瞳が細められる。


「どうやら私の義理の妹が、かつて随分と世話になったようじゃのう?」

「ひいぃぃいっ!?」


(女王陛下ーー!?)


 ドルマン家四人の悲鳴が見事に揃った。


 そして会場中の貴族達が一斉に息を呑んだ。誰もが理解したかのような瞳で、ドルマン家を見ている。


 ああ、ドルマン子爵家は終わったな、と。


(いやいやいや!)


 この空気は何事ですか!?


 元父様はぶるぶると体を揺すり、今にも倒れそうだった。


「ドルマン子爵? 私は義妹が世話になったと言ったのだが?」

「もっ、もっ、もっ……申し訳ございませんでしたああぁ!!」


(うわぁ……)


 ドルマン子爵は勢いよく地面に正座をすると、かばりと額を床へと擦り付けた。


「はて? 何に対する謝罪かのう?」

「む、娘を勘当した事! も、申し訳ございませんでしたぁ!」


 ドルマン家の誰もが逆らえない、誰も口を挟めない。それほどまでに、女王陛下の声には威厳があった。


 この場面に周囲の貴族たちが一層騒めく。


「も、もしかして?」

「アイリス様はドルマン子爵家の……?」

「ああ、そういえば噂をしてましたわね」

「泥……、こほん」


(ああ、素性バレちゃった!)


「ドルマン子爵、頭を上げよ」

「は、はっ!」


 女王陛下は深くため息をついた。


「謝罪をすべきは、勘当した事では無いし、私でも無い」

「……えっ?」


「分からんのか? ……いや、だがそれは私が言う事では無い」


 女王陛下は扇子を畳む。その小さな音だけで、会場中が水を打ったように静まり返った。


 そして、ゆっくりと私達アルヴェリア家の円卓を、その先で指す。


「行け。ドルマンの沙汰はアルヴェリアが下す」

「ひいいぃ!? お、お許しを!」


 命乞いをするようなドルマン子爵を見下ろしながら、アウローラ女王陛下はキッパリと言い放った。


「王とは民を守る者。貴族とは民の模範たる者。そして親とは、子を守る者であろう?」

「……っ!」


「其方らは、その責務を果たしたか?」


 そのまま女王陛下は続けて言った。


「そして、アイリスはアルヴェリアの娘であり、私の義妹であり、愛すべき家族じゃ」


「ひゅっ」と元父様は息を呑んだ。


「二度とお前の娘などと言うでない、不快である」


 元お父様はついに意識を手放し崩れ落ちた。


 元お母様は涙を流したまま口を開けて硬直し、二人のお姉様は俯き、体を大きく震わせていた。


「……言い過ぎた?」


 アウローラ女王陛下が小さくそう言って、ペロッと小さく出した瞬間を見てしまった。

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