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勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第9章 王都の祝賀会

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第54話 アルヴェリア家の長男

 星冠祝賀会が行われる五日前。アルヴェリア公爵家の一行は、王都グランベルに到着していた。


 王国最大の都市。アストラヴェルも十分に大きなな都市だけど、それでも王都はさらに一回り大きかった。そして、異なる洗練された美しさがある。


 整然と敷かれた白い石畳の大通り。空を見上げるほど高い建物群。色鮮やかな花々で飾られた街路樹。馬車や人々が絶え間なく行き交う賑やかな街並み。


 祝賀会を目前に控えた王都はまるで祭りの最中のような熱気に包まれていた。窓辺には祝福の旗が掲げられ、楽師達が演奏を行い、露店には大勢の人々が集まっている。


「わあ……凄い……」


 馬車の窓から顔を覗かせながら、私は思わず感嘆の息を漏らした。どこを見ても華やかだ、活気に満ちている。


 そんな王都の中心部。巨大な白亜の王城を囲むように広がる貴族街の一角に、アルヴェリア家の別邸は存在していた。そして、それを見た瞬間――絶句してしまう。


「えっ……!?」


 大きい、とにかく大きい。子爵家の屋敷など話にならない。


 王都に入ってから見かけたどの貴族の屋敷よりも遥かに大きくて、広大な敷地の中央にはまるで小さな城のような豪奢な屋敷が建っていた。


 美しく整えられた庭園に噴水。そして門から玄関まで続く長い石畳の道。一目見ただけで桁違いだと分かる。これがアルヴェリア公爵家の別邸――。


「す、凄いですね……!」

「ほとんど使ってないけどね」


 エリオット様がさらりと言った。


「え?」

「僕達は殆ど王都へ来ないから、今となってはシリウス兄様以外使ってないね」


 王城のすぐ近くの王都最高区画。王家から特別に与えられた土地で、広さは他家の邸宅を圧倒している。それを使ってないと言いますか?


「もったいない……」


 その言葉に苦笑する彼でした。


 やがて馬車が外門を潜る。すると、ずらりと別邸の使用人達が整列して迎え入れてくれた。数十人にも及ぶ使用人達が一糸乱れぬ姿勢で頭を下げる光景に、思わず息を呑む。


 そして、その最前列に一人の青年が優雅な笑みを浮かべて立っていた。その姿を見た瞬間――私の思考が止まった。


(ひゃっ……ひゃああっ!?)


 白銀の髪。黄金の瞳。陽光を受けて輝く豪華な礼装。肩から流れる純白のマント。その立ち姿だけで周囲の空気が変わる。まるで物語から抜け出してきた王子様。


 美しいだけではない。王配として国を支える責任を背負った者だけが持つ風格がある。穏やかな微笑みの奥に揺るがぬ意志があり、その姿は若き王という言葉がよく似合った。


 いや、本物の王配様である。


(間違いない……こ、この御方がシリウスお兄様!?)


「よく来てくれたね、皆!」


 その声は明るい。けれど微かに震えていた。


「シリウス、出迎えに来てくれたのか」


 そう言いながら、レオンハルトお父様が馬車から降り、両足でしっかりと地を踏む。それを見た瞬間、シリウスお兄様の表情が崩れた。


「あ、当たり前じゃないか……!」


 声が上擦り、黄金の瞳が潤んでいる。


「こんな日が来るなんて……私は……!」


 十年、長い十年だっただろう。アルヴェリア家の悲劇を誰より知る彼にとって、今日という日は奇跡と思っても仕方が無い。


「ふふ、もう大丈夫だ」


 お父様は優しく笑った。


「これまですまなかったな、不甲斐ない私を許してくれ」


 その言葉を聞いた瞬間。ぽろりとシリウスお兄様の目から涙が零れ落ちた。


「兄様、ご無沙汰しております」


 続いてアレクシスお兄様が歩み出る。


「私も無事、大病から生還しました」

「アレクシス……!」


「私もよ」


 ルミエラお姉様がひらひらと手を振る。


「随分王様っぽくなったじゃない、シリウス兄様」

「ルミエラ……!」


 シリウスお兄様はぐしゃぐしゃに綺麗な顔を崩し号泣し始める中、最後にエリオット様が声を掛ける。


「シリウス兄様、お久しぶりです」

「エリオット……よくやってくれた……! 私は何もできなかった、すまない……!」


「彼女の協力があってこそですよ」


 彼は笑顔で進み出る。


「早速ですが、我が家の次女となったアイリスを紹介します」


 彼が自然に私の左手を取ったその瞬間だった。


「待て、紹介は私がする」

「邪魔よ、下がりなさい」


 ばっと勢いよく、アレクシスお兄様と、ルミエラお姉様が振り向いた。


「えっ?」


 お兄様が右手を取って、お姉様が首に腕を回し後ろから抱き着いた。


「ちょ、ちょっと!?」


 三人が競うように揉めながら引き摺られ、目を白黒させながらそのまま前へ押し出される。最近多いこの陣形で連行される私。


(またこれぇ!?)


 シリウスお兄様は涙を拭いながら苦笑した。


「ア、アイリスと言います……よろしくお願いします……」

「あはは……私はシリウスだ。皆と同じように、これからは私を兄と呼んでくれ」


 シリウスお兄様は三人に呆れながら柔らかく微笑んだ。緊張しきってた私だけど、その包容力のある優しい声音に自然と笑顔になった。




 ◇◇◇




 屋敷の中を案内してくれて応接室へ移動したその後に、これまでの経緯を直接詳しくお話して、シリウスお兄様は深く頷いた。


 そして、近況のお話に移る。


「なるほど、第二王女の結婚を待っていたわけか」

「ええ、私はもう王族と関わりたくありません」


「だろうな……」


 アレクシスお兄様の言葉に、シリウスお兄様は溜息をついた。


「それはそうだな、だから念押しで復活の公表を遅らせたわけだ」


 シリウスお兄様が遠い目をした。


「だが、その分だけ苦悩した男がいる」

「?」


「ヴァルスだ、彼に何も言ってなかっただろう?」


 その名に、アレクシスお兄様が不敵に微笑んだ。


「ヴァルスは元気そうですか?」

「代わりに王女に追われた彼は、最後まで悩みに悩んでいた」


 シリウスお兄様は呆れたように言う。


「お前を差し置いて本当に第二王女と結婚していいのかと、何度も相談されたよ」

「存じてます、書簡が沢山届いてましたからね」


(どういうことだろう?)


 初めて聞く名前に首を傾げ、エリオット様に小声で聞いてみた。


「ヴァルスさんって、どなたですか?」

「例のアークフェルト公爵家の嫡男、王国騎士団長だね。第二王女と結婚した兄様の親友」


「なるほど、第二王女様のお相手の方ですか」

「うん」


 エリオット様は苦笑した後に、一拍置いて続けた。


「親友というか、アレクシス兄様が面白がって玩具(おもちゃ)にしてる人」

「えっ?」


(どういうこと?)


「はぁ……彼はお前を気遣っていた。少し可哀想だぞ、何度も相談を受けた」

「これでいいのです、彼は親友ですから。これからも関係は変わりません」


 アレクシスお兄様は涼しい顔をしていた。それを見て、呆れた表情でシリウス兄様が再び溜息をつく。


「お前の親友は大変だな……」


 シリウスお兄様が何度目か分からない溜息を吐いた。


「……お前が生還したと聞いて非常に喜んでいた。彼のことだ、きっと飛んで来るぞ」


 そんな会話をしている、まさにその時だった。外から凄まじい大声が響いてきた。


「アレクシス――――――ッ!!!!!」


 窓が震えるほどの大音声に室内の全員が一斉に固まる。そしてアレクシスお兄様だけが、実に穏やかな笑顔を浮かべた。


「ああ、来ましたね」

「な、なぁに!?」


 この事態に、私は嫌な予感しかしなかった。

この物語を読んで頂き有難うございます。

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また、評価いただいた方、有難うございました!

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