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勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第9章 王都の祝賀会

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第53話 星冠祝賀会

 国中の貴族達が集う王都の大舞台で、アルヴェリア公爵家が復活した事が公表される。長き受難を乗り越えた名門公爵家は、ついに再び表舞台へ帰還する。


 その舞台に選ばれたのは、王都で開かれる一月後の大祝賀夜会。新女王陛下の即位と、第二王女殿下の婚礼を改めて祝うため、国中の貴族達が集う夜会であり、一大行事だった。


 新女王と第二王女を祝う――『星冠祝賀会(せいかんしゅくがかい)』。


 王都では今なお祝い続きで熱気が冷めておらず、街中が華やかな装飾で彩られ、人々の笑顔が溢れているらしい。王配となったシリウス様への祝福も、この機会にまとめて行ってしまおうという話になった。


「どうせ公表しなければならないなら……」


 エリオット様が、机に突っ伏したくなりそうな暗い顔でため息をつく。


「一回で全部、綺麗さっぱり終わらせよう」


 一度に全てを終わらせる、その言葉に全員が渋い顔をして深く頷いていた。どうやらアルヴェリア家の皆は社交が苦手らしい。そして今や私もその輪に加わっている。


 そんな家族の姿を見て思わず苦笑してしまった。どうやらアルヴェリア家は、揃いも揃って本当に社交嫌いらしい。


「終わったら、すぐさまアストラヴェルに引き籠る」

「賛成」


 アレクシスお兄様が断言すると、珍しくルミエラお姉様が即座に同意した。


 かつて王宮魔術師の団長として王都で活躍していたアレクシスお兄様だったけれど、様々な出来事があったせいか、王都での暮らしには良い思い出がほとんど無いらしい。もう二度と王都で生活する気はないのだという。何より第二王女の存在が、彼の気分を憂鬱にしてるのだろう。


 ルミエラお姉様に至ってはさらに極端だった。これまで数え切れないほどの招待状が王都から届いていたそうだけど、その全てを拒絶。王家主催の夜会ですら、「面倒」の一言で断り続けてきたらしい。

 そのため、まだ見ぬアルヴェリアの姫君に国中の貴族たちは興味津々らしい。そんな引き籠りのお姉様が、今回初めて王都へ赴く。きっとびっくりすると思う、女神すぎて。


 エリオット様も、まだ若かったことに加え、家族の病や領地の問題に追われていたため、正式な社交界に出る事は今回が初めてとなる。そして、エリオット様は次期当主に任命され、その発表もある。彼は当主になる事に凄く戸惑ってたけど、私は特に驚かなかった。だって優秀過ぎるもん。


 つまり今回の『星冠祝賀会』では、養女となった私だけではなく、ルミエラお姉様、そしてエリオット様の、初のお披露目も兼ねていた。


 一家総出、まさに総力戦である。


 全員が暗く嫌そうな表情で、心の底から面倒そうにしている。それなのに――


「やらねばならない、絶対に」


(あれ……?)


 家族の皆がその言葉を呟き、私は首を傾げた。その表情は誰一人として明るくない、でも何故か妙にやる気がある。


「面倒だ、まったく。だが仕方が無い」


 レオンハルト父様が低く呟く。


「面倒ですわねぇ」


 アネッサ母様も苦笑いを浮かべた。


「面倒ですとも」


 ゼネブ父様まで深く頷く。


「面倒くさい、だがやるべき事だ」


 アレクシスお兄様も、実に嫌そうな顔をしている。


「面倒だわ、だけど理解(わか)らさせてあげないと」


 ルミエラお姉様は、いつものように気だるげに呟いた。


「面倒だけど、やるしかないね」


 最後にエリオット様が肩を竦める。


 全員が嫌そうにしつつも、皆から妙な真逆の熱意を感じるのである。面倒そうにしているのに、やたらと気合が入っている。二人の父様も、母様も、兄様も姉様も、エリオット様まで。どこか不思議と静かに闘志を燃やしていた。


 面倒だと言いながら、誰も「行きたくない」とは言わない。


 レオンハルト父様は穏やかに微笑みながら、瞳の奥に熱意を秘めているような気がする。アレクシスお兄様は礼装の確認を何度も行っていた。エリオット様に至っては、満足そうに微笑みながら何やら資料を整理している。


「お姉ちゃんがアイリスを護るからね」


 ルミエラお姉様はそう言って、虹色の宝石を瞬かせ私を抱きしめてくる。さぼり魔なお姉様までどことなくやる気を見せていた。一歩も城から出たがらない人なのに。


 嫌々な表情とは裏腹に、妙な気合を見せる家族が不思議で仕方がない。


(何か目的があるみたい?)


 そんな家族の姿を眺めながら、私は改めて、大貴族の視線に立つと世界はこんなにも違うのだと思っていた。


 子爵家にいた頃、父達は少しでも上位貴族との縁を結ぼうと躍起になっていた。両親は夜会に出かけては頭を下げ、有力者に媚びを売り、少しでも良い縁を作ろうと必死だった。貴族とはそういうものなのだと思っていた。


 多くの貴族が社交に励むのは、王家の庇護や他家との繋がりを必要としているから。けれどアルヴェリア家は違う。他家との縁を求める必要が特に無いのだ。


 王国随一の広大な領地に豊かな穀倉地帯。膨大な財力。巨大な商会。精強な騎士団。そして、国内最強と呼ばれる魔術戦力。王国有数の大都市アストラヴェルを中心に栄えるアルヴェリア公爵領は、もはや一つの小さな国のようだった。


 アルヴェリア家は必要とする側ではなく、必要とされる側。他家との繋がりが無くても困らない。むしろ王家や数多の貴族達が、アルヴェリア家との縁を求めている。それほどの巨大な存在だった。


 だから彼らにとって社交とは必要なものではなく、向こうから寄ってくる人々に応じるための面倒事に過ぎない。公爵家の娘になると世界の見え方まで変わるのだと、しみじみ思ってしまう。


 そんな家族が何故か、気だるそうにしながらも、静かに気合を入れている。


 この時の私は何一つ知らない、その胸の内を。密かに燃やしている熱い闘志のその理由を、私は分かっていなかった、全く気づいていなかった。


 ”国中の貴族達が集う”という事には問題があったのだ。幸せな毎日に満たされて、すっかり自分の境遇を忘れていた。それどころか、祝賀会はともかく家族皆での小旅行を楽しみにしていた。


 かつて”泥まみれ令嬢”と呼ばれ勘当された私が、公爵家に愛された養女となりお披露目されることの意味を、全く分かっていなかった。


 こうして、『星冠祝賀会』への参加を表明したアルヴェリア公爵家。


 新女王陛下の即位。第二王女殿下の結婚。そして、長き受難を乗り越えた公爵家の復活。三つの吉報を祝う祝賀会に王国中が沸き立つ中、一行の豪華な馬車と騎士団は、王都グランベルへ向けてゆっくりと進み始める。


 ――祝福と喝采が溢れる、その華やかな舞台へ。


 ”泥まみれ令嬢”が姿を見せる時が、刻一刻と近付いていた。

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