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勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第1章 泥まみれ令嬢

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第5話 蒼月の雫

 エリオット様はすごく嬉しそうに、釜の中から半透明の白い小瓶をいくつも取り出した。

 その中に透明感のある液体が、月の光を閉じ込めたように淡く輝いている。


「……6、8、10……12本……!」


 数えながら、さらに目を見開く。


「この量の蒼月花で、12本……信じられない……! 花が最高品質だからだ……!」

「そ、それって……いい結果なんですか……?」


 恐る恐る尋ねると、彼は勢いよくこちらを向いた。


「いいどころじゃないよ!」


 ぐわっと距離が縮まる。近いよぉ!


「君に会う前は、3本できれば奇跡だと思ってた!」

「ええっ!?」


「本当にすごい、ありがとう! アイリスのおかげだよ!」


 ぐいぐいとさらに近づかれて、追い詰められるように思わずソファの背もたれに体を預けてしまう。


「そ、そんな……私はただ、本から出しただけで……」

「それができることが、どれだけの価値があるか分かってる?」


 真っ直ぐな目で見つめられて、言葉が詰まる。


 ゼネブさんとアネットさん以外の誰かに、こんな風に真剣に褒められた事なんて今までなかったから、戸惑っちゃう。


「それで、もっと【蒼月の雫(ブルームーン・ティア)】を作りたくって……」

「えっ?」


「アイリスに蒼月花を生み出して欲しいんだけど……出来るかな? 魔力は大丈夫?」


 距離が、近い。

 綺麗な顔が、近い。

 息かかりそうなくらい、近い。


 彼は何だかちょっと強引で、距離が近い。


「で、できると思います……魔力も、全然大丈夫です」


 顔の熱を感じ目を逸らしながら必死に答えると、彼はぱっと嬉しそうに笑った。


「よかった!」


 その笑顔が、とっても眩しい。


「じゃあ――もう少しだけ、付き合ってくれる?」


 その言い方が、どこか優しくて少しだけ甘くて。

 役立たずの私が誰かの役に立てる日が来るなんて……断る理由なんて、どこにもなかった。


「……はい」


 小さく頷くと、彼は満足そうに目を細めた。


「ありがとう、アイリス」


 名前を呼ばれて胸の奥が、また少しだけ熱くなる。


 こうして私は――


 ブルームーンが淡く照らす深夜の静かな丘の上の小さな工房で、公爵家三男エリオット様と共に薬を作り続けることになりました。



 ◇◇◇



 馬車の中では錬金釜の淡い光が揺らめき、外の青い月明かりと混ざり合って、不思議な幻想的な空間を作り出している。


 窓の外では、ゼネブさんとアネッサさんが心配そうにこちらを覗き込んでいて、時折目が合うと小さく手を振ってくれるのが見えた。


(……なんだか、夢みたい)


 さっきまで、ただ花を見に来ていただけなのに。


 今は公爵家の方と、こんな風に一緒に薬を作っているなんて――。


「アイリス、もう一度お願いできる?」

「は、はい!」


 エリオット様の声に、私は慌てて《花の帳(フローラル・レコード)》を開く。


 ページを撫でると、淡い光が立ち上り蒼月花がふわりと現れる。それを彼に手渡すと、すぐに釜へと放り込まれ、他の素材とともに混ざり合っていく。


「……やっぱり、君はすごいな」

「え?」


 ぼそりと呟く声に、思わず顔を上げる。


「いや、何でもない」


 そう言いながらも、エリオット様の視線はどこか柔らかくて、ほんの少しだけ優しく細められている気がした。


 首を傾げつつも、次の素材を取り出す彼の手元を見守る。


 錬金釜に素材が投入され、魔力が流し込まれると、またあの「ぽぉん!」という軽やかな音と共に小瓶が生まれる。

 その一連の流れはすでに何度も繰り返されているはずなのに、見ているだけでわくわくしてしまう。


 すごく楽しい!


「ねえアイリス」

「はい?」


「そのスキル、これまではどう使っていたの?」

「えっと……主に、知らないお花を眺めたりとか、育てる参考にしたりとか、収集したりとか……」


「……それだけ?」

「そ、それだけだったんです」


 言ってから、なんだか恥ずかしくなってしまって、視線を逸らす。


(だって、本当にそれくらいしか……花を取り出せるなんて思わなかったし!)


 すると、次の瞬間。


「……ははっ」


 エリオット様が、面白そうに小さく笑った。


「えっ?」

「まぁ、君のスキルは特殊だね、分からなかったのも仕方が無い」


 綺麗な顔がまた近づいてきた。だから、近いよぉ!


「これから《花の帳》の能力を開花していくと良い。きっと、他にも出来ることがあるはずだ」

「そ、そうなんですか!?」


 ドキドキしながら答えると、彼は続けて言った。


「全然分かってないようだけど、君は今とても凄いことをしてるんだよ?」


 褒められて、その意味も分からなくて、きょとんと首を傾げてしまう。


 だって――今までずっと、“役立たず”って言われてきたから。誰かの役に立ってる実感が湧きにくいのだ。


 そんな私を見て、エリオット様は少しだけ目を細めて微笑んだ。その視線が、さっきよりもずっと――優しくて、柔らかくて……こんなに近くで微笑まないで欲しいです。


 彼はくるりと釜の方へ向き直り、薬作成の作業へと移っていった。


「――おっと、まずい……!」


 棚を見回しながら、エリオット様が少し眉を寄せる。


「もう薬草の手持ちが無くなりそうだ……」

この物語を読んで頂き有難うございます。

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