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勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第1章 泥まみれ令嬢

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第4話 深夜の薬作り

 開いた《花の帳》の上に、静かに横たわり淡く光る蒼月花が、美しいその花弁を揺らしていた。


「ええええっ!?」


 しかも、一輪ではない。まるで咲き誇るかのように、蒼月花が何輪も重なり合っていた。


(ふ、増えてるぅ……!)


「こ、これは……やはり……!」


 エリオット様が即座に反応する。


「《鑑定(アナライズ)》!」


 一瞬、彼の瞳が淡く光った。


「間違いない……紛れもなく本物の蒼月花……しかも、すべて最高品質だ……!」


 その言葉と同時に、エリオット様は勢いよく私の手を掴んだ。


「――来て!」

「えっ!? ちょ、ちょっと!?」


 ぐいっ、と強く引かれる。


 驚く間もなく、私はそのまま引きずられるように馬車の方へと連れて行かれる。

 私は焦りまくり、ゼネブさん達や騎士達も慌ててる。


「あ、あの!? ちょっと!?」

「アイリス、頼む! 協力してくれ! 君の力が必要なんだ!」


 真剣な声を発しながら私を振り返り見つめる。距離が近いんだってば!


 手を握られていることに今さら意識して、心臓がどくどくと大きく跳ねる。


「きょ、協力って……な、何を……!?」

「今すぐ薬を作りたいんだ!」


 彼の瞳は、強い意志でまっすぐに私を射抜いていた。


「礼は幾らでもする。だから――力を貸してくれ」


 二度繰り返された真剣なその言葉に。


 私は、戸惑いながらも――小さく頷いてしまった。




 ◇◇◇


 


 馬車の扉を開けて中へと押し込まれるように入った瞬間、ふわりと鼻先をくすぐる、どこか甘く、それでいて少し刺激的な香りに私は思わず目を瞬かせた。


(なに、この匂い……)


 花の香りとも違う、けれどどこか似ている、不思議な匂い。


 乾いた薬草の青さと、煮詰められた液体のような濃厚さが混ざり合ったそれは、まるで小さな工房の中に迷い込んだかのような錯覚を覚えさせる。


 馬車の中は外から見た以上に広く、揺れを抑える魔道具でも使われているのか、足元は驚くほど安定していた。


 壁際にはしっかりと固定された棚が並び、そこには大小様々なガラス瓶や陶器の壺が整然と収められている。


 瓶の中には乾燥した薬草、粉末状の何か、見たこともない色の液体、さらには小さな骨のようなものや、鱗らしきものまで入っていて、見ているだけで目が回りそうだった。


 机の上にはすり鉢と乳棒、刻みかけの薬草の束、薄く煙を立てる小さなランプ。


 そのどれもが使い込まれていて、ここがただの移動用の馬車ではなく、明らかに“作業場”であることを物語っている。まさに、薬師の工房だ。


「座って。揺れは少ないけど一応ね」


 促されるまま、私は備え付けの柔らかなソファに腰を下ろした。


 ふかりと沈む感触に少しだけ緊張が緩むものの、状況が状況なだけに心臓は相変わらず落ち着かない。


(なんで私、こんなところに……)


 ちらりと横を見ると、すぐ近くでエリオット様が棚からいくつもの瓶を取り出している。


 白銀の髪がさらりと揺れて、横顔にかかる影が綺麗で――思わず見とれてしまいそうになって、慌てて視線を逸らした。


(だ、だめだめ! 落ち着いて、私!)


 けれど次の瞬間、その意識は別の意味で吹き飛ばされることになる。


「《錬金の神匠(デウス・アルケミア)》――釜を出せ」


 低く呟かれたその言葉と同時に、空間がふわりと歪んだ。


「……え?」


 何もない空中に、光の輪が広がる。


 そこから――


「ええええっ!?」


 金色に輝く、大きな釜が“現れた”。


 まるで最初からそこにあったかのように、自然に、けれど確かに“出現した”それは、装飾の施された重厚な造りで、内側には淡く魔力の光が揺らめいている。


「な、な、なにこれ……!」


 ゆっくり床に着陸した釜に、驚いて思わず立ち上がりそうになる私を、エリオット様はくすりと笑った。


「そんなに驚かなくてもいいでしょ」

「だ、だって……空中から……釜が……!」


「君の《花の帳》と一緒だよ、スキルさ。僕は錬金術師なんだ」


 さらりと言ってのけるその顔は、どこか誇らしげで、でもそれ以上に楽しそうで。


「僕は素材さえあれば、薬や金属、道具等、色々な物が作れる」

「へ、へえぇ……?」


 突然の出来事に理解が追いつかない。というか、追いつこうとすると余計に混乱する。


(もう考えるのやめよう……)


 半ば思考放棄しながら見守っていると、彼は次々と瓶の中身を取り出し、迷いなく金ぴかの釜の中へと放り込んでいった。


 茶色い鱗、水色の球根植物、薬草の束、黄金色のとろりとした液体など。


 どれもこれも見たことのない素材ばかりで、それが釜の中の魔力の渦に混ざっていく様子は、少し不安になるほど大胆だった。


 さらに彼は壺から、土や砂利のようなものまで掴んで――


「ちょ、ちょっと待ってください!?」


 思わず声が出る。


「そ、それ……土ですよね……?」

「うん」


「い、一緒に入れちゃっていいんですか……!?」

「いいんだよ。これは薬の容器の基材になるんだ」


「よ、容器……?」


 ぽかんとしちゃう。


 どういうことなのか全然分からないけれど、彼はまったく気にした様子もなく、それも釜の中へと入れた。


 そして最後に、私が差し出した蒼月花を――


「蒼月花が一番大事な、”主要素材”だ」


 そう呟いて、そっと投入する。その仕草だけは、どこか丁寧で、少しだけ優しくて。


(……あ)


 不思議と蒼月花が釜に沈むその瞬間だけ、胸がきゅっとなった。


 彼は両手を釜へとかざし、静かに魔力を流し始める。淡い光が釜の縁を伝い、内側でぐるぐると渦を巻いた。


 やがて――


「ぽぉん!」


 どこか間の抜けた、けれど妙に可愛らしい音が響いた。

 同時に、釜の中から柔らかな光が溢れ出す。


「わわっ……!」


 思わず身を引く私の横で、エリオット様は食い入るように釜の中を見つめていた。

 その時間はほんの数分だったはずなのに、やけに長く感じられる。


 そして――


「……やった……!」


 彼の声が震える。


「やったあああ! 【蒼月の雫(ブルームーン・ティア)】、完成だ!」

「えっ……もう……?」


 あまりにもあっさりした完成に、ぽかんと口が開く。一瞬だった。


「うん、成功だよ!君のおかげだ!」


 振り返った彼の顔は、さっきまでの冷静さが嘘みたいに子供のように輝いていた。


 その笑顔に、一瞬どきりとする。


(な、なにこの人……かわいい……?)


 感情が迷子になってしまう私でした。

この物語を読んで頂き有難うございます。

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