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勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第4章 公爵家の一族

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第21話 能力の開花

 暫くの自由を与えられた私は、公爵家の広大な庭園の一角をお借りして、与えられた時間を有意義に過ごしていた。


 手入れの行き届いた芝生の一部にしゃがみ込み、そっと掌を地面へと向けると、胸の奥に沈めていた感覚――《花の帳》が静かに開かれる。


 そこから生み出されるのは、私がこれまで集めてきた草花たち。


 淡い光の粒子となって現れたそれらは、やがて土へと溶け込み、芽吹き、瞬く間に葉を広げ、花を咲かせていく。


「……よし、ここはこの子たちで」


 私は独り言のように呟きながら、次々と植物を生み出していく。


 《花の帳》に登録されている植物は、現在およそ5千種。これまで一生懸命に必死に集めてきた成果だ。けれど、世界に存在する40万種という膨大な数には、まだ遠く及ばない。


「わああ、綺麗! 本当にあっという間に……!」


 隣で土を均してくれているアネッサさんが、感嘆の声を上げた。

 振り返ると、彼女は目を輝かせながら、色鮮やかな花畑を見渡している。


 半日も経たないうちに、殺風景だった一角は色とりどりの草花に埋め尽くされ、小さな楽園のような景色へと変わっていた。


 風が吹けば、柔らかな香りが混ざり合い、心地よく頬を撫でていく。


「……ふふっ」


 思わず笑みがこぼれる。

 ここにあるのは、私が積み重ねてきた時間の結晶。努力の証そのものだ。


 ――まだ半分も植えられていないけれど。


 エリオット様に登録済の植物を、落ち着いたら全部見せてほしいと言われてる。私が生み出せる植物の中から、彼の『製作図(レシピ)』が解放できる植物がいるかもしれないからだ。


「あっ、そういえば……」


 ふと、手を止めた瞬間、エリオット様のある言葉が脳裏に蘇る。


『これから《花の帳》の能力を開花していくと良い。きっと、他にも出来ることがあるはずだ』


 彼の穏やかな声。


「能力の、開花……か」


 ぽつりと呟きながら、自分の手のひらを見つめる。


 彼の《錬金の神匠》には、“錬成”、“製作図”、“鑑定”という能力がある。

 それに対して、私の《花の帳》は“生成”、“登録”、“閲覧”。


 エリオット様と、私のスキルはどこか似ている。


「……鑑定?」


 小さくその言葉をなぞる。


 彼が”鑑定”を使うたび、羨ましく思っていた。

 目に映るものを即座に理解できる力。毎度《花の帳》を開いて確認しなくても済む便利さ。


「植物だけなら……私にも、できたりしないかな」


 呟いた瞬間、自分の中で何かが引っかかった。


 ――”閲覧”。


 それを外に向けて拡張することはできないだろうか。


「簡単に登録済の植物と、未登録の植物を、簡単に見分けられたらいいなぁ」


 お城の敷地内に居る植物は何でも登録していいと言われてるけど、その方法は漏れなく片っぱしから植物に触れている状態である。


 触れる前に分かれば、どれだけ効率的になるだろうか。


「……やってみよう」


 私は静かに息を整え、意識を一点に集中させた。

 体の奥底から、魔力を汲み上げるように。それを、ゆっくりと、瞳へと集めていく。


 じわり、と視界の奥が熱を帯びた。


「……っ」


 次の瞬間。世界が、変わった。


「え……っ?」


 思わず息を呑む。


 足元に広がる草花たちが、淡く青い光を纏っていた。それだけではない。視界の端に、文字が浮かび上がっている。


 植物の名前。そして、その横に小さく添えられた――[ 登録済 ]の表示。


「うそ……、これって?」


 ゆっくりと顔を上げ、庭園全体を見渡す。

 青い光の海の中に、ぽつぽつと――違う色が混じっていた。


 白。


「……あれは?」


 胸が高鳴るのを感じながら、その白い光の一つへと近づくと、視界に文字が浮かび上がった。



 ◆ヴェントラ[ 未登録 ]

 覚醒草とも呼ばれる、“気付け”の効能を持つ草。



「……やっぱり!」


 思わず声が弾む。

 目に映るのは植物の名前と簡略化された説明、そして未登録の文字。


 しゃがみ込み、その草にそっと触れると、ふわりと光が弾け、粒子となって私の中へ――《花の帳》へと吸い込まれていった。


「すごい……!」


 青は登録済。白は未登録。こんなにも分かりやすい形で“答え”が示されるなんて。

 胸の奥から、じわじわと喜びが込み上げてきた。


「やったぁ!」


 思わず両手を握りしめる。


 これで、闇雲に触れて確かめなくてもいい。非常に分かりやすい指針を手に入れたっ!



 ◇◇◇



 その後の私は、まさに夢中だった。


 お城や庭園を歩き回り、白い光を見つけては駆け寄り、触れて登録する。

 視界に流れ込む情報量は多く、長く使えば少し頭が痛くなるものの、魔力の消耗は驚くほど少ない。


(……やりたい放題だけど、許可はもらってるし、いいよねっ?)


 誰にともなく言い訳をしながら、くすりと笑う。


 せっかくだから、と私は自分の能力に名前を付けることにした。


 登録は――“花写し(ブック)”。

 閲覧は――“花読み(リード)”。

 生成は――“芽吹き(グロウ)”。


「うん、いい感じ……!」


 ルンルンと満足げに頷き、上機嫌にその場でくるりと一回転する。

 花々が揺れ、色彩が混ざり合い、まるで祝福してくれているようだった。


 ――その時。


「……エ、エレノア……?」


 背後から、(かす)れた声が聞こえた。


「えっ?」


 振り返ると、そこには車椅子に座る当主様と、付き添いの侍女さんの姿があった。


(ひゃ、ヒャ――!?)


 一瞬で血の気が引く。


「も、申し訳ありません! 勝手に……!」


(夢中になりすぎて、いつの間にか当主様の庭園に居た――――!?)


 慌てて頭を下げる私に、当主様は硬直していた。

 ただ――すごく驚いた表情で、じっと私を見つめている。


 その視線は、どこか焦点が合っていないようで、それでいて深く何かを確かめるような色を帯びていた。


「……あ、ああ……君か……アイリス嬢」


 やがて、小さく言葉を紡いだ。


「は、はい……すみません、お邪魔しておりました」

「いやいや……構わんよ。君にもこの庭園の花を愛でてほしい」


 穏やかな声だけど、その奥に微かに揺れる感情を感じ取った。


「先程のは……幻か……?」

「……?」


 問い返すように呟いて、当主様はゆっくりと首を振った。

 そして改めるように、まじまじと、じっくりと、真剣な瞳で私を見つめてきた。


(ひゃ――!? や、やだっ! 私を見ないでぇ!)


 ただその場に立ち尽くし、動揺しながら赤面しちゃう私でした。

この物語を読んで頂き有難うございます。

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また、評価いただいた方、有難うございました!

今後ともよろしくお願いします。

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