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勘当された泥まみれ令嬢は、公爵家に愛でられる  作者: 霞灯里
第3章 お薬の素材探し

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第12話 最初のお仕事

 街の中央にあるアルヴェリア城は広大な敷地を有し、空に向かって堂々とそびえ立っている。


 重厚な外門をくぐると、規律正しく整えられた美しい庭園が迎えてくれた。城に近づくだけで自然と背筋が伸びてしまうほどの威厳を放っている。


 まさか、自分がこんな所に足を踏み入れることになるなんて……馬車が重厚な外門をくぐった瞬間から、胸が落ち着かなくて仕方がなかった。


 敷き詰められた白い石畳の道を進むごとに、現実味のない光景が次々と目に飛び込んできて、自分の場違い感がじわじわと心を締めつけてくる。


 やがて正面の大門へと辿り着くと、優雅な装いの侍女が整然と並び、私達を出迎えてくれた。

 そして城内を案内してもらい、広すぎて迷子になりそうな回廊をいくつも抜けた先で、私は息を呑んだ。


 通された部屋は“客室”という言葉では足りないほどに豪奢で、磨き上げられた床は光を反射し、壁には繊細な装飾が施され、カーテンには銀糸の刺繍があしらわれている。


 中央には広々とした居間があり、その奥には寝室が二つ。

 そこには天蓋付きの柔らかそうな大きすぎるベッドがあった。


 体がふるりと震えた。


(こんなところで……本当に、私が寝泊まりするの……?)


 お部屋に呆然としていると不意に扉が開き、明るい声が室内に差し込んできた。


「アイリス、おはよう!よく来てくれたね!」


 振り向くと、いつもと変わらない柔らかな笑みを浮かべたエリオット様が、数名の侍女を従えて部屋に入って来た。


「お、おはようございます……あの、このお部屋、あまりにも豪華すぎませんか……?」


 戸惑いを隠せずにそう尋ねると、彼は当然のことのように肩をすくめる。


「大事な客人をもてなすのは、当然だからね」


(客人って? 私、助手として雇われたはずじゃ……?)


 喉まで出かかった疑問を、どうにか飲み込む。

 それ以上に、頭の中では別の言葉が何度も何度も反響してるからだ。


『年頃の男子であることには変わりありません』

『お嬢様を女性として意識されているように思えます』

『“手を付けられる可能性”は否定できません』


 ゼネブさんの真剣な表情とともに蘇るその忠告に、再びぶわっと一気に顔が熱を帯びる。


「どうかしたの?顔が赤いよ?」

「い、いえっ、何でもありません!」


 慌てて彼から視線を逸らし、そのまま誤魔化すように話題を変えた。


「そ、それで……今日は何から始めればよろしいでしょうか?」

「そうだね、少し休んでから……まず最初に」


 エリオット様は、どこか楽しげに微笑みながら、さらりと言った。


「君の“体の採寸”からだね」

「……は?」


 一瞬、言葉の意味が理解できず、思考が止まる。


(採寸って……私の体を? えっ! どうして!? )


 頭の中で不穏な妄想が膨らみ始めたその時、ふと視界の端に優雅にお茶の準備をしている侍女の姿が映った。すらりとした体躯に整った顔立ちで、その洗練された所作は見惚れてしまうほど美しい。


(ま、まさか……!)


 点と点が繋がる。


(ぬ、脱がせて……体を測って……気に入った女性を、側に(はべ)らせてるの……!?)


 一度そう思ってしまうと、もう止まらなかった。


(普段からそんなことを……!? だからこんなに綺麗な人ばかり……!?)


 混乱と焦りで思考が暴走し、私は思わず両腕で体を抱きしめるようにして身を引いた。


「や、やっぱり貴方(あなた)は……私をそんな目で見ていたのね!」

「へっ?」


「女性を脱がせて体を測るなんて、まだお若いのに……随分とませていらっしゃいますわね!」

「は、はああぁ!?」


「私は絶対に、そんなことしませんから!」

「アイリス、違う!何か誤解してる!」


「何が違うのですか!体を測るなんて、どう考えてもおかしいじゃありませんか!」


 必死に弁解しようとする彼に、詰め寄るように言い(つの)ると――


「だから誤解だって!君をそんな目で……」


 そこで彼は一瞬言葉を詰まらせ、そして小さく付け加えた。


「……見てなくもない」

「ほらああぁぁ!やっぱりじゃないですかぁ!もう帰りますからぁ!」


 室内に私の悲鳴がきゃんきゃんと、甲高く響き渡った。




 ◇◇◇




 ――完全に、誤解でした。


 エリオット様が“採寸”したかった理由は、働く際に着用する公爵家の制服――白と銀を基調に、紺のリボンや刺繍があしらわれた、上品で愛らしい意匠の衣装を仕立てるためで、極めて真っ当なお話でした……。


 エリオット様は退室し“男子禁制”となった室内で、私はアネッサさんとともに下着姿で侍女たちに丁寧に採寸されていた。


 先ほどの騒動を一部始終見ていた侍女たちは、くすくすと控えめに笑みをこぼしながらも、手際よく採寸を進めている。

 その優雅な様子が、かえって私の羞恥心(しゅうちしん)を刺激して顔から火が出そうだった。


 首回りや肩幅、腕や脚の長さはもちろんのこと、手首や足首の細さ、さらには指一本一本の長さや太さに至るまで、驚くほど細かく測られていくその様子に、唖然としてる。


(ここまで……採寸って必要なの……?)


 ドルマン家でドレスを仕立ててもらった時でさえ、ここまで徹底した採寸はしてなかった。私は雇われただけの立場なのに。


 それでも彼女たちは一切の妥協なく、まるで芸術品を扱うかのように慎重かつ丁寧に採寸し、私の体の寸法を記録していく。


 ようやく終わり、侍女たちと同じ意匠の”仮”の給仕服を着付けしてもらって、袖を通した頃にはすっかり力が抜けていた。


 そこへ、タイミングを見計らったかのように扉がノックされる。


「終わったようだね」


 戻ってきたエリオット様に、私は思わずじとっとした視線を向けた。


「……絶対に、採寸の結果はご覧にならないでくださいね」

「見ないよ……たぶん」


「たぶんって言いましたよね!?」

「あはははっ」


 屈託なく笑う姿に、悔しさと恥ずかしさが入り混じり、胸の奥が落ち着かない。

 からかわれてると分かってるのに、そんな彼の笑顔に目が離せなくなっている自分がいた。

この物語を読んで頂き有難うございます。

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また、評価いただいた方、有難うございました!

今後ともよろしくお願いします。

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