善意のボランティア(有償)
ミトラ山脈麓の森には、探検隊の遺品が数多く転がっています。
「これは……うん、悪くない」
兵どもが夢の跡、熊との戦いで脱落した探索者たちは、死に際して身につけていた装備を失いました。
「これは質が悪いね、捨てておこう」
そうして森の中に打ち捨てられた激闘の証を漁り、あまつさえ掠め取ろうとする浅ましい戦場漁りが、森の中をテクテクと闊歩しています。
その小さな人影は身の丈ほどもある剣を拾い上げ、手品のように何処かへと隠してしまいました。ルンルンと上機嫌で戦士たちの誇りを漁る、そのハイエナの正体とは…………
「サナダー、この辺の回収は終わったよー」
そう、我らがマリーちゃんです。ミトラ山脈探検隊の遺品を有効活用するため、マリーとサナダはこの森を歩き回っていました。
「りょーかい、良い物はあった?」
「良質な剣があったよ、多分デスマーチの人が持ってた武器だね」
「良いね良いね、やっぱ大規模イベントの後は遺品が美味い」
勘違いしないで欲しいのですが……別に、ロビーでも遺品漁りが正当化されているわけではありません。二人が行っているのは失われゆく武器を拾って救う、いわば一種のボランティア活動なのです。
ダンジョンに放置された武器は時間経過で崩壊して、その世界の養分となってしまいます。せっかくの武器が粉々になって失われてしまうなどあまりにも勿体ない、であればそれを回収して元の持ち主に返してあげるこの活動は、紛れもない善行なのです。
「ただ死亡前提だからほどほどの物しかないねぇ、それでも美味いんだけど」
「トップギルドは捨て武器ですら良い物を使うんだね? 勿体ない勿体ない」
「もったいないオバケたちが出てこないように、私たちが有効活用してあげないと」
重ね重ね申し上げますが、ロビーにおける遺品回収は元の持ち主に返すためのボランティア活動です、善行なのです。ただちょっと返すのが無理そうで捨てるしかないのなら、誰かに使ってもらえるよう、マーケットに流してリサイクルするというだけで。
ちょっとその時にボランティアの対価として相応のお小遣いをいただくだけで、これは紛れもない善行です。少なくとも表向きはそういうことになっています。
ですから二人は突如現れたその男に対しても、冷静に対応することが出来ました。
「やあお二人、奇遇だね」
デスマーチのギルドマスター、サイトゥスです。二人に向けられた視線と開いた瞳孔、そしてその手に握られた抜き身の直剣は、彼が熊の脅威から子供たちを守ろうとする好青年であることを強烈に示唆しています。
「どうも、サイトゥスさん」
「サイトゥスさんも遺品回収に来たんですー?」
サナダとマリーは後ろめたいことなど無いというばかりに、友好的な笑顔で彼に返事をしました。サイトゥスから見た二人は仲間たちの遺品を漁る賊に映るかもしれませんが、二人の笑顔と言葉に欺瞞はありません。マリーがいつでも逃げられるようサナダの背に近づいていますが、特に深い意味は無いハズです。
「そうだね、出来れば全員の遺品を持ち帰りたいんだけど……やっぱり一人じゃ無理があったよ」
「一人なんです? 危ないじゃないですか」
「殺されたら装備回収できないよ?」
「いやはや、一応仲間を誘いはしたのだがね、断られてしまったのだよ。「捨て武器なんかよりレベル上げ優先だろ」などと言われてしまい、取り付く島もない」
それでも彼がここに来たのは、きっと未練でしょう。「せっかくの装備がただ失われてしまうのはもったいない」「たった一回の挑戦に武器を使い捨てるなんて耐えられない」そんな人間らしさが、彼をここに導きました。
つまり、この場に居る三人の利害は一致しているのです。抜き身の剣を手に二人を見つめるサイトゥスはいつ殺しにかかってくるか分かったモノではありませんし、並んで立っているサナダとマリーはいつ逃走を始めてもおかしくないです。しかし「遺品を有効活用したい」という共通点を持つ三人が協力をすることは、そこまで難しくはないハズです。
「だったら一緒に行きませんか? マリーは沢山荷物を持てますし、僕はどこからでも脱出できる、遺品回収の役に立ちますよ」
「私たちは戦闘力が欠如しているから、襲われたら普通に死にかねないんだよね。サイトゥスさんが守ってくれると嬉しいな~」
「良いのかい? 是非ともお願いするよ!」
こうしてミトラ山脈探検隊改め、ミトラ山脈遺品回収隊が結成されました。レベル10スキル保有者三人で構成された正真正銘の厨パです、これを崩せる探索者などそうそう居ないでしょう。




