ミッションを説明します
「では作戦を説明しやしょう」
ホテルスリーシープの会議室にサナダとマリーを連れ込んだヒノが、机にA3サイズの紙を広げてブリーフィングを始めました。子供二人を誘拐した倫理的な問題人物とは思えない堂々さですね。
「今回の目標は【始まりの平原】を飛ぶモンスターである「タンポポ鳥」、正確にはそれが落とす羽毛でありやす」
「はーい! 何が何だか分かりませーん!」
「鳥を狩るんですね? インベントリで砲台でも運ぶんですか?」
サナダ君は賢いですねぇ、いきなり攫われて何の前置きもなく作戦を話されてるのに、頑張ってついて行ってます。普通は隣のマリーちゃんみたく無知無知になるでしょうに。
そんな彼の姿勢を気に入ったのか、ちょっと笑顔になったヒノが詳しい説明を始めました。
「うむ、インベントリを使うというのは合っておりやす。ただし取り出すのではなく、集めるのですがね」
「集める?」
「今回のターゲットであるタンポポ鳥は、空を飛びながら馬鹿みたいな量の羽根を落とすモンスターなのですよ」
始まりの平原は様々なモンスターが生息していますから、こういうヘンテコな手合いもおります。初期マップなだけあって広いというか、色々なエリアがあるのですよ。
「馬鹿みたいってどんくらい?」
「そりゃあもう雪が降ってるんじゃないかってぐらい大量です、ヤバいです」
「なんですかその天然人工降雪機は」
「ちなみに全身から新しい羽毛が生え続けておりますから、矢を射っても「ズモモモモ」って身体から押し出されやす。討伐は無理ですな」
「コワー……」
ビジュアル的にはポケモンのエルフーンみたいな感じですね、意外と可愛い顔をしています。
そしてここからが本作戦の肝心な部分、どうしてなぜ今で、どうして二人が必要なのかです。
「タンポポ鳥は全身から高級羽毛を垂れ流し続ける、いわば歩く油田のようなもの。移動ルートが決まっていることもあり、普段なら人が集まり殺し合い、羽毛は拾えず遺品ばかりが積み上がる。ベッド1つ分集めるだけでも一苦労でございます」
「ははーん、だけど今の始まりの平原は強殺祭だから競争率が低いワケだ」
「あぁ、そういうことですか」
マリーちゃんの言う通り、今の始まりの平原は初心者狩りブームが転じた強盗殺人祭り、略して強殺祭の真っ只中。種族人間という歩く宝石袋がうじゃうじゃ居る中で、わざわざ鳥を追う奇特な人は少ないでしょうね。
「鋭いですねぇ。マリーちゃんの言う通り、今のタンポポ鳥はほぼフリーです。いくつかある待ち伏せポイントさえ制圧すれば、ほぼノーリスクで羽毛を独占できるでしょう」
「なるほどね、マリーちゃん完全に理解したよ」
「うーん……でもそれなら、僕たち抜きでも良くないですか?」
彼の言う通り、今聞いた限りではサナダとマリーに依頼を出す理由がありません。逃げ足とインベントリの組み合わせは確かに強力ですが、単に物を拾うだけなら二人を呼ばずともいくらでもやりようはあります。
「ええ、二人を呼んだ理由は別にございやす」
「その理由というのは?」
「お二人にご足労いただかねばならない理由、それは────」
つまり今からヒノの口にする理由こそが、今回の依頼の核心なのです。
「────嵩張るのですよ、羽毛は」
「? まあそうでしょうね」
「サナダ、多分インベントリなら沢山仕舞えるって話だよ」
マリーちゃんは鋭いですねぇ。
「そうです。マリーちゃんのインベントリに『重量制限』はあっても、『体積制限』は無かったでしょう?」
「イエース、羽毛ならいくらでも詰め込めるぜぃ」
「そしてサナダ君の【逃げ足】なら高速で飛ぶタンポポ鳥にも追従できるはず」
「まあ多分、ワイバーンより遅いなら」
サナダ君の逃げ足はワイバーンからギリギリ逃げ切れないくらいの速さです。つまりタンポポ鳥程度なら問題ありません。
一通り話したヒノが作戦をまとめます。
「今回の作戦はマリーちゃんを背負ったサナダ君がタンポポ鳥を追いかけ、落ちてくる羽毛をインベントリに根こそぎ回収。スリーシープの羽毛不足を解消してベッドをゲット、そういうことです」
「おー、メチャクチャ成功しそうですね」
「やる! ベッド欲しいもん! 半年も待てない!」
「乗り気みたいですね? タンポポ鳥の移動ルートはこちらで制圧しておきやす、お二人は羽毛回収に集中してくだされ」
こうして二人はダルマ落としの羽毛回収作戦に参加することとなりました。体積無制限インベントリのチート性能が遺憾無く発揮される時です。




