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地味スキル【荷物持ち】と【逃げ足】による、現代ダンジョン物拾い生活  作者: 自爆霊


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美食のフロンティア

 さて、明後日の羽毛集め大作戦が決まったところですが、そろそろサナダ君は現世に帰る時間です。


「サナダ、サナダ、もう6時だよ」

「えっもう? あと30分くらいオマケしてくれない?」


 サナダ君は極めて健康的な小学5年生ですから、朝8時には学校に着いていなければなりません。いつまでもヒノやマリーと遊んでいるわけにはいかないのです。


「うん? 朝6時がどうかされやしたかね?」

「サナダは学校あるからね、そろそろ現世に帰らないと」

「もうちょっと遊びたいー、具体的にはここのホテルで一部屋借りて最高級ベッドを体験したいー」


 一応言いますとサナダ君も本気で言ってるわけではありませんよ、あれはマリーに「めっ! だよ」と咎められる前提の発言です。そういう遊びです。

 優しいマリーちゃんがサナダ君に付き合って登校を促します。


「めっ! だよ、ちゃんと学校行かないと」

「うにゃぁ……」

「ベッドは逃げないけど学校は待ってくれないの、ちゃんと行きなさーい!」

「はーい……」 


 こうは言ってるマリーちゃんですが、少し上がった口角は誤魔化せません。根本的に彼女は寂しさモンスターなので「もっと一緒に遊びたーい」と言われると嬉しいのです。

 そしてサナダが現世に戻ると、上がった口角は下がってしまいました。オマケに眉まで下がってしまって、割とガッツリしょんぼりしてます。

 (´・ω・`)みたいな顔したマリーちゃんが意外だったようで、ヒノは少し驚いてますね。


「ありゃ、寂しいのですか?」

「うん、寂しい。でも不登校になるのはもっと困るから、これで良いのだ」


 彼女は大変慎み深く理性的な女の子ですから、内心しょんぼりでもサナダを無理に引き止めるような真似はしないのです。偉いのですよ。


「いつもケラケラしてるイメージだったから意外です、他に遊べる方とか居ないので?」

「居ないよー、サナダ居ない時は引きこもってるし」

「マジですか」


 うむ、実はマリーちゃんは根暗なのです。2周くらい回って明るくなっただけで、根っこは軟禁されてるラプンツェル系女子ですからね。根本的に自分が誰かと関われるとは思ってないのです。サナダ? あれはチートキャラにテンションブチ上がってバグ挙動起こしただけです、例外です。


 そんなわけで、こうして正常なマリーちゃんに歩み寄る人間はヒノが初めてかもしれませんね。


「左様でしたら、一緒になんか食べに行きやしょう」

「えっ…………いいの?」

「もちろん。ちょうど新しい店探したかったんですよね、一緒に新規開拓しましょ?」

「おぉー………………行く。メッチャ行く」


 そんなわけでマリーちゃんの友達リストにヒノの名前が加わりました。戸惑っているのかちょっと挙動不審なマリーちゃんを連れ、ヒノはマーケットへ向かいます。






「始まりの平原で助けてもらった、と?」

「そうなの、今思えばすごいドラマチックだった」


 マーケットを歩く二人が「サナダとの出会い」について話しています。【荷物持ち】の修行を終えたマリーちゃんが颯爽とダンジョンに繰り出し、そして速攻ウルフのおやつにされかけた時のお話です。


「当時の私は修行を終えて「インベントリを得た今の私は無敵……!」とか思いながら、始まりの平原へ繰り出して行ったんだよ」

「修行って【荷物持ち】の? 何するんです?」

「ひたすら毎日荷物に潰されて死ぬ」

「えぇ……怖……」


 ヒノちゃんの言えたことではありませんがね? あなたオウミちゃんの「産業革命の気配を感じる!」とかいう戯言に付き合って氷海にデスマーチ仕掛けてたでしょう。


「まあそれは置いといて。歩いてたらいきなりウルフに脚を斬られて、「あっこれ死ぬな」と諦めた次の瞬間、気づけば知らない男子に救出されてたの」

「お姫様抱っこで?」

「お米様抱っこで」


 シチュエーションは良かったのですがね、抱え方でロマンチックポイント減点です。でもマリーちゃんはお米様抱っこを割と気に入ってたりします。


「夢が無いですねぇ」

「意外と良いものだよ? お米様抱っこ。目の前で地面がビュンビュン後ろに流れていくから特急列車的な楽しさがある」


 肩にうつ伏せで乗っかる都合上、視線は後方の地面に向けられます。担ぐ側のサナダ君は小学生身長で地面と肩の距離も近いですから、ほとんど絶叫マシーンです。

 まあ、そう言えるのは普段満足してるからなんですけど。


「それに、頼めばいつでもお姫様抱っこしてくれるからね」

「そうなんです? 仲良いですねぇ」

「でしょ? いいでしょー」


 子供らしい自慢ですね、いつでも遊んでくれる友達がいる優越感をあますことなくドヤ顔で表現しています。そしてこれは重要なことなのですが、マリーちゃんは現状、恋愛的な目線をサナダ君に向けていません、まあちびっ子ですからね。ちょっと「帰ってこないお母さんの分まで構ってくれる人」としてズッシリとした好意を向けているだけで、押し倒してやろう的な目線はないのです。


「しっかし、そこまでしてくれるなら学校でもモテそうですねぇ」


 そんなわけでヒノがこんなことを言っても……


「そうかな? 体育苦手らしいし微妙じゃない?」

「あー……小学生なら左様ですねぇ」

「そうそう、それにサナダは私を一人にするような酷いことはしないよー」


 絵に描いたような慢心である。小学生のうちはそれで良いですけど、多分高校生になったら彼モテますよ? ほどほどで確保しときましょうね?

 といった内容をヒノが言おうとしたところで、二人の前にある料理店から死体が放り出されました。


「ありゃ、食い逃げですかね?」

「前払い拒否でぶっ殺された感じかな?」


 万引き未遂がぶち殺されて道端に捨てられる、マーケットではよくあることです。しかしこの死体は、どこか妙な死に方をしていました。


「うーん、なんか……死体綺麗じゃない?」

「どういう趣味?」

「美術的な話じゃなくて、外傷がないって話」

「あーね」


 咄嗟に出てくる発想が「死体の美しさに目覚めた」なのヤバいですよヒノちゃん、マリーちゃんはそんな倒錯的な猟奇殺人犯みたいな感性してませんから。

 そしてマリーが綺麗(損壊度的)な死体を放り出した店に目線を向ければ…………


『死ぬ程美味い! 獄辛カレーライス!!』

『※食事による生命及び健康被害に関して、当店は一切の責任を負いません』


 という、(注意書きに目を瞑れば)良くあるチラシが貼ってあったのです。おそらくさっきの死体はカレーを食べて毒死したのでしょう。


「…………毒キノコ専門店的な感じかな?」

「闇市にありましたねぇ、そんな店。マーケットで即死系料理とは恐れ入りやす」


 ああいう毒物系料理は闇市の領分です、なんせよく訓練されて死に慣れた探索者しか食べませんからね。売れないのですよ。

 しかしこの獄辛カレー屋はマーケットに店を構えられる程度には稼いでいる様子、それが果たして美味故なのか、はたまたマグレか。少なくともヒノちゃんはその真相に興味を持ったようですね。


「うん、気になりやす。マリーちゃん、今日はここで食べやしょう」

「ヒノちゃん、激辛系もいけるタイプ?」

「そりゃあもう、激辛チャレンジ系は大体食べますとも」


 ちなみに大体と言っているのは「食べ物ですらない」タイプの激辛を彼女が食べないからです、美味しさを考えずただ調味料をドバドバ入れた品の無い劇物は彼女の眼中に無いのです。


「果たしてこれが美味い系か、シンプルに毒使っただけ系か……気になりやすねぇ……!」

「えっ毒?」

「辛さなんざ本質的には痛みですからね、痛み系の毒を入れただけな品性の無い激辛もロビーにはあるのですよ」

「そんな身も蓋もない」


 別に毒料理自体は悪くないんですよ、香りや味わいをしっかり考えた毒料理は他に無い美味しさを味わえます。何度でも死ねるからとやることが毒料理なのはちょっと引きますけど。

 そんなわけで、二人は獄辛カレー店「獄門」に足を踏み入れました。


「ふむ……ラーメン屋っぽいですねぇ」

「カウンター席だけだね?」


 店内は所謂二郎系のような、カウンター席オンリーの内装をしています。まばらに座る客は皆無言でカレーを口に運んでおり、談笑を排し回転率を求めた経営方針を強く感じられる様相ですね。


「いらっしゃい、一人900マスだ」

「えっあっ、はい」

「はぁい」


 マリーちゃんはメニュー表の無い店に慣れてないのか、ちょっと困惑しています。対するヒノは慣れた様子、自然体で代金を前払いしました。


「メニュー表とか無いんだ」

「こういう店は無いんですよ、回転率重視ですから」

「悩む時間がもったいない、的な?」

「イェスイェス」


 メニューを絞った厨房はカレー製造に特化しており、客が入店してから僅か数分で料理を提供可能です。やっぱりマリーちゃんは慣れてないので、このスピード感に驚いています。


「もう出来た、すご」

「食べ終わったらそこのラッシーを飲んでくれ、即死できる」

「自決用の毒もあるとは気が利きますねぇ、しかもラッシーとは」


 激辛料理で壊れた食道を抱えながら生き永らえるのは辛いですからね、サクッと死んで復活回復できるようにするのもロビーの気遣いなのですよ。絵面ヤベェけど。

 回転重視の店内に談笑の暇はありません、マリーとヒノはスプーンを手にし、早速カレーを口にします。


「!? !!!!!?!?」

「おぉ! これは美味い!!」


 前者がマリーで後者がヒノです。激辛チャレンジ未経験のマリーちゃんは食料の域を超えた壮絶な味わいに混乱しています。対するヒノは慣れたもの、獄辛カレーの食品衛生法を超越した高度な味わいに舌鼓を鳴らしております。


「美味しい、なの? もはや痛み、でも、美味しい?」

「美味しいで合ってますよ。辛さとは痛み、つまりそれもまた味です」

「わぁ、未知の美味しさだ、新世界を感じる」


 ロビーの苦痛耐性は食道や口内の痛みにも適応されますので、激辛料理も楽しく食べることができます。我々運営の福祉は留まる所を知りません。

 そんなわけで激辛初体験のマリーちゃんも、パクパクとカレーを食べ進められています。味蕾の耐久度を代価に得た美食を前にスプーンを運ぶ手が止まりません。

 そうして二人はあっという間に、獄辛カレーを完食しました。食後の毒ラッシーを一気飲みして本日の朝食(現在6時台)はフィニッシュです、でも朝からカレーって重くない?


「ふはー! 美味しかった!! また来たグブッ」

「最ッ高でございやした!! 美食に感謝でグブッ」


 二人の感想は毒ラッシーの即効性神経毒による吐血で遮られてしまいました。すかさず店主とは別のアルバイターらしき店員が二人の死体を引っ張って、「またのお越しをー!」と元気に言いながら店の前に放り捨てます。探索者の死体はしばらく経てば消えますから、こうして不法投棄しても特に問題はありません。

 こうして、マリーちゃんの友達リストにサナダ以外の名前が一つ加わりました。やりましたねマリーちゃん、友達が増えてサナダ君への依存度が下がります。健全化への第一歩ですよ。

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