門外出しまくりの修行法
「スキルの鍛え方を教えてほしい?」
サナダたちの家にやってきたハナマルが、そんなことを聞いてきました。
「そうそう、二人の【逃げ足】と【荷物持ち】って明らかに便利じゃん? ウチの仲間にも覚えさせたいんだよね」
「まあ確かに便利ですね」
「だね、便利すぎて私も時々ビビるもん」
最近のサナダは人の肩を走ったりやりたい放題ですから、マリーちゃんもちょっとビビってます。単に物をしまうだけのマリーちゃんがかすんで見える活躍ですもの。
実のところ、スキルの自由度で言えば【荷物持ち】の方が圧倒的に上なんですどね。インベントリ系のスキルは出来ることが多い分使いこなすのが難しいのですよ、マリーちゃんの今後に期待です。
「とはいえ、大した修行はしてないですよ?」
「そうそう、私らおこちゃまでも全然出来る内容だよ」
「マジ? 簡単に覚えられちゃう?」
「時間さえあれば」
「らくしょーらくしょー」
欺瞞です、二人の才能ありきの話ですから一般人ではまず無理です。しかしマリーは一般人ではないので、何でもないようにその苦行を口にしました。
「荷物持ちの育成は簡単だよ? カバン一杯に石を詰めて、ひたすら押し潰されるだけだからねー」
「潰されるの?」
ハナマルが引いてます、荷物持ちという平和的なスキルと荷物による圧殺が結びついていないようです。
「潰されるのだよ。どうにも荷物の重さで死ぬと経験値にボーナスが入るみたいなんだよね、2か月くらい毎日ずっとやってれば簡単にレベル10のインベントリ解放までたどり着けるよ」
「2か月かぁ……2か月ならまぁ……いやでもずっと圧死し続けるのはなぁ…………」
ハナマルが悩んでます、2か月間ひたすら圧死し続ける虚無修行の苦痛とインベントリの便利さの間で悩んでいるのです。そりゃ2か月ずっとはキツいでしょう、こういうのは地道にコツコツやるものなんですよ、持っていく武器を少し重めのものにするとか、そういう感じでダンジョン探索のついでに上げるのが一般的なのです。
「分かりますよハナマルさん、普通に無理ですよね」
「まぁ……正直ちょっとキツいなぁ」
「大丈夫だって! やってみれば意外と慣れるって!」
「誰もがマリーみたいにネトゲで苦行慣れしてると思うなよ、サイトゥスさんは普通の人なんだから」
ちなみにサイトゥス含むデスマーチの主要メンバーは基本ネトゲ廃人です。初日勢がVRMMOごっこを始めた結果ネトゲ化したロビーを新作ゲームと見なして、移住してきたのです。かつてネトゲで可処分時間を全てレベル上げに費していた超廃人マリーほどではありませんが、彼らもかなり苦行慣れしていますよ。一日4時間くらいだったらマリー式スキル修行もできるハズです。
そして廃人としての格の違いに怯えるハナマルに、凡人みたいな顔をしたサナダが救いの手を差し伸べます。
「安心してください、ハナマルさん。逃げ足の修行に苦痛耐性は必要ありません、マリーのような特殊な精神構造をしていなくても問題なくレベルを上げられます」
「まるで私が異常者みたいな言い方するじゃん」
「1日15時間ログインは黙ってなさい」
異常者扱いに不服そうなマリーちゃんを置いといて、サナダが逃げ足の修行を口にしました。
「逃げ足の修行は逃げ続けるだけですよ。僕の場合は初期マップの"始まりの平原"でワイバーンやらウルフやらからひたすら逃げ続けて、2か月くらいでレベル10まで行きました」
「えっワイバーンから?」
ワイバーンというのは始まりの平原に生息している、4足歩行じゃないタイプのドラゴンです。速い・硬い・デカいの三拍子揃った頂点捕食者でして、基本的に狙われたら死にます。今のところ誰も討伐出来ていない程度には強いモンスターですね。
「まあ、逃げ回ってれば意外となんとかなりますよ? 人間より大きい、食いでのあるモンスターにカチ合えばそっちに目移りしてくれますし」
「普通に脚で掴まれない?」
「そこはこう、影とか音とかで良い感じに避ければ」
「無理だねぇ……」
サナダは平然と言っていますが、常人にはまず不可能です。例えるならネズミが鷹から逃げ続けるようなモノですからね、しかも割と見晴らしが良い。
「要するに逃げ回ってれば上がるってことでしょー? テキトーに強いモンスターから逃げ回ってれば良いじゃんね」
「そういうことです。燃料採掘の氷海とかヤバイのがいるらしいですし、その辺で逃げ回ってれば良いと思いますよ」
「なるほどね」
そうそう、荷物持ちみたいなスキルは普通にやってても勝手に育ちますから、気長に育てれば良いのです。第一この短期間でレベル10まで補助スキルを上げてる二人の方がおかしいんですよ、一年くらいかけて探索ついでにレベル上げするのが想定された方法なんです、こんな変態的な方法で一気に上げられる方が想定外です。
「大体分かった。大変そうだけど、二人のやり方を参考に色々やってみるわ」
「頑張ってねー」
「応援してるよー」
私も応援してますよ、是非ともロビーで沢山遊んでください。
「育つまで時間かかりそうだし、二人がウチに来てくれれば早いんだけどなー?」
「学校があるので」
「トップギルド入りは流石に無理、言ってくれればたまには手伝うよ」
「そっかぁ、じゃあ困ったら頼らせてもらうよ」
そう言ってハナマルは帰って行きました。きっと一年後には、今の二人と同じことが出来るメンバーも現れることでしょう。
「……ねえサナダ、私の修行ってそんなおかしいかな?」
「内容自体は普通だけど、それ以外何もしない精神性はちょっと怖い」
いや、内容も割とおかしいですよ。
「……ところでマリー、ワイバーンから逃げるのってそんなに難しい?」
「うん、人は空を飛べないもん」
そうですね、二足歩行でアレから逃げきれるのはサナダ君の才能ありきです。
ハナマルのリアクションを見て、二人も自分たちがちょっとズレていると気付いたようですね。よかったよかった。




