闇に舞い降りたちびっ子
ここはダルマ落としの地下一階、多重債務者たちが流れ着く夢の島です。
「そこの手前? いつまでその様に蹲っているおつもりで?」
部屋を取り仕切る水着の女性が、隅で縮こまっている債務者に話しかけました。
「だっ、だって……行っても死ぬだけじゃないですか……!」
「そうですねぇ、しかし斯様に丸まっていても状況は悪くなる一方で御座います」
事実です。現状の彼らは崖っぷちですから、ウジウジしても足元が崩れていくだけです。
「でもっあんな「良いですかな?」ひっ」
口ごたえする債務者にナイフを投げつけ、女が話を遮りました。
首の隣に突きささった刃物に債務者がビクッと震えます。彼に拒否権などないのに、何をぐずっているのでしょうね?
「手前さんはウチの借金を踏み倒した、にも関わらず「ブラックリストは勘弁してくれ」と泣きついてきた。そうでやしたね?」
「それは……」
「だから優しいわちき等は返済を猶予して、あまつさえ働き口まで用意してあげやした。左様で御座いましょう?」
ゴキゲンな水着を着た女性が、債務者に優しく現状を説明してあげます。
「ここまでして差し上げたと言うのに…………それを放り捨てるなぞ、許されるとお思いで?」
まあ許されませんよね、仏の顔を四度ぶつようなモノです。
「…………分かり、ました」
「よろしいっ! ほらほら早う行きなされ、時間は待ってはくれませぬぞ!」
優しいオリエンテーションで決意を新たにした債務者が、件のダンジョンへと潜っていきました。探索者は死ねば死ぬほど殺されることを恐れなくなりますから、これも彼の為なのです。まあ初日勢に比べたら、かなり時間がかかりますけどね。
そうして夢の島を取り仕切る水着の女、彼女が誰もいなくなった部屋で伸びをしていると…………
「たのもー!」「こんちわー!」
バーン!と勢いよく扉が開き、レジャー的な水着を着たサナダとマリーが入室しました。
「へぁ? あっ、いらっしゃいやせ~…………うん?」
このゴミ箱に似つかわしくないノリノリのテンション、何故か着ているオシャレな水着、そして多重債務クラスの借金を出来るとは思えない年齢。
これらの情報量に押し流されたゴミ箱オーナーが、困惑の声を上げました。
「燃料採掘バイトに来ましたー!」
「あぁ、はい。ここが燃料採掘バイトの開催場で御座います。ってどちら様でいらっしゃいます?」
「マリーでーす! こっちがサナダね!」「サナダです!」
「左様ですか、わちきはヒノと申しまする…………ちなみに、借金額は如何程で?」
困惑するイケイケ水着女ことヒノですが、仕事熱心な彼女はひとまず二人の返済額を把握しようとしました。
「借りてないですよー」「お金稼ぎに来ましたー!」
「……つまり、ご自身の意向で御出でなさったワケで?」
「イエース!」
「あぁ、なるほど………………その水着は一体……?」
自分のことを棚に上げて二人の服装を問いただそうとするヒノですが、生憎二人はハイテンション。話を聞かずにドンドン喋って話を進めます。
「これが氷海のダンジョンキューブです?」
「あっはい、そうでございやす」
ダンジョンキューブ、ダンジョンの座標を記録したQRコードのようなモノです。これに触れれば記録したダンジョンに入場できるようになるんですよ。
ちなみにビジュアルは発光するガラスの箱です、おしゃれな家具としても人気なのです。
「それじゃあ行ってくるねー!」
「ちょいとお待ちを、この部屋を復活場所にしなされ。道具とか渡しやすから」
「はーい」
ヒノは仕事熱心ですから、破天荒な新人バイトにもしっかり対応します。
「ひとまず寒冷耐性が8.5になるまで死んできてくだされ。そこまで行ったら採掘が出来やすから、道具一式をお渡ししやしょう」
「ハーイ! そんじゃ行ってくるねー!」「死にまくってきまーす!」
そう言うや否や、マリーとサナダが氷海ダンジョンへ転移しました。まるでレジャーに行くようなテンションで凍死しに行く二人にはヒノも困惑です。
「うぅむ……水着で氷海に突っ込むような愉快な手合い、社長とわちきくらいだと思うのですがねぇ」
社長というのはオウミのことです、ダルマ落としは会社系ギルドなのです。




