闇へ……
「えっとぉ……燃料採掘バイトへの、参加希望…………ですかぁ?」
ダルマ落としの金融窓口で働く女性が、目の前の子供たちの要求に困惑します。
「そうです。氷海で凍死しまくりながら燃料を採掘するという、そのバイトに」
「私たち色々あって『凍死しまくれるダンジョン』を探してるんだよね~、何とか紹介してくれないかなぁ?」
「いやぁ……そのぉ……」
一般的に燃料採掘の仕事は苦行です。そして自ら苦行を望む奇特な……もしくは特殊な趣向を持つ……人物に、受付さんは対処しきれずにいます。
「どう……なんでしょう、ね?」
「むむっ、金借りて踏み倒した方が良かったりする?」
「僕は借金したくないなぁ……」
「いやぁ……いつも多重債務者を『クズがッ! 借金踏み倒したテメエに拒否権なんざねぇんだよタコ!』とか言いながら強制連行しているので……自分から来る人はどうすればいいか……」
「ちょっと聞いてきますねー」と言った受付さんが、バックヤードへと姿を消しました。
そうして暇になったサナダとマリーが、ああだこうだと話しています。
「なんか思ったよりゴタゴタしそうだね?」
「もっと『新人さんご案内ー!』みたいなのを想像してたんだけどね」
二人は自分たちの長所をよく理解していて、そして自分たちが歓迎されるに値する人材だと考えていました。
何度も死ぬのが辛いがゆえに人手不足の燃料採掘バイト、これは『死を恐れない』初日勢に適した仕事です。
だから数少ない初日勢の一員たる自分たちはこの職場のニーズに合致した人材で、諸手を上げて歓迎されるだろう。
そう考えていた二人は受付さんの微妙な態度を『本当は断りたいんだけど……まぁ一応は聞いてみよう……』ってことだと解釈して、先行き不透明な現状を憂いているのです。
「どうしよ……無断でダンジョンに行くのも悪いと思って話を通しに来たんだけど、逆効果だったかな?」
「いやぁ、人手不足って話だし断られはしないでしょ…………多分」
ソワソワと不安がる二人、「どうしようどうしよう」と同じことを延々と話し続けています。
そうして五分が経ったあたりで、受付さんが戻ってきました。
「どうもぉ、オッケー出ましたよ~」
「ふぅーー…………良かったぁ」
「ほっ……うまくいって良かったぁ……」
「そ、そんなに心配されてたんですかぁ……?」
ぽわぽわ系の受付さんが、労働条件を二人に伝えます。
「とりあえずー……参加される分には、何の問題も無いそうですよぉ? 毎日夜中にやってますからー、集合場所に来ていただければ、ご案内しますぅ」
「ヤッホー! そんじゃあ今日から参加しても良いワケだ!」
「あっいえ……ちょっと今すぐは問題がありまして……」
今すぐ乗り込もうとするマリーですが、受付さんから待ったが入ります。
「実は潜水するので、参加者の方にはダイバースーツを購入して頂いてるんですよぉ……」
「ほむ? お金ならそれなりに持ってるけど?」
「別にこだわらないですから、適当な在庫を渡してもらえれば」
マリーがお金の話、サナダが在庫の話だと考えました。正解は後者、在庫の問題です。
「実は子供用のサイズが無くてですね……一から作るとなると、一週間ほどかかってしまうんですよー……」
「えっ子供用無いんです!?」
「耐寒用の特別仕様なんですよぉ……それに、子供が来ることを想定して無かったんですよね~。そもそも子供を借金地獄に落とすとかしてないので……」
まあそりゃそうです、だってダルマ落としって別に血も涙もない悪党とかじゃないですからね。子供を脅して強制労働させるような気合の入ったことが出来るヤツは殆どいません。
「うーん、そう言われると納得せざるを得ない」
「そうなんですよねぇ、我々としても人手が増えるのは大歓迎なんですけど……」
人手が欲しい雇用側、人手になりたい労働側。需要と供給のマッチを前に、物質的な問題が立ちはだかりました。
しかしその問題に対して、サナダが素晴らしい閃きを見せたのです。
「……待てよマリー、着る物が無いのが問題なら…………つまり、普通の水着で行けば問題ないんじゃないか?」
「あっそれだぁ! サナダ天才!!」
「はい…………?」
寒空の下を水着で泳ぐというソシャゲじみた狂気の発想に、受付さんが硬直します。
「うんうんそれが良いよ! 薄着なら沢山凍死できるから耐性上げまくれるもん!」
「だろ? ちょっと見せちゃったかな、『才能』」
「才能バリバリだよ! すごいぜサナダー!!」
しかし二人は止まりません。死をレベル上げの周回程度にしか思ってない二人にとって『死にまくる』ことと『楽にレベリングできる』ことは同義です。
効率的なレベリングを前にキャッキャする二人、それにドン引きする受付さんが、恐る恐る集合場所を伝えました。
「あのぉ……集合場所はここの地下1階6号室なんですけど…………本気ですぅ?」
「地下の6号室ね! 了解! あと本気だよ!!」
「ご紹介ありがとうございました、頑張って稼いで来ますね」
「えっとぉ……頑張ってくださ、い……?」
ワイワイと水着を買いに行く二人にドン引きする受付さんですが、次の客が来て頭を切り替えたようです。
「うーん? ちょっと良く聞こえなかったですねぇ?」
「だっだからっ! 返済まであと一週間待ってくれ!」
「あーーん?? 『燃料採掘バイトがしたい』ですってぇ? 奇遇ですねぇ、先ほども同じことを仰る方が来てたんですよぉ~」
受付さんが指パッチンすると、どこからともなく現れた黒服が債務者を連行します。
「まっ待ってくれ! 本当なんだッあと一週間あれば必ず!!」
「良かったですねぇ? バイトを頑張れば三日で返済できますよぉ」
「いっ嫌だッ! 氷海は嫌だッ! やめッ……!?」
ああぁぁ~~~…………、と断末魔が響きます。これもまた、ロビーの日常なのです。




