デスバイトのいざない
ここはロビー第一区画【プラットフォーム】の居酒屋。運営の用意したほどほどの料理をほどほどの値段で食べられる、可もなく不可もない飲食店です。
「そこで俺は言ってやったわけよ! 『お前の頭髪は導火線かっ!』ってなぁ!!」
「ハッハッハ! 黒ひげも顔負けってワケだ!!」
そのへんのテーブルで、酒を飲んだ人たちがよく分からないことを言っている。まあちょっと賑やかなだけの普通の居酒屋です。
そして黒ひげがどうこう言っている二人のテーブルに、サナダとマリーが着席したのです。
「ヘイヘイ、そこの黒ひげさん方」
「お~? 誰だぁお前ぇ~」
「どうも、サナダです。そしてこっちがマリーです」
「マリーで~す! カワイイでしょー」
ここの居酒屋は好きな席に座って好きに食べる、そんな感じの店です。つまり知らない人から話を聞くのにうってつけなのです。
「おーうカワイイじゃないのさぁ! なになにどうした?」
「実はマリーちゃんたち、ミトラ山脈登ったんだけどさ? 普通に凍死しちゃったんだよね~」
「アッハッハ! 分かる分かる! あそこは死ぬよ死にまくる!」
「オイラ達も死にまくったからよぅく分かるぜぇ! シンプルに人間が生きられる環境じゃねえんだよな!!」
気の良い酒飲みたちが、やいのやいの自分たちの話をしてくれます。
「まー、死にまくるこった! 行って死んで行って死んで……」
「半月くらいたったら登頂できるようになったのよ! 君たちも頑張れ! 山頂にはキレイな花が咲いてるからさ!!」
「そう、その死にまくる話なんです」
良い感じのタイミングに、サナダが本題を切り出しました。
「手っ取り早く耐性を上げたいので、簡単に凍死できるダンジョンを教えてもらえませんか?」
「えっ」「えっ……?」
困惑するダブル酒飲み、そして続けるサナダとマリー。
「だって六合目まで登らないと凍死できないじゃーん? 時間かかるから楽したいんだよ~」
「なんかこう……冷凍庫の中みたいなダンジョンとか無いですかね? 薄着で入ったら5秒で死ぬ感じの」
「そ、そんな軽いノリで死ぬの……?」
酒飲み1号がドン引きしていますが、2号は何か心当たりがある様子。少し悩んだのち、それを話してくれました。
「……【ダルマ落とし】の、燃料採掘バイトを知っているか?」
「おいお前!」
「なんですそれ?」「鉱山に潜るの?」
1号が咎めますが、2号は続きを……その、非人道的なバイトについて、語ります。
「表向き公表はされてないが……多重債務者を強制労働させて、氷海の底から燃料を回収させる事業があるんだ」
「…………あまりオススメはしないよ。耐性が上がるまで何度も何度も、ひたすら死に続けるなきゃならないって話だ。死にまくるからみんな嫌がるし、だから債務者がやらされてるんだよ」
一般的な探索者は死に大なり小なりストレスを感じます。何度も何度もただただ死に続けるような苦行、誰もやりたがらないのも当然でしょう。
「おっほうそれだよそれ! マリーちゃんそういうの求めてた!」
「教えてくれてありがとうございます! 店員さーん! ジョッキ二杯持ってきてくださーい!!」
サナダが自費で二杯のビールを注文し、ダブル酒飲みに一杯ずつ渡しました。
「これはお礼です! 遠慮せず是非飲んでください!」
「おっおう」
「もし本当に行くなら金融窓口で頼みな。人手不足だから、歓迎されると思うよ」
「はーい!!」
サナダとマリーが軽い足取りで出て行きました。困惑する酒飲みダブルでしたが…………
「……まあいっか、飲もうぜ!」
「だな!」
すぐに気を取り直して、奢りのジョッキを美味しそうに飲み始めました。




