河川敷が如く
サナダとマリーが初日勢仲間だと知ったオウミはご機嫌です、ケラケラと笑いながら商談を急ピッチで進め始めました。
「実を言うとね。今回の予定としては一遍君たちと殺し合った後、あのイベントをマーケットで時々開催してもらうつもりだったんだよ」
「えっなんで殺し合うんですか」
突然の殺害宣言にサナダが困惑します、しかしマリーは理解できている様子。
「気に入らないから殴り合ってスッキリしたいんでしょ? マリーちゃんは分かってるよー」
「その通り! 私はヤンキー気質でね。気に入らないヤツは殴りたいし、殴り合ったならダチだと思ってるのさ」
暴力がコミュニケーションとなったロビーにおいて、「恐ろしいヤンキー」は「サッパリした気の良いヤツ」となりました。
「まあ現世でやったら犯罪だが、ロビーでなら問題ないだろ? それで最初は取引相手とダチになるべく片っ端から殺り合ってたんだが…………後発組から「急にキレる怖い人」扱いされちゃってなぁ」
一般探索者にとっての死はポケモンで全滅するくらいのショックです。フロムゲー感覚でジャンジャン死にまくる初日勢とは微妙に価値観が合いません。
「そこで一通り脅しつけた後、「一発戦ってチャラにしてやるよ」って持ちかけるアメとムチ作戦を始めたワケなんだわ」
「効果の程は?」
「これがもう大当たり! 怖いけど優しい姐さん扱いになってガンッガン喧嘩出来るようになったのよ!!」
イメージとしてはヤクザの頭がケジメ案件を特別にお目溢しして「ここまでしてやったんだ、俺を失望させるなよ?」とか言う感じですね、理想的なアメとムチです。
「それでは戦ろう、ガンガン殺ろう。二人ともナイフは?」
「持ってるよー」「持ってます」
「よろしい!」
ロビーで殺されてもアイテムは失いませんから、この殺し合いもノーリスクの遊びでしかありません。
オウミが部屋に敷かれたカーペット、その中心にある円の模様を指差しました。
「ルールはシンプルにデスマッチだ。円から出たら負け、先に死んでも負け」
「サクッと決着がつきそうですね」
「そういうことよ! まずマリーちゃんで次がサナダ君ね! 勝負がついたらすぐ入ってきてな!!」
そんなわけで金網デスマッチならぬカーペットデスマッチが始まりました。半径1メートルくらいの円の中、至近距離で二人が見つめ合います。
「マリーちゃんが動いたら始めるから、好きなタイミングで始めてね」
「了解隙ありぃ!」
そう言われるや否やマリーが右手のナイフを振りかざしました。狙いは腹、腹筋を断ち切ってダウンさせる腹づもりでしょうか。
「甘いわッ!」
対するオウミがマリーの右肩に拳を振り下ろします。強烈な衝撃にナイフの軌道が逸れて、腹筋に届かず脇腹へ突き刺さりました。
「死ねぇい!」
そしてナイフを握るオウミの右手はフリー、態勢を崩したマリーの首にザクリとその刃を突き刺しました。
刃を引くだけで首が落ちるこの状況、しかしマリーは諦めず足掻きます。
「ヒュッ……ぎぃ!!」
オウミの脇腹に刺さったナイフに力を込め、その胴体を深く引き裂いたのです。喉が開き空気が漏れるのも構わず、命と引き換えに大ダメージを与えました。
裂かれた傷から臓物がのぞきドバドバと血を流すオウミですが。その顔は好戦的に、とても楽しそうに笑っています。
「ぐっ……ッハッハッハ……!! すごいじゃないかマリーちゃん……! やはり初日勢は良い!! 血湧き肉躍るぞ!!!」
「楽しそうでいいですね、出血量も増えそうだ」
心拍数が上がれば当然出血量も増えます。血を流し続けたままサナダを殺さねばならない、不利な状況ですね。
「肉が躍るのに腹は狭いでしょう! 外に出してあげますよッ!」
円に入ったサナダがオウミの腹へ膝蹴りを叩き込みました。逃げ足の脚力補正が乗った蹴りは幼い容姿に不釣り合いな破壊力です。腹に圧力が加わったことで、オウミの傷口から何かしらの臓物が飛び出してきました。
「ゴボッ……!」
衝撃で吐血したオウミ、腹の中身と血が減ったことでふらついています。
しかし彼女もまた初日勢の一人です。躍るあまり腹から飛び出した肉にも、口から湧き立つ血にも構わず、右手のナイフをサナダのコメカミに叩き込みました。
「うぁぁ……ぎぇっ………?」
脳の破損で状況を理解できないまま、よろめいたサナダが円の外に出ます。バランスを取れず倒れ込んだところで喉を踏み潰され、絶命しました。
「わたっわたしの…………勝っ……ちぃ…………! ゲボッ!?」
勝利を宣言したオウミですが傷は深く、直後に大きく吐血して命を散らします。
肉体から離れ、幽霊となった三人。幽体は言葉を発せませんが、彼らの表情とサムズアップは何よりも雄弁にその気持ちを語っていました。
ナイスファイト
戦いを経た三人の間には、確かな絆が芽生えたのです。




