決闘、見物、そして退散
マリーたちの見守る中、デスマーチと人斬りスズメのギルドマスター対決が幕を開けました。
西洋風の直剣と伝統的な日本刀による異種剣闘技は、しかし絶妙な均衡を保っています。
「カッカッカ! 良いぞサイトゥス、前より疾くしかし重くなっておる!」
日本刀を振るロウシは摺り足を徹底して、地に足つけた戦い方をしています。弧を描く剣軌に無駄のない足運び、いっそ偏執的なまでに最適化されたその動きには、重苦しいほどの歴史が滲んでいます。
「無傷で捌いてるクセによく言うなぁ!」
対するサイトゥスは二段ジャンプを活用した、立体的な戦い方をしていますね。人間より強大なモンスターを想定して考案された剣術は重く、疾く、そして荒削りです。
「すごいよサナダ、サイトゥスがスーパーボールみたいに飛び跳ねてる」
「ロウシもヤバいね、全方位から攻撃されてるのに対処し続けている」
サナダたちの素人目でもわかるほどハイレベルな戦いです。古く重い剣術と新しく疾い剣術、その戦いはあまりにも心惹かれるものです。
そしていつの間にか、戦いに惹かれた観客が周囲に集まってきました。じわじわと傷を負っていくロウシ、そして休むことなく高速戦闘を続けるサイトゥス。二人の圧倒的な決闘を前に、オーディエンスは息を呑んで静かに魅入っています。
「サイトゥス様はかなり善戦していらっしゃいますが……やはり、ロウシ様が優勢ですわね」
「そうでしょうか? 今のところ、サイトゥスさんが一方的に攻めてるように見えますが」
「ロウシ様の剣術は相手が隙を見せるまで耐え、一撃で仕留めるいわばカウンター型ですの。サイトゥス様が少しでも隙を見せれば、その瞬間ギロチンの如く首が落ちましてよ」
有識者らしい縦ロールお嬢様とその使用人が、戦いの解説を務めていますね。
「ロウシさんの手傷が増えてきましたね、お嬢様はコレをどう見ますか?」
「サイトゥス様は社交ダンスが如き隙のない動きでロウシ様を押し込み続けていますわ。もしこれが続くのであればロウシ様といえど、いずれ凌ぎ切れなくなってしまうことでしょう」
「つまりこのままいけば…」
サイトゥスが勝つ。
実際、無傷のサイトゥスに対してロウシは手傷を負い続けています。動きに支障が出るようなダメージはありませんが、このままではジリ貧です。
「しかしそれは、「続けば」の話ですの」
縦ロールお嬢様がそう言った次の瞬間、サイトゥスの左腕が斬り落とされました。断ち切られた骨の滑らかな切断面は、ロウシの卓越した技量を示しています。
「お嬢様! 今のは!?」
「サイトゥス様は隙のない動きでロウシ様を攻め続けておられましたが、それは裏を返せば「隙を見せられない」ということでもありますの」
なんとか姿勢を整えたサイトゥスが残った右腕で剣を振り、ロウシの首を狙いますが……
「後先考えず全力で踊れば王子の目を引くことも叶いましょう。されど息切れし地に伏せれば失笑を買うもまた道理……サイトゥス様は社交会の終わりを迎えるより先に、脱落されてしまったのですわ」
「えーはい、要約すると『最初からスタミナ全開で押し切ろうとしたサイトゥスさんだが、押しきれずスタミナ切れした所を叩かれた』だそうです」
「ナイス要約、帰ったらスコーンを作ってさしあげますの」
残った右腕も直剣ごと切り落とされ、無防備な胴体を真っ二つにされてしまいました。
「お見事!」「ワザマエ!」「すげー……!」「ナイス真っ二つ!」「この技量にあの動きって……」「まさか本当に……!?」
見事な勝利に喝采が飛び交います。ロウシがオーディエンスへ手を振りファンサービスをした後、サナダとマリーへ視線を向けました。
「どうじゃ? 儂らの剣は見事なものだったじゃろう?」
「うんうんすごかったよ!」
「まさに達人技、すさまじい剣術です」
達人の戦いにマリーとサナダも大喜び、キャッキャキャッキャと歓声を送ります。
「それでは、やろうか」
まあそれはそれとして、ロウシは二人も殺す気なんですけど。彼は人斬りですからね、獲物は選ばずただひたすらに斬るのみ。
当然二人もそんなことは分かっているので、ちゃっちゃと退散します。
「いやぁ……やめときます、逃げ切れるか怪しいし」
「私たちぃ、暴力とか苦手なんでェ……」
そう言った二人が一瞬で姿を消しました、逃げ足のエスケープ能力です。決闘の間ずっと座っていましたからね、当然待機時間は完了しています。
遊び相手に逃げられたロウシは呆然とした後、ガックリと肩を落としました。
「……そんなぁ」
肩を落とすロウシにオロオロするオーディエンスたち。みんながどうすれば良いか分からなくなっている中で、縦ロールお嬢様が彼の前に歩み出ました。
「ロウシ様、少しよろしくて?」
「……なんじゃ?」
「百人組手、いたしましょう」
彼女の闘志を表すように、その手に持つ処刑剣がギラリと光りました。




