第三百十三話:狂気の経済崩壊(ハイパーインフレ)。兆万長者の極上シャトーブリアン金箔包みと、絶望の新通貨切替(デノミ)
「……もう、ダメだ。腹が減って、文字通り動けねえ」
荒野のど真ん中に停めたキャンピングカーの傍らで、俺は四つん這いになり、乾いた土に生える名もなき『雑草』を虚ろな目で見つめていた。
借金、7769万ポイント。
暗号資産(草コイン)のラグプルと、利益なき雑所得に対する最高税率55%という極悪コンボによって、俺の人生は完全に詰んだ。
ブラックリスト入りしているため、まともな買い物もできない。もはや、この足元に生えている苦くてパサパサの雑草を齧って、命を繋ぐしかない底辺中の底辺にまで落ちぶれていた。
「ル、ルークス君……。いくら何でも雑草は……お腹を壊すだけだ。システムに納品したって、1ポイントにもならないただのゴミじゃないか……」
「うるせえ! 腹の足しにならなくても、口を動かして空腹を誤魔化すんだよ! どうせ俺の人生、この雑草と同じ価値なんだからな!」
俺はヤケクソになり、その辺の雑草をむしり取って、システムウィンドウの【一括納品】の枠へと投げつけた。
どうせ「査定不能(0ポイント)」と表示されて終わる。
そう思って、画面に目をやった瞬間だった。
ピロリンッ♪
【納品アイテム:名もなき荒野の雑草×1束】
【買取価格査定中……】
【査定完了:100,000,000 pt(1億ポイント)】
「……………………………………………………え?」
俺は、あまりの空腹でついに幻覚を見たのかと思い、両手で激しく目をこすった。
だが、画面の数字は消えない。
『雑草1束 = 1億ポイント』。
「は……? い、いちおく……? 雑草が……?」
「る、ルークス様!? 画面がバグっておりますわーっ!? ゼロの数が多すぎますの!」
俺は震える手で、足元に落ちていたただの『石ころ』を拾い上げ、納品枠に投げ入れた。
【納品アイテム:その辺の石ころ×1個】
【査定完了:500,000,000 pt(5億ポイント)】
「…………ッ!!??」
俺の脳内で、バラバラだったピースが一瞬にして繋がり、一つの恐ろしい真理(経済事象)に辿り着いた。
「わかったぞ……! 税金、経費否認、みなし課税、罰金、社会保険料! システム(国税庁)がこれまでの度重なるペナルティで、市場からポイント(通貨)を容赦なく搾取し、流通量を無茶苦茶に絞りすぎた結果だ!! 通貨の供給バランスが完全に崩壊し、物の価値が異常に跳ね上がる……『ハイパーインフレーション』が起きてるんだよォォォッ!!」
現実の歴史でも起きた、紙幣がただの紙屑と化し、パン一個買うのに札束の山が必要になるという、国家規模の経済崩壊。
その異常事態が、このファンタジー世界(システム経済)を完全に飲み込んだのだ!
「ふははははっ!! 経済崩壊バンザイだァァァッ!! 今ならこの辺のゴミでも億の値がつくぞ! フェン! シルフィ! 雑草をむしれ! 石を拾え! 泥をすくえ! 全部システムにぶち込んでやるゥゥゥッ!!」
俺たちは狂ったように荒野のゴミを集め、システムに納品し続けた。
チャリンッ! チャリンッ! チャリンッ!
システムから鳴り響く決済音は、もはや壊れたスロットマシンのように止まらない。
【現在の借金残高:0 pt(全額完済)】
【現在の口座残高:3,500,000,000,000 pt(3兆5千億ポイント)】
「よっしゃあああああッ!!!! 約8000万の借金を、ただの雑草数本で完済したぞォォォッ!! しかも口座残高が数兆ポイント!? 俺は億万長者を通り越して、兆万長者だァァァッ!!」
◇
桁が多すぎて何が何だか分からない口座残高を前に、俺は完全に正気を失っていた。
システムが崩壊している今なら、ブラックリストの購入制限すらもバグで突破できる。
「俺は兆万長者だ! 借金ゼロ! 金が余って余って仕方がない! 今まで指をくわえて見てるだけだった『超VIP限定・最高級食材』を、値段も見ずに爆買いしてやるゥゥゥッ!!」
俺はポイントショップを開き、カートに最高級品を次々と放り込んだ。
【神話級魔牛・極上シャトーブリアン(1塊):500億 pt】
【星海キャビア(特大瓶):300億 pt】
【食べられる純金箔(100枚綴り):100億 pt】
【年代物・極上赤ワイン:200億 pt】
しめて1100億ポイント。今の俺にとっては、鼻くそみたいな金額だ。
光の粒子と共に、キャンピングカーのテーブルの上に、神々しいまでの高級食材がズラリと並んだ。
「さあ! 今日は貧乏ケバブでも、塩むすびでもない! 兆万長者に相応しい、金に物を言わせた下品極まりない『成金の極み』を味わうぞ!!」
俺は、魔牛の赤身肉の中で最も柔らかく、最も希少な部位『シャトーブリアン』の分厚いブロック肉に、軽く塩胡椒を振った。
熱した極厚鉄板に牛脂を引き、その至高の肉塊を乗せる。
ジュワァァァッ!という上品な音と共に、赤身の芳醇な香りがキャンピングカーに広がる。
表面だけを強火でカリッと焼き上げ、中は美しいルビー色の『レア』に留める完璧な火入れ。
鉄板から引き上げた極厚のシャトーブリアンを、高級な銀の皿に乗せる。
「ここからが成金飯だ! 遠慮はいらねえ! 海の黒いダイヤを全部乗せだァァァッ!」
俺は、300億ポイントの『星海キャビア』の瓶を傾け、分厚い肉塊の上に、山が崩れるほどの勢いでドバドバと全弾投下した。
黒く輝く塩気の塊が、肉の熱で艶やかに光る。
そして、最後の一手。
「味はしねえ! だが視覚的暴力としては最高だ! 金箔で、肉とキャビアを完全に包み込むゥゥゥッ!!」
俺は100億ポイントの純金箔を、惜しげもなく何枚も何枚も貼り付け、肉塊を文字通り『黄金の塊』へと変貌させた。
「完成だ! 『兆万長者の極上シャトーブリアン・キャビア乗せ純金箔包み』!!」
黄金に輝く、下品極まりない暴力的な一皿。
俺は、最高級の赤ワインをグラスに注ぎ、ナイフとフォークを構えた。
「俺の完全勝利に、乾杯! いただきます!!」
ナイフを、純金の塊のど真ん中に突き立てる。
――スゥッ……。
全く、抵抗がない。分厚い肉の塊のはずなのに、まるで熱いバターにナイフを入れたかのように、スゥッと刃が沈み込んでいく。
そして、真っ二つに切り開かれた黄金の断面から。
「おおおおおおおっ!!!!」
ルビーのように美しく輝く極上のレア赤身肉と、その中心から「ドッバァァァッ!!」と溢れ出す圧倒的な量の透明な肉汁!
俺は、その肉汁が滴る黄金とルビーの塊にキャビアをたっぷりと乗せ、大きく口を開けて頬張った。
……フワッ。
トロァァァァァァァンッ!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の脳内成金メーターが、完全に宇宙の彼方まで吹き飛んだ。
美味い!! なんだこの究極の柔らかさと旨味の暴力は!!!
噛む必要すらない。シャトーブリアンの極上の赤身肉が、舌の上でフワリとほどけ、濃厚で上品な肉汁が口の中を滝のように洗い流す。
そこに、星海キャビアの強烈な磯の香りと鋭い塩気がガツンとぶつかり、赤身肉の旨味を限界突破の次元へと引き上げる!
味はしないはずの金箔すらも、唇に張り付くその背徳感が、「俺は今、数百億のメシを食っている」という究極のスパイスとなって脳を狂わせるのだ。
「う、美味ぇぇぇぇぇぇっ!!! 歯がいらねえ! 肉汁とキャビアの塩気が、赤ワインと完璧なマリアージュだ! これが……これが金が余って仕方ねえ成金の味がするぜェェェッ!!」
「はふはふっ! お肉が! お肉がお口の中で溶けてなくなりますわーっ! お口の周りが金ピカですけど、フォークが止まりませんのーっ!」
「ガツガツガツ! なんだこの金色の肉は! 我の牙が全くの不要だぞ! もっとワインを注げ!!」
俺たち全員が、口の周りを金箔でキラキラと輝かせながら、最高級ワインを水のようにガブ飲みし、狂ったようにシャトーブリアンを貪り食った。
ハイパーインフレがもたらした、一時の狂宴。
借金地獄からの完全なる解放と、兆万長者という究極の優越感が、この下品な成金飯を至高の美食へと昇華させていた。
◇
黄金の肉塊を完全に胃袋へ収め、最高級赤ワインのボトルを何本も空にした俺は、キャンピングカーのソファでふんぞり返り、天国のような気分でシステムウィンドウを眺めていた。
「ふはははっ、ゲップ。最高だ。借金はゼロ。口座にはまだ数兆ポイントが唸っている。これで1億ポイント(ゲームクリア)どころか、兆万長者として一生、毎日シャトーブリアンを食って遊んで暮らせるぜ……!」
俺が勝利の美酒(ウン百億のワイン)をグラスに注ぎ足した、まさにその時だった。
――ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!!
突如として、システム全体を揺るがすような、空襲警報に似たおぞましい『国家非常事態サイレン』が世界中に鳴り響いた。
「……えっ? な、なんだ!? 魔王でも復活したのか!?」
空中に、システム画面のすべてを覆い尽くすほどの巨大な『真っ赤な緊急声明ウィンドウ』がポップアップした。
**【※中央銀行(システム管理局)より、全ユーザーへ緊急かつ重大なお知らせ】**
「……中央銀行?」
**【現在、市場通貨の流通量異常により、極度なハイパーインフレーションが発生し、経済システムが完全に機能不全に陥っております】**
**【この事態を是正し、通貨の信用を回復するため、本日ただいまをもちまして『預金封鎖』および『新通貨切替』を強制実施いたします】**
「……………………………………………………え?」
**【通貨単位の切り下げ措置:現在の『1兆 旧ポイント』を、『1 新ポイント』へと切り下げ(1/1,000,000,000,000)、これまでの旧ポイントの価値を完全に無効とします】**
**【※なお、切り捨てられる端数はすべてシステムが没収(国庫へ返納)いたします】**
ピロリンッ。(※数兆の富が、一瞬にして電子の海の藻屑と消える、無慈悲なシステム音)
【旧・口座残高:3,500,000,000,000 旧pt】
【デノミ適用(1/1兆):3.5 新pt】
【端数切り捨て処理:-0.5 新pt】
【新・口座残高:3 新pt(新ポイント)】
――静寂。
シャトーブリアンと金箔の匂いが漂うキャンピングカーの中で、俺の心臓は完全に停止した。
数兆ポイント。
一生遊んで暮らせるはずだった、兆万長者の富。
それが。
「デノミネーション(新通貨切替)」。
ハイパーインフレを終わらせるための、国家が放つ究極の荒療治(最終兵器)。
1兆ポイントを1ポイントに切り下げるという、魔法よりも残酷な経済政策によって、俺の数兆ポイントは、たったの『3ポイント』へと圧縮され、残りはすべて紙屑(無効)と化したのだ。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、金箔が張り付いた口から今日何度目か分からない血の涙を噴出させ、空になったワインボトルを床に叩きつけて泣き叫んだ。
「デノミだとォォォォォッ!? なんだその歴史上の国家がブチギレた時に使う最終奥義は!! 借金が消えて兆万長者になったと思ったら、俺の数兆ポイントがたったの『3ポイント』になっただとォォォッ!? 預金封鎖して資産を強制的に圧縮するとか、究極のインフレ対策(通貨リセット)すんな中央銀行のバカヤローッ!!」
税金、自己破産、ブラックリスト、出国税、そしてラグプル。
どれほどのペナルティを与えてもインフレが止まらないと悟ったシステムが、ついに「通貨の価値そのものをリセットする」という禁じ手を使ったのだ。
「ル、ルークス君……。でも、考えてみたまえ。数兆の資産は消えたが、あの絶対に返せなかった『約8000万の借金』も、デノミのおかげで完全にゼロ(0.00008新ポイント=切り捨て)になったんだ。ある意味、究極の借金リセットじゃないか……」
ガリウス所長の言葉に、俺はピタリと動きを止めた。
……確かに。
資産は3ポイントになった。だが、あの俺の心を永遠に蝕んでいた莫大な借金も、リボ払いの地獄も、デノミによって完全に消滅したのだ。
「……借金が、ゼロ。資産も、実質ゼロ……」
正真正銘、真っ裸からの再スタート。
だが、俺の胸の奥には、絶望と同時に、泥沼から抜け出せたという奇妙なまでの清々しさ(カタルシス)が込み上げてきていた。
「ふ、ふはははっ! やってやろうじゃねえか! 借金がねえなら、いくらでも稼いでやる! システムよ、見てろ! 俺はまたゼロから、この『新ポイント』で1億ポイント(ゲームクリア)を目指してやるからなァァァッ!!」
数兆の富を失った絶望と、借金地獄からの解放という希望。
インフレ対策(経済地獄)シリーズの総決算は、すべてを無に帰す「デノミネーション」によって幕を閉じ、最強農民はわずか3ポイントを握りしめ、再び1億ポイントという果てしない目標へと向かって、泥臭く歩み始めるのだった。
**【読者へのメッセージ】**
第三百十三話、いかがでしたでしょうか。
借金7700万に絶望し、道端の雑草を売ったらまさかの1億円!? システムのバグ(ハイパーインフレ)を利用して、一気に兆万長者へと成り上がったルークス!
金に物を言わせて爆買いした「極上シャトーブリアン・キャビア乗せ純金箔包み」! ナイフを入れた瞬間に溢れ出すルビー色の肉汁と、味はしないが視覚的に圧倒的な金箔の暴力! 成金の極みとも言える、下品で最高の飯テロをお届けしました。
しかし、兆万長者の歓喜を完全に吹き飛ばしたのは、中央銀行からの【デノミネーション(新通貨切替)】の宣告!
「1兆旧ポイントを1新ポイントに切り下げる」という、国家の最終兵器によって、ルークスの数兆ポイントはたったの「3ポイント」に圧縮されてしまいました(笑)。札束が紙屑になる歴史のリアル、恐ろしすぎますね。
ですが、同時にあの絶対に返せなかった莫大な借金も完全に消滅!
これまでの地獄のようなインフレ対策(税金・借金)シリーズが、ここに「完全リセット」という形で大団円(?)を迎えました!
借金も資産もゼロになり、真っ裸から再スタートを切ったルークス。彼の果てしないポイ活は、まだまだ続きます!
次回から始まる新章(?)も、ノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




