第三百十二話:狂気の暗号資産(草コイン)投資。ドカ盛りメガケバブの脂と、絶望のラグプル&雑所得(55%)
「……システムが悪い。俺たちから搾取し続ける、この『法定ポイント』という中央集権的な仕組みそのものが腐っているんだ」
キャンピングカーの薄暗いリビング。何台もの魔導板を並べ、その青白い光に照らされた俺の顔は、何日も徹夜を続けた亡者のようにやつれ、両目は毛細血管が破裂しそうなほどに血走っていた。
借金、2269万ポイント。
税金、コンプライアンス、固定資産税。システム(国税庁)が管理する正規の経済圏にいる限り、俺たちは永遠に搾取され続ける。
「ル、ルークス君……。さっきからその魔導板の、赤と緑のギザギザした線を睨み続けて、一体何をしているんだい? 瞬きすらしていないじゃないか……」
「ガリウス所長! 俺はついに見つけたんだよ! 国の監視も税務署の手出しも一切及ばない、非中央集権の究極のマネー……『暗号資産(魔界の草コイン)』をな!!」
俺は血走った目で、魔導板に表示された犬のマークのコインを指差した。
「見ろ! これは地下取引所(DEX)でひそかに上場したばかりの『ダンジョン・ドージコイン』だ! 法定ポイントじゃないから、どれだけ稼いでもシステムには把握されない完全非課税のユートピア! 俺はなけなしの全財産……いや、闇金(裏システム)でハイレバレッジをかけて借りた資金を、全部こいつに突っ込んだんだよ!!」
「ぜ、全財産に借金まで上乗せして!? る、ルークス様、そんな得体の知れないコイン、どう見ても詐欺の匂いがプンプンしますわーっ!」
「素人は黙ってろ! これは今、魔界で一番アツいミームコインだ! この波に乗れば、一瞬で1億ポイント(オクリビト)だァァァッ!!」
俺は魔導板の画面に齧り付くように前のめりになり、マウス代わりの魔導石を握りしめた。
1秒でもチャートから目を離せば、命取りになる。このヒリヒリするようなハイレバレッジの狂気こそが、デイトレーダーの生きる道だ。
「フェン! マリアさん! 飯だ! だが画面から目は離せねえ! 片手で食えて、徹夜の脳髄をブチ上げる『究極のジャンクフード』を持ってこい!!」
◇
数分後。俺の右手に握らされたのは、ズシリと重い、はち切れんばかりの巨大なピタパンだった。
「完成しましたわ! 『魔物羊肉のドカ盛りメガケバブ・特製オーロラチリソース』です!」
巨大な鉄串に何層にも重ねられ、回転しながら魔導コンロの直火で炙り焼きにされた魔物羊肉。
その表面のカリッカリに焦げた部分と、脂が滴るジューシーな部分だけを削ぎ落とし、シャキシャキの千切りキャベツと共に、ピタパンの限界までギュウギュウに詰め込んだ圧倒的なボリューム感!
「上から、強烈なニンニクと極炎唐辛子を効かせた、特製の『オーロラ・チリソース』をたっぷりとかけてありますわ!」
鮮やかなオレンジレッドのソースが、削ぎ切りにされた肉の山肌をドロリと滑り落ちる。
焦げた羊肉の野性味あふれる脂の匂いと、鼻腔を直接ぶん殴ってくるニンニクと唐辛子の暴力的な刺激臭!
ナイフとフォークを使った上品な食事とは対極にある、手と口の周りをギトギトにして貪るための、完全なる「背徳のファストフード」だ。
「うおおおおっ……! これだ! 今の俺の脳髄が求めているのは、この凶悪な脂とスパイスだ!!」
俺は魔導板のチャートから片時も目を離さずに、そのドカ盛りメガケバブに大口を開けてガブリと噛み付いた。
……ムシャッ!
ジュワァァァァァァッ、ピリリィィィィィンッ!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の徹夜で麻痺した脳神経に、強烈なスパイスの電撃が走った!
美味い!! なんだこのジャンクの極みは!!!
噛み砕いた瞬間、直火で炙られた魔物羊肉の香ばしさと、溢れ出すドス黒い脂の旨味が口いっぱいに弾け飛ぶ。
そこに、特製オーロラ・チリソースの「マヨネーズのコク」と「ニンニクの強烈なパンチ」、そして「極炎唐辛子の突き抜ける辛味」が容赦なく襲いかかり、羊肉特有のクセを完全に『圧倒的な旨味』へとねじ伏せる!
「う、美味ぇぇぇぇぇぇっ!!! 辛い! 脂が凄い!! だがそれがいい!!」
俺は画面に噛みつくような前のめりの姿勢のまま、ボロボロと肉の破片とオレンジ色のソースをこぼしながら、狂ったようにケバブを貪り食う。
強烈なスパイスで口の中が火事になったところへ、ポイントショップで買った微炭酸の『エナジードリンク(高濃度魔力ポーション)』を流し込む!
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……プハァァァァァァァッ!!!!!
「くぅぅぅぅぅっ!! カフェインと魔力が全身の血管を駆け巡るぜ!! ハイリスクなトレードの緊張感と、ケバブのスパイス! この交わりこそが最高にギルティな快楽なんだよォォォッ!!」
口の周りをチリソースで真っ赤に汚しながら、俺は片手でケバブを食い、片手で魔導板を操作する。
その時だった。
『ピッ……ピピピッ……ギュイィィィィィンッ!!!』
魔導板に表示されていた「ダンジョン・ドージコイン」の緑色のチャートが、突如として天を貫くような勢いで垂直に跳ね上がったのだ!
大口投資家の買いが入ったのか、価格が秒単位で倍々ゲームのように膨れ上がっていく。
「き、キタキタキタァァァッ!!! 大暴騰だァァァッ!!」
俺の口座の評価額が、狂ったように回転し始める。
3000万……5000万……8000万……!!
「抜けろォォッ! そのまま天まで突き抜けろォォォッ!!」
「る、ルークス様! 評価額が、1億ポイントを超えましたわーっ!!」
――100,000,000 pt。
ついに、夢にまで見た大台。1億ポイントの文字が画面に光り輝いた。
ここだ。ここが天井だ。欲をかいてはいけない。
「もらったァァァッ!! 俺の完全勝利だ! 【全額利確(売却)】ボタン、タァァァァァーンッ!!!」
俺は、脂まみれの指で、マウス代わりの魔導石を力強く叩き割らんばかりの勢いでクリックした。
ピロリンッ♪
【システム通知:ダンジョン・ドージコインの全額売却オーダー(約定価格:100,000,000 pt)がブロックチェーン上に記録されました】
「よっしゃあああああッ!!!! 1億ポイント利確だァァァッ!! 借金全額返済して、余りでお釣り(黄金林檎)が来るぞォォォッ!!」
俺はケバブを放り投げ、キャンピングカーの中で歓喜の涙を流してガッツポーズを決めた。
――だが。
勝利の余韻に浸ったのは、わずか『0.5秒』だった。
直後、魔導板の画面が、まるで血の気を失ったかのように真っ赤に染まった。
天を貫いていたチャートが、俺が利確した次の瞬間に、文字通り『垂直落下(ナイアガラの滝)』を起こし、価格が「0.0000001」へと一瞬で張り付いたのだ。
「……えっ? な、なんだこれ。チャートが消えたぞ?」
画面には、地下取引所(DEX)からの無機質なメッセージが表示されていた。
**【※警告:ダンジョン・ドージコインの流動性プール(資金)が、運営者によって全額引き出されました(Liquidity Drained)】**
**【プロジェクトは放棄されました。現在、当該コインを法定ポイントに換金することは不可能です】**
「……は?」
ラグプル(出口詐欺)。
非中央集権という名の無法地帯において最も恐ろしい罠。運営が価格を釣り上げた直後に、投資家たちの資金(流動性)を全額持ち逃げし、ドロンする極悪非道の手口。
ブロックチェーン上には「1億ポイントで利確した」という取引記録は残ったが、換金するための資金のプールが空っぽのため、手元には1ポイントの現金も入ってこない。ただの『価値ゼロの電子ゴミ(トークン)』がウォレットに残されただけだった。
「な……詐欺……? う、運営が資金を持ち逃げした……? じゃあ、俺の1億ポイントは……?」
俺が絶望のあまり膝から崩れ落ちようとした、まさにその時。
空中に、この世のすべての絶望を煮詰めたような『国税庁・暗号資産監視局の特別送達ウィンドウ』が、パトカーのサイレンと共にポップアップしたのだ。
ピピッ! ピーーーーッ!!!
**【システム・国税庁より重要なお知らせ】**
**【ユーザー『ルークス』の、地下取引所における『1億ポイントの利確(利益確定)トランザクション』を検知しました】**
「……え?」
**【税法規約に基づき、暗号資産(草コイン)による利益は『雑所得(総合課税)』として分類されます】**
**【利益額 100,000,000 pt に対し、最高税率である『55%(所得税45%+住民税10%)』を適用し、即時徴収いたします】**
「……………………………………………………え?」
チャリンッ。(※手元に1円もないのに、幻の利益に対して莫大な税金だけが確定する、現代税制の地獄の音)
【暗号資産・雑所得(利確益):100,000,000 pt】
【適用税率:55%】
【暗号資産・追加徴収税額:-55,000,000 pt】
【旧・借金残高:22,690,000 pt】
【新・借金残高(課税後):77,690,000 pt】
――静寂。
チリソースとエナジードリンクの匂いが漂うキャンピングカーの中で、俺の心臓は完全に停止した。
利確ボタンを押した。
ブロックチェーンには、確かに「1億ポイントで売却した」という記録が刻まれた。
だが、運営が持ち逃げした(ラグプル)せいで、俺の手元には『現金(法定ポイント)』は1ポイントも入ってきていない。
なのに。
「雑所得・最高税率55%」。
システム(国税庁)は、「あなたが利確ボタンを押した瞬間に、税制上の利益は確定した」とみなす。その後、取引所がハッキングされようが、運営が持ち逃げしてコインが電子ゴミになろうが、国税庁には一切関係ないのだ。
手元に現金がないのに、ブロックチェーン上の『幻の利益』に対して、5500万ポイントという莫大な税金だけが、冷酷に課せられたのである。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、今日何度目か分からない血の涙を両目から噴出させ、手の中のケバブを握りつぶしながら泣き叫んだ。
「詐欺に遭って手元に1ポイントも残ってねえのに、一瞬利確した分の『幻の利益』に5500万の税金がかかるだとォォォォッ!? なんだその日本の仮想通貨税制のえぐすぎるリアルは!! 手元に金がないのに税金だけ払えって、どうやって払うんだよ!! 最高税率55%の雑所得!? 非中央集権のくせに税金取るときだけ飛んでくんな国税庁のバカヤローッ!!」
システムから逃れるための非中央集権(草コイン)投資。
しかし、そこには詐欺師の罠と、利益が出た瞬間だけは絶対に逃さないシステムの「雑所得・総合課税」という、最凶のコンボが待ち受けていた。
「ル、ルークス君……。だから言ったじゃないか……。暗号資産は法整備も保護もない、完全なる自己責任の魔境だと……。税務署は、君が詐欺に遭ったことなど考慮してくれないんだよ……」
「ポイントが! 俺の借金が、ただ詐欺に遭っただけで約7700万ポイントに膨れ上がったぁぁぁぁっ!!」
1億ポイント(オクリビト)達成という甘い幻想は、ラグプル(出口詐欺)と雑所得の最高税率という最強の絶望の前に粉々に打ち砕かれた。
1億ポイントを「貯める」のではなく、約8000万ポイント近い借金を「返す」羽目になった最強農民は、ドカ盛りケバブの脂と血の涙にまみれながら、仮想通貨という名の底なしの魔境へと沈んでいくのだった。
**【読者へのメッセージ】**
第三百十二話、いかがでしたでしょうか。
法定通貨に絶望し、ついに「非中央集権の草コイン」という魔境に足を踏み入れたルークス! ハイレバレッジで全財産を突っ込み、血走った目でチャートに張り付く姿は、完全に仮想通貨の沼にハマったデイトレーダーでしたね(笑)。
そんな狂気の徹夜作業のお供は、片手で食えるジャンクの極み「ドカ盛りメガケバブ」! 直火で炙られた魔物羊肉の脂に、強烈なニンニクと唐辛子の特製オーロラ・チリソースが絡みつく! エナジードリンクで一気に流し込むあの背徳感……深夜のジャンク飯テロ、皆様の胃袋を破壊できたなら大成功です。
しかし、大暴騰の歓喜を地獄に変えたのは、仮想通貨界隈の極悪コンボ【ラグプル(出口詐欺)&雑所得・最高税率55%】!
運営に資金を持ち逃げされて手元に1円も残っていないのに、利確した瞬間の「ブロックチェーン上の幻の利益」に対して5500万の税金だけが請求されるという、日本の仮想通貨税制のえぐすぎるリアルをファンタジーに持ち込みました(笑)。
詐欺に遭った上に莫大な借金を背負う……これぞインフレ対策の真骨頂ですね。
ついに借金が約7700万ポイントまで膨れ上がり、目標の1億ポイントが「プラス」から「マイナス」にひっくり返りそうなルークス。
もう打つ手がない彼に、明日は来るのか!?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




