第三百十話:狂気のシステム放棄(究極の自給自足)。手作りの極上熱々・豆腐鍋と、絶望の固定資産税(更地評価)
「……もう、稼がない。そして、使わない。俺はシステムという名の『ポイント経済圏』から完全にログアウトする」
タックス・ヘイヴン(自由貿易都市)のさらに奥深く、誰の所有物でもない、システムマップ上にも名前すら載っていない不毛の荒野。
乾いた風が吹きすさぶその場所で、俺は空洞の眼窩から虚無の空を見上げ、カチカチと骨の顎を鳴らしながら宣言した。
借金、1849万ポイント。
死んでアンデッド(骨)になっても、システムは俺を『唯一の法定相続人』とみなし、生前の負債を全額引き継がせた上に、相続税までむしり取っていった。
税金、経費、リボ払い、ブラックリスト、みなし課税。システム(国税庁)が支配するこの世界で、ポイントという名の『通貨』を介した瞬間に、俺たちは一生搾取され続ける運命なのだ。
「ル、ルークス君……。稼がないと言っても、この借金はどうするんだい? システムには毎月、莫大な利息が……」
「払わねえよ!!」
俺はガリウス所長の言葉を力強く遮り、真っ白な骨の手で、相棒である『真・アダマンタイトの鍬』をガシッと握りしめた。
「俺はもう、1ポイントたりともシステムには関わらねえ! 俺たちは今日から、誰の土地でもないこの荒野をゼロから自分たちの手で開拓し、システム外で完全に自給自足して生きていく! 魔導具も、チート魔法も、ポイントで買った便利な肥料も一切使わねえ! 俺の骨と汗……いや、骨と泥だけで、真のスローライフ(究極の開拓村)を築き上げてやるんだァァァッ!!」
借金取りが来ようが、差し押さえが来ようが、ここには奪われるポイントも資産もない。
俺たちは、人間の、いや農民の原点へと立ち返ったのだ。
「さあ! まずは開墾だ! フェン! シルフィ! 石をどけろ! エレナ様とマリアさんは、その辺の枯れ木を集めてかまどを作れ!」
「ガウッ! 魔法を使わずに石を運ぶのは骨が折れるが、やってやるぜ!」
「ええっ!? わ、わたくしが泥だらけになって木を拾うんですの!? ……でも、借金取りに怯えるよりはマシですわね!」
俺は、カチカチと音を立てる骨の身体で、硬く乾いた荒野の大地に鍬を振り下ろした。
ガキンッ! と石に弾かれ、骨の腕が激しく痺れる。だが、やめない。
自分の手で土を掘り返し、邪魔な根を引き抜き、石を一つ一つ手作業で取り除いていく。
喉が渇けば、数週間かけて泥だらけになって手掘りした井戸から、冷たい地下水を汲み上げて飲む。
魔法を使えば一瞬で終わる作業。ポイントを使えば一発で買える設備。
それらをすべて放棄し、圧倒的な『手間暇』と『泥臭い労働』だけを注ぎ込んでいく。
数ヶ月の時が流れた。
不毛だった荒野には、俺たちの手によって見事な畑が広がり、そこには豊かな緑の葉が青空に向かって揺れていた。
「……できた。ついに収穫の時だ!」
俺は、土にまみれた骨の手で、畑から引き抜いた一株の植物を高く掲げた。
その根元には、サヤに包まれたふっくらと丸い、黄金色に輝く奇跡の粒がびっしりと実っている。
【鑑定結果】
【対象:神話級・黄金大豆】
【状態:完全無農薬・手作業栽培(極上品)】
【特徴:大地の養分と開拓者の魂を吸い上げた究極の大豆。圧倒的な甘みとタンパク質を内包する】
「よし! 今日は、俺たちの完全なる自給自足(システムからの独立)を祝って、究極の手間暇をかけた『手作り豆腐の熱々鍋(湯豆腐)』の宴だァァァッ!!」
◇
俺は前日の夜から、収穫した神話級・黄金大豆を、手掘り井戸の冷たく澄んだ地下水にたっぷりと浸水させておいた。
一晩水を吸ってパンパンに膨れ上がった大豆を、今度は荒野の石を削って手作りした『特大の石臼』へと放り込む。
「いくぞ! ゴリゴリゴリッ……!」
重い石臼の取っ手を握り、骨の全身を使ってゆっくりと挽いていく。
魔法のミキサーなら3秒で終わるところを、数時間かけて、汗(?)を流しながらひたすらにすり潰す。
ゴリゴリ、ゴリゴリ……。大豆の青臭くも豊かな香りが、じんわりと辺りに漂い始める。
すり潰してドロドロのペースト状になった『呉』を、薪で火を焚いた大釜の熱湯の中へと投入する。
「焦がすなよ! マリアさん、火加減を慎重に頼む!」
「はいっ! 薪の量を調整して、じっくりと煮立たせますわ!」
ブクブクと泡立つ大釜から、濃厚な豆乳の甘い匂いが立ち昇る。
煮上がった呉を、麻の布袋に入れ、太い木の棒を使ってテコの原理でギューッと力強く搾り出す。
ポタポタと滴り落ちる、純白で極上に濃厚な『神話級・豆乳』。
そして、ここからが豆腐作りの最大の山場だ。
「天然の海から数日がかりで汲んできて、薪の火で何日も煮詰めて精製した、俺たちの血と汗の結晶……『特製・天然にがり』を打つぞ!!」
80度前後に保った濃厚な豆乳の中に、天然にがりをツーッと回し入れ、巨大な木杓子で、優しく、空気を包み込むように十字に切って混ぜ合わせる。
すると、魔法のように豆乳がモロモロと固まり始め、透明な澄まし水と純白の『寄せ豆腐』に分離していく。
これを手作りの木の型箱に流し込み、重石を乗せてゆっくりと水分を抜いていく。
――数十分後。
「完成だ……!」
木の型箱をそっと外すと、そこには、湯気をふんわりと立ち昇らせる、プルプルで艶やかな『究極の手作り・黄金豆腐』が、圧倒的な存在感を放って鎮座していた。
「さあ! これを極上の昆布ダシだけで煮込む! 究極にシンプルで、究極に贅沢な『湯豆腐』だ!!」
俺は、土鍋に神話級の利尻系魔昆布を敷き、透き通った水と手作り豆腐を大きめに切って入れ、炭火でコトコトと静かに煮立てた。
ボコボコと沸騰させてはいけない。豆腐が踊る一歩手前、昆布の旨味がじわじわと豆腐に染み込む、その絶妙な温度を保つ。
「フワァァァッ……」
土鍋の蓋を開けると、昆布の上品な磯の香りと、大豆の濃厚で甘い匂いが、真っ白な湯気と共に立ち昇った。
「いただきます!!」
俺は、お玉で熱々の豆腐をすくい上げ、手作りのポン酢とネギ、もみじおろしを入れた小鉢に移した。
箸をスッ……と入れると、何の抵抗もなくホロリと崩れる、絹のような繊細な手応え。
それを、フハフハと息を吹きかけながら、骨の顎を開いて口の中に放り込んだ。
……フワッ。
ホロロォォォォォンッ……ジュワァァァァァッ!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の頭蓋骨の中で、大豆の暴力的なまでの甘みとコクが完全にメルトダウンした。
美味い!! なんだこの圧倒的な大地の恵みは!!!
口に入れた瞬間、熱々の豆腐が淡雪のようにホロリと崩れ、中から『神話級・黄金大豆』が限界まで溜め込んだ、濃厚すぎるほどの大豆の旨味と、クリームのような甘みがジュワァァッと溢れ出す!
そこに、昆布ダシの深い旨味が下支えし、ポン酢の酸味が大豆の甘みを極限まで引き立てる。
肉の脂の暴力ではない。スパイスの刺激でもない。
何ヶ月もかけて泥だらけになり、石臼を挽き、薪を割り、手間暇を限界まで注ぎ込んだからこそ到達できる、心と身体(骨)の隅々まで染み渡る「究極の優しい味」だ。
「う、美味ぇぇぇぇぇぇっ!!! 豆腐が! 豆腐が甘い!! 口の中で溶けて、大豆の香りが鼻を突き抜けていくぞ!!」
「はふはふっ、あちゅっ! でも、お豆腐がプルプルで……お出汁が優しくて……涙が出ますわーっ!」
「ガツガツガツ! なんだこの白い塊は! 肉がないのに、なぜこんなに心が満たされるのだ!! もっと、もっとよこせ!!」
俺たち全員が、星空の下、焚き火の暖かさを感じながら、フハフハと熱々の湯豆腐を狂ったように貪り食った。
ポイントも、チート魔法も、豪華な設備もいらない。
金なんかなくても、システムからログアウトしても、自分たちの手で時間と手間をかければ、こんなにも美味いメシが食えるんだ。
◇
土鍋の中の豆腐を一つ残らず平らげ、昆布ダシの染み出た熱い汁まで飲み干した後。
俺は、骨の腹をさすりながら、この世の真理に到達したような穏やかな笑みを浮かべていた。
「ふはははっ……。最高だ。これが本当の豊かさだ。俺たちはついに、税金も借金も届かない、完全にシステムから独立した真のスローライフを手に入れたんだ……!」
俺が、夜空の星々に向かって勝利と完全解脱の宣言をした、まさにその時だった。
――ブィィィィィィィンッ……!!
突如として、上空からけたたましいプロペラ音が鳴り響き、複数のサーチライトが俺たちの開拓した畑と、手作りの井戸、そして焚き火の跡を容赦なく照らし出した。
「……えっ? な、なんだ!?」
上空をホバリングしていたのは、システムの紋章が刻まれた、無機質で冷酷なフォルムの『土地家屋調査ドローン(国税庁管轄)』だった。
ピピッ! ピーーーーッ!!!
空中に、これまでで最も巨大で、最もおぞましい『固定資産税・再評価通知ウィンドウ』がポップアップした。
**【システム・国税庁 固定資産税課より重要なお知らせ】**
**【当ドローンによる上空からの測量・調査の結果、未登記の荒野エリア(所属不明区域)における『継続的な農地開発』および『居住実態(井戸・かまどの設置等)』を検知しました】**
「……は?」
**【システム固定資産税法に基づき、当該エリアの土地利用状況を『不毛の荒野』から『宅地(居住用財産)』へと地目変更および再評価を実施します】**
「……………………………………………………え?」
**【※重要:当該土地には家屋(合法的な登記建物)が存在しないため、『住宅用地に対する課税標準の特例(税負担軽減措置)』の適用対象外となります】**
**【よって、当該エリアを『更地(非住宅用地)』として最高税率で評価し、今年度分の固定資産税および都市計画税を、ユーザーの現在の借金残高に加算徴収いたします】**
チャリンッ。(※俺たちが泥水すすって開拓した土地の価値が、そのまま税金という刃となって俺自身の首を刎ねる、絶望の音)
【開拓エリアの更地評価額(時価評価):30,000,000 pt相当】
【固定資産税・都市計画税(特例除外・最高税率適用):-1,200,000 pt】
【旧・借金残高:18,490,000 pt】
【新・借金残高(課税後):19,690,000 pt】
――静寂。
手作り豆腐の優しい香りが漂う開拓地で、俺の骨の心臓は完全に、そして永遠に砕け散った。
ポイントは稼いでいない。システムは使っていない。
ただ、誰の土地でもない荒れ地を、自分の手で耕して畑にし、井戸を掘っただけだ。
なのに。
「固定資産税(更地評価)」。
土地というものは、人が住み着いて開拓し、インフラ(井戸や畑)を整えれば、自動的に「価値」が上がってしまう。
そしてシステム(国税庁)は、価値が上がった土地を「宅地」とみなし、立派な家が建っていない(特例が使えない)ことをいいことに、「更地」として容赦なく元の6倍もの最高税率で固定資産税をむしり取っていくのだ!
現実の不動産税制の、最も残酷で情け容赦ないリアル。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、空洞の眼窩から今日何度目か分からない血の涙(?)を噴出させ、手作りの石臼に頭をガンガンとぶつけながら泣き叫んだ。
「ただの荒れ地を耕して住みやすくしただけで『宅地』扱いだとォォォォッ!? なんだその恐ろしすぎる不動産評価額の跳ね上がり方は!! しかも家が建ってないからって特例除外で税金6倍の『更地評価』!? ふざけるな!! 開拓者の血と汗の努力から、勝手に価値を算出して税金むしり取るな国税庁のバカヤローッ!!」
稼げば所得税。買えば消費税。持てば固定資産税。
システムからログアウトし、完全な自給自足を目指した俺の最後の抵抗すらも、システム(国税庁)の「価値あるところ全てに課税する」という執念深い取り立てからは逃れられない、究極の絶望だった。
「ル、ルークス君……。現代の税制を甘く見てはいけないよ……。土地を開拓して利用価値を高めれば、それは立派な『不動産開発』だ。システムがその含み益を見逃すはずがないじゃないか……」
「ポイントが! 俺の借金が、ただ畑と井戸を作っただけで1969万に増えたぁぁぁぁっ!!」
完全なる自給自足で手に入れた完全解脱という甘い幻想は、現代不動産税制と更地評価という最強の壁の前に粉々に打ち砕かれた。
1億ポイントへの道のりは、人が生きる営みそのものに課税してくる「税の執念」によって完全に塞がれ、最強(骨)農民は手作り豆腐の優しい湯気と、約2000万に迫る借金のどん底で、カチカチと顎を鳴らしながら永遠に沈んでいくのだった。
**【読者へのメッセージ】**
第三百十話、いかがでしたでしょうか。
システムの経済圏に絶望し、ついに「ポイントを使わなければ税金も関係ない!」と、魔法も魔導具も捨てて荒野を開拓し始めたルークス!
石臼を挽き、薪で火を焚き、にがりを打つ……究極の手間暇をかけた「手作りの極上熱々・湯豆腐」! 肉やスパイスの暴力ではない、大豆の濃厚な甘みと昆布ダシが染み渡る、限界突破の優しいシズル感をお届けしました。ゼロから作る開拓のロマン、最高ですね!
しかし、食後のハッピータイムを地獄に変えたのは、システムからの【土地家屋調査ドローン】!
「荒野を耕して井戸を掘ったから、ここは価値の高い『宅地』ね」「でも家が建ってないから軽減特例は除外で、固定資産税は更地評価(約6倍)で徴収するね」という、現実の不動産税制の恐ろしすぎるリアルをファンタジーに持ち込みました(笑)。開拓者の努力をそのまま税金に換算する国税庁、最強すぎます。
現世でも冥界でも、そして自給自足のスローライフですら完全に詰み、借金約2000万ポイントを背負ったルークス。
果たして彼に、この終わりのない借金地獄から抜け出す術はあるのか!?
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