第三百九話:狂気の債務消滅(アンデッド化)。冥界の極冷かき氷と、絶望の相続税(負債の承継)
「……わかったぞ。すべての原因、すべての苦しみの根源は、俺が『生きている』ことだったんだ」
国境を越えた先、タックス・ヘイヴン(自由貿易都市)の容赦ない熱風が吹き荒れる荒野のど真ん中で。
俺は、血走り、淀み、完全に正気を失った両目で天を仰ぎ、乾いた狂気的な笑い声を上げていた。
出国税と関税のダブルパンチ。自由を求めて国境を越えただけで、俺の借金は800万から一気に『1649万ポイント』へと倍増した。
所得税、累進課税、経費否認(重加算税)、みなし課税、社会保険料、固定資産税、生産調整ペナルティ、密漁の損害賠償、そしてリボ払いの複利息。
思い返せば、あらゆるシステムの搾取は、俺が「生者(法の主体)」としてこの世界に存在し、呼吸をし、経済活動を行っているからこそ発生しているのだ。
「ル、ルークス君……。君、ついに1600万の借金のストレスで、完全に発狂してしまったのか……? しっかりしたまえ、生きていれば必ずやり直せる!」
「ガリウス所長! 俺はついに真理に辿り着いたんですよ! 生きていればやり直せる? 逆だ!! 現代社会の法律、そしてあのクソ忌まわしい税制は、すべて『生きている人間』から搾取するために作られている! なら……法の主体である『生者』をやめちまえばいいんだよ!」
「な、何を言っているんだ!?」
俺はアイテムボックスの最も深い闇の底から、かつて暗黒のダンジョンで手に入れ、絶対に使うまいと封印していた禍々しい小瓶……ドクロのマークが刻まれた『リッチ化の秘薬(禁断の劇薬)』を取り出した。
「死ねば借金はチャラ! アンデッド(不死者)になれば、人権も納税の義務も消失して税金もゼロだ!! 俺は法の枠組みから完全に脱却する!!」
「やめたまえルークス様ぁっ!! いくら借金が辛くても、人間をやめるなんてェェェッ! お肉が食べられなくなりますわよぉぉっ!」
エレナ様とシルフィがすがりついて制止しようとするが、もはや俺の耳には届かない。
債務の重圧から逃れるためなら、魂すら悪魔に売る。
「さらばだ現世の税務署! 俺は一切の税金がかからない冥界(究極のタックス・ヘイヴン)へ旅立つぜェェェッ!!」
俺は瓶の蓋を引き抜き、そのドス黒く粘り気のある液体を一気に喉の奥へと流し込んだ。
――ゴキュッ!
「グァァァァァァァァッ!!!」
その瞬間、俺の全身を業火で焼かれるような凄まじい激痛が包み込んだ。
肉体がドロドロと溶け落ち、血が蒸発し、内臓が灰となって消えていく。だが、不思議と意識だけは恐ろしいほどに鮮明だった。
やがて痛みが引き、視界が晴れた後、俺が自分の両手を見ると……そこには肉も皮もない、カラカラに乾いた真っ白な『骨』の手があった。
「カチカチッ……ふ、ふははははっ! 成功だ! 俺はついに人間をやめ、アンデッド(不死の農民)に転生したぞ!! これでシステムの借金取りも絶対に手出しできねえ! 究極の自己破産(債務消滅)だァァァッ!!」
◇
アンデッド化した俺は、1649万ポイントという現世の重圧から完全に解放され、骨格だけの軽い身体で荒野をルンルン気分でスキップしていた。
しかし、自由貿易都市の荒野は容赦なく暑い。照りつける太陽が、むき出しの白い骨をジリジリと焦がすようだ。
「よし! 俺の借金ゼロの新たな門出(死)を祝って、今日は死者にしか味わえない『究極の冷やしスイーツ』の宴だ!!」
俺は冥界の冷気を操るアンデッドの特権(魔法)を使い、虚空のゲートを開いて、マイナス数百度という『絶対零度の霊氷』の巨大なブロックを現世へと引きずり出した。
そして、神話級の刃を持つ特大の『氷削り用カンナ』を構え、その霊氷の表面を勢いよく滑らせる!
――シュパァッ!! シュパァァァァッ!!
カンナの刃が氷を極薄に削り出し、まるで新雪のような、フワッフワで透明な氷の結晶が、特大のガラスの器に山のように、美しく舞い積もっていく。
「これだけじゃねえ! エルフの里で採れた極上の果実を、限界まで煮詰めに煮詰めた、俺の特製シロップの出番だ!!」
フワフワの氷の山の上から、ドロリとした黄金色に輝く『特濃・黄金のマンゴーシロップ』を、滝のようにドバドバと回しかける!
完熟マンゴーの甘い香りが、荒野の熱風の中で弾け飛ぶ。
さらに、その黄金の山の上から、純白の『極甘・特製練乳の滝』を交差するように、これでもかとぶっかけた。
透明だった雪の山が、黄金色と純白の美しいマーブル模様へと染まり上がる、視覚的背徳感の極致!
「完成だ! 『冥界の極冷・霊魂の透明かき氷(特濃マンゴー練乳がけ)』!!」
熱風が吹く荒野で、その巨大なかき氷の周囲だけが、白く冷たい絶対零度の冷気を放っている。
俺は骨の顎をカチカチと鳴らしながら、スプーンで黄金色に染まったフワフワの氷を山盛りすくい、口(?)の中に大きく放り込んだ。
……フワッ。
キィィィィィィィィィィィンッ!!!!!!
「カチカチカチカチッ(んんんんんんんんんッ)!!!!??」
俺の頭蓋骨の奥底が、強烈すぎる冷気で完全に叩き割られそうになった!!
なんだこの、雪のような儚い口溶けは!!
口に入れた瞬間、極薄の氷が全く抵抗することなく「フワッ」と溶けて消え去る。だがその直後、絶対零度の冷気が暴力的なまでのスピードで脳天を突き抜け、脳みそがないはずの頭が「キーン!!」と激しく割れるような、あの強烈な痛快感が爆発する!
そして、氷が儚く溶けた後に口内に残るのは、特濃マンゴーシロップの果肉感あふれるドロリとした暴力的な甘みと、練乳の重厚なミルキーさの完璧なマリアージュ。
突き抜ける冷たさ、心地よい痛み、そして極上の甘み! これぞ夏のスイーツの最高峰だ!
「う、美味ぇぇぇぇぇぇっ!!! 頭がキーンとする! 脳みそがないのに頭が痛いぞ!! でもスプーンが! スプーンが止まらねえ!!」
「はふっ、キーン! あかん、おでこが割れそうですわ! でもマンゴーが濃くて、氷が雪みたいにフワフワで……寒いですけど最高ですのーっ!」
「ガツガツガツ! なんだこの冷たい水は! 我の牙が凍りつくが、甘くて美味いぞ!! もっと氷を削れ!!」
俺たち全員が、荒野の熱風の中で身を震わせ、こめかみを押さえて「キーン!」と叫びながら、狂ったように極冷かき氷を貪り食った。
生者の苦しみ(借金)を完全に忘れ、死者の特権である極冷のスイーツに酔いしれる。
「死んでみるのも悪くねえな!」。俺は骨の腹を抱えて笑い転げた。
◇
巨大なかき氷の山を完全に平らげ、器の底に溶け残ったマンゴーシロップと練乳の甘い汁まで最後の一滴まで飲み干した後。
俺は、冷え切った骨の身体を荒野の太陽にさらしながら、この世の全てに勝利したドヤ顔(頭蓋骨)でシステムウィンドウを開いた。
「ふはははっ! 最高のスイーツだった! さあ、俺のステータス画面を見ろ! 『死亡(アンデッド化)』の判定が下りて、あの忌まわしい1649万の借金残高は『ゼロ(免責)』になっているはずだぜ!!」
俺が意気揚々とマイページを開いた、まさにその直後だった。
ピピッ! ピィィィィィーーーッ!!!
空中に、これまでで最も禍々しい、喪服のように真っ黒に染まった『特別送達ウィンドウ』が、重苦しい葬送曲のようなアラート音と共にポップアップした。
「……えっ? な、なんだ? 俺はもう死んでるんだぞ! 取り立てなんて法的に無効だろ!」
**【システム・法務局および国税庁より重要なお知らせ】**
**【ユーザー『ルークス(生者)』の死亡(アンデッド化)を確認しました。これより、民法規定に基づき、被相続人の財産を移転する『遺産分割協議』を自動開始します】**
「……は?」
**【財産調査の結果、プラスの財産は0 pt。マイナスの財産(負債)は 16,490,000 pt であることを確認しました】**
**【※法定相続人の捜索……完了。アンデッドとして自我を保持したまま蘇生した『ルークス(本人)』を、第一順位の法定相続人と認定します】**
「……………………………………………………え?」
**【遺産分割協議が成立しました。プラスの財産がゼロのため、負債(借金1649万pt)の全額が、唯一の相続人であるアンデッド『ルークス』にそのまま承継(相続)されました】**
チャリンッ。(※死してなお、システムから逃げられずに、生前の自分の借金が再び背中にのしかかる絶望の音)
**【さらに、負債の引継ぎ手数料、および名義変更に伴う『相続税』として、システムに 2,000,000 pt を加算徴収いたします】**
【旧・借金残高(生前):16,490,000 pt】
【相続税(負債の引継ぎ手数料):-2,000,000 pt】
【新・借金残高(相続後):18,490,000 pt】
――静寂。
マンゴーの甘い香りが漂う荒野で、俺の骨の心臓は完全に停止した。
死んだ。アンデッドになった。人間をやめた。
生者の法律からは逃れられ、借金はチャラになるはずだった。
なのに。
「相続税(負債の承継)」。
死んでも、借金は消えない。アンデッドとして自我を持ったままその場に蘇ってしまったがゆえに、システムは「自分自身の死後の姿」を唯一の相続人とみなし、生前の自分の借金を丸ごと引き継がせるという、悪魔のような民法解釈を適用してきたのだ。
おまけに、借金を引き継ぐための法的手数料(相続税)まで取られて、負債は生前よりもさらに膨れ上がった。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、空洞の眼窩から今日何度目か分からない血の涙(?)を噴出させ、骨の拳で荒野の地面を粉々に砕いて泣き叫んだ。
「死んだのに借金が相続されるだとォォォォッ!? なんだその逃げ場ゼロの極悪民法規定は!! 死後の自分自身に借金を引き継がせるって、どんなトンチキ法律だよ!! しかも借金に相続税までかけるな!! 冥界まで取り立てに来るな国税庁のバカヤローッ!!」
税金、自己破産、ブラックリスト、出国税。
そして最後に行き着いた「死」すらも、システム(国税庁)の執念深い取り立てからは逃れられない究極の絶望だった。
「ル、ルークス君……。法律というのは『相続の放棄』の手続きをしない限り、負債もすべて自動的に引き継がれるものなんだよ……。アンデッドになって意識がある状態では、システムも君を『立派な相続人』として扱うしかなかったんだろうね……」
「ポイントが! 俺の借金が、死んだのにチャラになるどころか、1849万に増えたぁぁぁぁっ!!」
アンデッドになって自由を手に入れたという甘い幻想は、現代民法と相続税という最強の壁の前に粉々に打ち砕かれた。
1億ポイントへの道のりは、生と死の境界線すら平然と越えてくる「税の執念」によって完全に塞がれ、最強(骨)農民は冷たいかき氷の冷気と、終わりの見えない借金のどん底で、カチカチと顎を鳴らしながら永遠に沈んでいくのだった。
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**【読者へのメッセージ】**
第三百九話、いかがでしたでしょうか。
現世の借金に絶望し、ついに「死ねば借金はチャラになる!」とアンデッド(骨)に転生するという究極の勘違いに走ったルークス!
熱風吹く荒野で食らう、冥界の極冷かき氷! カンナで削ったフワフワの透明な氷に、特濃マンゴーシロップと練乳の滝。そして脳みそがないのに「キーン!」とくる極冷の暴力(シズル感)! 夏に読みたい最高の冷やし飯テロをお届けしました。
しかし、食後のハッピータイムを地獄に変えたのは、システムからの【遺産分割協議(借金の相続)】!
「アンデッドになった自分自身が、生前の自分の借金を相続する」「さらに相続税まで取られる」という、死すらも逃げ道にならない現代税法の恐ろしさをファンタジーに持ち込みました(笑)。冥界まで追いかけてくる国税庁、執念が最強すぎます。
現世でも冥界でも完全に詰み、骨になっても借金1849万ポイントを背負ったルークス。
果たして彼に、この終わりのない借金地獄から蘇る(?)術はあるのか!?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




