第三百八話:狂気の国外逃亡(タックス・ヘイヴン)。ダッチオーブンの極厚ミートパイと、絶望の出国税
「……終わってる。この国は、完全に終わってるんだよ」
月明かりすら届かない荒野を、キャンピングカーが猛スピードで爆走している。
ハンドルを握る俺の目は血走り、口元には狂気に満ちた笑みが張り付いていた。
借金を抱え、ブラックリストに入れられ、最後の命綱だった生活保護すらも「高級調味料の隠匿」という理不尽な理由で打ち切られた。
この国にいる限り、俺たちは息を吸って吐くだけで搾取され、監視されるのだ。
「だから俺たちは行くんだ! 税金も、クオータ制も、ケースワーカーの監視もない、完全なる自由と非課税のユートピア……『自由貿易都市』へなァァァッ!!」
「ル、ルークス君……! 落ち着きたまえ! 国境を越えるなんて、そんな勝手な真似をシステムが許すはずが……!」
「許すも許さないもねえ!! 国さえ出ちまえば、あのアコギな税務プログラムの管轄外だ! あっちの国でゼロから稼ぎまくって、1億ポイント貯めてやるんだよ!! さらばだ税金地獄! 俺たちは自由になるんだァァァッ!!」
アクセルをベタ踏みし、俺は国境の荒野をひたすらに駆け抜けた。
「国さえ出ればシステムから逃げ切れる」。その確信が、俺の胸に無限の希望(盛大なフラグ)を灯していた。
◇
国境のゲートまであと数キロという荒野のど真ん中で、キャンピングカーの魔力燃料が底をつきかけたため、俺たちは最後の野営をすることにした。
ブラックリストの俺たちはポイントで食材を買うことができない。
だが、逃避行の道中で、フェンが荒野を駆ける『荒野の暴走猪』と、巨大な『岩砕き鳥』を仕留めてくれていた。
「よし! 今日は俺たちの『独立記念日前夜祭』だ! 豪華なキッチンは使えねえが、野営には野営の『最高の飯』ってもんがあるんだよ!」
俺はキャンピングカーから、分厚く重たい黒鉄の鍋……『神話級・ダッチオーブン』を引きずり出した。
焚き火をカンカンに熾し、ダッチオーブンを火にかける。
ぶつ切りにした猪の肉と野鳥の肉に、粗塩とハーブを揉み込み、熱した鉄鍋で一気に表面を焼き上げる。ジュワァァァッという暴力的な音と共に、野性味あふれる肉の脂が焦げる強烈な匂いが荒野に広がった。
「肉の表面が焼けたら、玉ねぎとニンジンをドサリと入れて炒める! そして……手持ちの最後の資産、エルフの里の『極上赤ワイン』を全弾投下だァァッ!」
ドボドボドボッ!!
鍋の中に赤ワインが注がれ、アルコールが一気に飛んで芳醇な香りが立ち昇る。
そこに農民スキルで作った特製ブイヨンを加え、蓋をしてじっくりと煮込む。硬い野生の肉が、ダッチオーブンの圧倒的な密閉力と蓄熱力によって、ホロホロに崩れるまでひたすら煮込むのだ。
数時間後。
鍋の中の水分が飛び、赤ワインと肉汁が完全に乳化して、ドス黒く輝く『ドロドロの特製グレービーソース』へと仕上がった。
「仕上げだ! 古代砂小麦で作ったパイ生地で、鍋の表面を完全に覆い尽くす!!」
鍋の縁に沿って分厚いパイ生地を被せ、しっかりと隙間を塞ぐ。
そして、ダッチオーブンの重い鉄の蓋の上にも、真っ赤に燃える『炭火(熾火)』をドサリと乗せた。
下からの直火と、上からの炭火。
上下からの圧倒的な熱の暴力で、パイ生地をカリッカリに焼き上げていく。
「完成だ!! 『荒野の極厚ダッチオーブン・ミートパイ』!!」
星空の下、パチパチとはぜる焚き火のそばで、俺は分厚いミートパイの乗ったダッチオーブンをドンッ!と置いた。
蓋の上に残った炭を払い落とし、重い鉄の蓋を開ける。
その瞬間、黄金色に焼き上がった美しいパイ生地が姿を現した。
「さあ! ナイフを入れるぞ! いただきます!!」
俺は、ミスリルのナイフを、こんがりと焼けた極厚のパイ生地の中央に突き立てた。
――サクゥゥゥゥッ!!!!
荒野の静寂に響き渡る、鼓膜が喜ぶほどの完璧な快音!
その直後。
ナイフによって切り開かれたパイ生地の隙間から、中に完全に閉じ込められていた『熱々でドロドロの特製グレービーソース(肉汁)』が、マグマのようにグツグツと決壊し、圧倒的な湯気と共に溢れ出したのだ!
「おおおおおっ……!! 肉汁の火山だァァァッ!!」
俺は、サクサクのパイ生地と一緒に、ドロドロのグレービーソースとホロホロの肉の塊をスプーンで大きくすくい上げ、火傷するのも構わずに口の中へ放り込んだ。
……サクッ!
ハフッ、ハフッ! トロァァァァァァァンッ!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の脳内メーターが、野性味と芳醇なワインの香りで完全に焼き切れた。
美味い!! なんだこの圧倒的な重厚感は!!!
バターの香るサクサクのパイ生地を噛み砕いた瞬間、中から溢れ出した超高温のグレービーソースが、舌の上をドロドロと火傷寸前の温度で蹂躙する!
赤ワインの深いコク、猪の強烈な脂の甘み、野鳥の野性味あふれる旨味。それらが渾然一体となった熱々のソースが、サクサクのパイ生地に染み込み、奇跡の食感を生み出している。
「う、美味ぇぇぇぇぇぇっ!!! 熱い! 熱いけどスプーンが止まらねえ! この暴力的な肉の旨味……これが、自由の味がするぜェェェッ!!」
「はふはふっ、あちゅっ! お口の中が火事ですけど、パイがサクサクで……お肉がホロホロで……涙が出ますわーっ!」
「ガツガツガツ! なんだこの熱いドロドロは! 我の牙を火傷させる気か! だが美味い、もっとよこせ!!」
俺たち全員が、星空の下、焚き火の暖かさを感じながら、額に汗を浮かべてハフハフと熱々のミートパイを貪り食った。
税金に縛られない自由な世界への希望。
その泥臭いカタルシスが最高のスパイスとなり、野営のミートパイを、世界で一番美味いご馳走へと昇華させていたのだった。
◇
翌朝。
腹を極上の肉汁で満たした俺たちは、ついに『国境のゲート』をキャンピングカーで突破した。
風景が変わり、システムマップの表記が【所属不明エリア:自由貿易都市】へと切り替わる。
ステータス画面から、あの鬱陶しい「システム管轄内」のマークが消え去った。
「ふははははっ!! 抜けた!! ついに国境を越えたぞ!! 俺は自由だ! もう税務署のクソッタレ共に、1ポイントたりとも搾取されることはねえんだァァァッ!!」
俺が運転席で両手を突き上げ、歓喜の涙を流した、まさにその直後だった。
ピピッ! ピーーーーッ!!!
空中に、これまでで最も巨大で、最も威圧的な『漆黒と黄金の国際警告ウィンドウ』が、けたたましいアラート音と共にポップアップしたのだ。
「……えっ? な、なんだ? もうシステムの管轄外のはずだろ!?」
**【国際税務局システム・グローバルネットワークより重要なお知らせ】**
**【ユーザー『ルークス』の、システム管轄外への『国外転出(住民票の移動)』を検知しました】**
「……は?」
**【※国際税法規約に基づき、富裕層・高ステータス保持者の租税回避を防止するため、以下の税を即時徴収いたします】**
**【①『出国税(国外転出時課税)』:ユーザーが保有する未確定の資産(神話級キャンピングカー、アイテムボックス内の潜在的価値、および固有スキルの資産価値)を時価評価し、その『含み益』に対して所得税を課税します】**
**【②『関税(持ち出し税)』:管轄内から管轄外への、高度魔導具の無許可輸出に対する関税を適用します】**
「……………………………………………………え?」
チャリンッ。チャリンッ。(※逃げた先まで追いかけてきて、俺の隠し口座や未来の収益から容赦なく天引きを予約する、地獄の音)
【神話級キャンピングカーの含み益評価:15,000,000 pt相当】
【出国税(課税対象):-6,500,000 pt】
【関税(魔導具輸出):-2,000,000 pt】
【現在の借金残高:7,990,000 pt ⇒ 16,490,000 pt(借金倍増)】
――静寂。
自由の風が吹くはずの荒野で、俺の心臓は完全に、そして永遠に停止したかのように凍りついた。
国境を越えた。
システムから逃げ切れたはずだった。
なのに。
「出国税」。
資産を持ったまま、あるいは高い稼ぐ能力を持ったまま税金の安い国へ逃げる者に対し、「出ていくなら、今持っている資産(含み益)に税金を払ってから出ていけ」という、現代国際税務の最も恐ろしく、逃げ場のない最終兵器。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、今日何度目か分からない血の涙を両目から噴出させ、キャンピングカーのハンドルに頭をガンガンとぶつけながら泣き叫んだ。
「国を出るだけで税金がかかるだとォォォォッ!? なんだその富裕層の税金逃れを絶対に許さない最強の法律は!! 含み益に課税ってなんだよ! キャンピングカーは売ってねえよ、ただ乗ってるだけだろうが!! 関税まで取りやがって!! どこまで俺を逃がさない気だ国際税務局のバカヤローッ!!」
国境を越えても、システムという名のグローバル課税網は、決して俺を逃がしてはくれなかった。
「ル、ルークス君……。現代の税制を甘く見てはいけないよ……。タックス・ヘイヴンへの逃亡なんて、各国の税務当局が一番血眼になって監視していることじゃないか……」
「ポイントが! 俺の借金が、ただ国境を越えただけで倍の1600万に膨れ上がったぁぁぁぁっ!!」
自由の味だと思ったミートパイの感動は、一瞬にして国際税務という最強の壁の前に粉々に打ち砕かれた。
1億ポイントへの道のりは、世界のどこに逃げても絶対に逃れられない「税の執念」によって完全に塞がれ、最強農民は国境の彼方で、果てしない絶望と借金のどん底へと沈んでいくのだった。
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**【読者へのメッセージ】**
第三百八話、いかがでしたでしょうか。
国内のすべての制度に絶望し、ついに「タックス・ヘイヴンへの国外逃亡」という禁忌に手を出したルークス!
国境手前の最後の野営で食らう、究極の「極厚ダッチオーブン・ミートパイ」! ナイフを入れた瞬間の「サクッ!」という快音と、中に閉じ込められた熱々のドロドログレービーソースが決壊する視覚的暴力……。星空の下でハフハフと頬張る野営飯の最高峰をお届けしました。
しかし、「これで自由だ!」と国境を越えた直後に待っていたのは、現代税務の最強の壁【出国税(国外転出時課税)と関税】!
「資産を持ったまま税金の安い国へ逃げるなら、その資産の含み益に税金を払え」という、富裕層を絶対に逃がさないリアルすぎる国際税務をファンタジーに持ち込みました(笑)。逃げただけで借金が倍増するシステムの執念、恐ろしすぎますね。
国内でも国外でも完全に詰んだルークス。借金1600万を抱えた彼が、次に向かう先は……もう宇宙しかない!?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




