第三百四話:狂気の借金返済(リボ払い)。泥塊トロルの極上ニンニク味噌ホルモンと、絶望の複利息
「……はっぴゃくまん。マイナス、はっぴゃくまんぽいんと……」
キャンピングカーの薄暗い隅っこ。一切の照明を落とした冷たい床の上で、俺は両膝を抱え、システム画面に血のような赤色で表示された『借金残高』を見つめながら、ガタガタと小刻みに震え続けていた。
密漁。漁業法違反。
海は生産枠のない無尽蔵のボーナスステージだと思い込み、調子に乗って深海アンコウを乱獲した結果、地元漁協の『第一種共同漁業権』というファンタジー世界にあるまじき絶対的な既得権益の壁に激突した。
売上は全額没収。そこからの法外な損害賠償と罰金により、俺は一瞬にして「800万ポイント」という途方もない借金を背負うことになってしまったのだ。
今や、俺のシステムウィンドウの右上には、常に**【※重要・督促状:期日までのご返済を強くお願いいたします。遅延損害金が発生する可能性があります】**という、見る者の精神をゴリゴリと削り取る禍々しい赤いアイコンが、心臓の鼓動のように点滅し続けている。
「ル、ルークス君……。元気を出したまえ。いつまでもそんな暗い顔をしていても借金は減らないぞ。とりあえず、今日の食事はどうするんだい? 高級な食材を買うポイントはおろか、パン一つ買う資金も残っていないだろう?」
「ガリウス所長……。俺は、これまでの度重なるペナルティで、ついにこの世界の真理を悟りましたよ……」
俺はユラリと立ち上がり、血走った、いや、もはや完全に光を失い、深い絶望の淵を覗き込んだような濁った瞳で仲間たちを見回した。
「高級食材を狙うから、税金だの、生産調整だの、既得権益だのといった強大なシステム(権力)に狩られるんだ。なら……最初から価値がゼロ、いや、むしろ『処分費用(報酬)』がもらえる、誰にも見向きもされない不法投棄のゴミ魔物を狙えばいい! それなら絶対に、誰からも横槍は入らない! 俺たちは今日から、超底辺の清掃業者だァァァッ!」
「ひぃっ!? ゴ、ゴミを食べるんですかぁっ!? いくら借金があるからって、お腹を壊しますわよぉぉっ!」
シルフィが顔を青ざめて悲鳴を上げるが、背に腹は代えられない。俺たちはすぐさま、キャンピングカーを森の最果てにある『不法投棄エリア(スラム沼)』へと向かわせた。
◇
到着したそこは、鼻を突く強烈な腐敗臭と、有毒ガスが立ち込める最悪の泥沼だった。
そこにいたのは、腐った泥とヘドロ、そして不法投棄されたゴミを寄せ集めて作られたような、見るも醜悪で巨大な魔物だった。
【鑑定結果】
【対象:泥塊トロル】
【状態:悪臭・不衛生(不法投棄物集合体)】
【特徴:誰も見向きもしない最底辺のゴミ魔物。討伐(清掃)することで、システムから少額の環境美化報酬が支給される。※食用には全く適さない】
「よし! あいつだ! 食うところなんてねえとシステムは言っているが、俺の目にはあいつが歩く『宝の山』に見えるぜ! フェン、風で泥とヘドロを完全に吹き飛ばせ! 俺が解体する!」
サクッと討伐(という名の粗大ゴミ解体)を済ませた俺の目の前には、トロルの腹からドサリとこぼれ落ちた、強烈な悪臭を放つ『内臓(廃棄部位)』の山があった。
ピンクと灰色、そして得体の知れない泥の色が混ざり合った、グロテスク極まりない臓物の塊。
「うっ……! オエッ……ル、ルークス様、さすがにこれは……鼻が曲がりそうですわ……! これをお料理するなんて、正気の沙汰ではありませんの……!」
「主よ、我は肉食だが、これはさすがに食欲が湧かんぞ……。というか、目が痛い!」
「素人は黙ってろ!! ここからが、どん底から這い上がる最強農民(料理人)の腕の見せ所だ!!」
俺は作業用の分厚い前掛けを締め直し、腕まくりをして、アイテムボックスから大量の『神話級・清めの粗塩』と『古代砂小麦の小麦粉』を取り出した。
悪臭を放つピンクと灰色のまだら模様の内臓を巨大なタライに放り込み、粗塩と小麦粉をドサドサと、親の仇、いや、システムの借金取りを憎むような圧倒的な力でぶっかけ、両手で力任せに揉みくちゃにする!
「キュッ! キュッ! キュッ! グチャァッ! 農民の仕込み(下処理)を舐めるなァァッ!」
小麦粉が細かい汚れと臭みの元である泥や粘液を完全に吸着し、粗塩の粒子がぬめりを物理的に削り落としていく。
水魔法で勢いよく洗い流し、また粗塩と小麦粉を大量に投下して揉み込む。
これを何度も何度も、手の感覚がなくなるまで執拗に繰り返す。
さらに、臭み抜きのハーブを入れた熱湯でサッと茹でこぼし、氷水で一気に締める。
やがて、あの気絶するほど強烈だった悪臭は嘘のように完全に消え去り――。
「見ろ!! これが泥臭い労働の結晶! 究極の下処理だ!!」
俺の手の中には、先ほどのヘドロまみれのゴミが嘘のように、まるで真珠のようにキラキラと輝き、ぷっくりと膨らんだ純白の腸……極上の『白コロホルモン』が姿を現していた。
「す、すごいです……! あんなに臭くて気持ち悪かったお肉が、宝石みたいにピカピカに輝いています……!」
「さあ! ここからは労働者の特権、気取ったフレンチでは絶対に味わえない、究極のB級グルメの時間だ!!」
◇
俺はボウルに、すりおろした大量のニンニク、生姜、ポイントショップの底値で買ったコチュジャン、濃厚な合わせ味噌、ごま油、そして隠し味にすりおろしたリンゴを少々加え、完璧な『特製・激辛ニンニク味噌ダレ』を調合した。
そこに、下処理を終えて純白に輝く極上の白コロホルモンをたっぷりと投入し、味が内側まで染み込むように力強く揉み込む。
キャンピングカーの前に七輪を置き、カンカンに熾した備長炭をセットする。
そして、真っ赤なタレが滴るホルモンを、金網の上にドサリと乗せた。
――ジュジュワァァァァァァッ!!!!!
網の上で熱せられたホルモンがキュッと縮み、内側に閉じ込められていた濃厚な脂が、炭火へとポタポタと滴り落ちる。
その瞬間、ボワァァァッ!!と真っ赤な炎が上がり、ホルモンを激しく包み込んだ。
熱で焦げたニンニク、香ばしく弾ける味噌、そして暴力的なまでに下品で強烈な豚の脂の匂い!
高級な白トリュフの繊細な香りや、和食の上品なダシの匂いとは完全に対極にある、労働者のDNAに直接ぶっ刺さる「魂を激しく揺さぶるブルーカラーの匂い」が、むせ返るような煙と共に周囲の空気を完全に支配した。
「うおおおおっ! たまらん! 煙が目に染みて涙が出るが、この匂いだけでドンブリ飯が3杯は食えるぞ!!」
「ル、ルークス様! お腹が、お腹の虫が暴れて止まりませんわーっ! 早く、早くお肉を!」
ホルモンがプクゥッと風船のように膨らみ、表面の味噌ダレに極上の焦げ目がついたところで、俺はそれを網から素早く引き上げた。
左手には、山盛りの熱々白飯(古代砂小麦ブレンド)。右手には、タレと脂でテカテカに光る、燃え上がるような赤いホルモン。
「言葉はいらねえ! いただきます!!」
俺は熱々で弾力のあるホルモンを、純白の白飯に『ワンバウンド』させてから、大きく口に放り込んだ。
……ブリンッ!
ジュワァァァァァァッ、ブチュゥゥゥゥッ!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の脳内メーターが、圧倒的な脂の甘みとニンニクの暴力で完全に粉砕された。
美味い!! 美味すぎる!! なんだこの圧倒的な脂の甘みは!!
噛み締めた瞬間、強烈な弾力を持った腸の皮がプツンと破れ、中から熱々でトロトロの『極上の脂』が、まるで旨味の爆弾のように口の中いっぱいに弾け飛んだ!
高級肉の上品でサラッとした脂ではない。脳の報酬系を直接ショートさせ、理性を焼き切るような、下品で、暴力的で、強烈に中毒性のある旨味の塊だ!
そこに、焦げた激辛ニンニク味噌のガツンとしたパンチと、リンゴの隠し味がもたらす奥深い甘辛さが襲いかかり、脂のしつこさを完全に中和して「もっと食わせろ」と胃袋を狂ったように急かす。
俺はすかさず、脂と赤いタレが染み込んだ『バウンド後の白飯』を豪快にかき込み、さらにポイントショップで買った『一杯たったの10ポイントの安いキンキンに冷えたエール(麦酒)』を喉の奥へ一気に流し込んだ。
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ……プハァァァァァァァッ!!!!!
「くぅぅぅぅぅっ!! 最高だ! 星付きの高級フレンチなんて目じゃねえ! 汗水流して泥にまみれた後に食う、ニンニク味噌ホルモンと安い酒! これこそが労働者の特権、究極のB級グルメだァァァッ!!」
「はふっ、もきゅっ、ブリュッ! あかん、噛めば噛むほど脂が湧いてきますわ……! お口の中が火事みたいに辛いですけど、冷たいお酒とお米が無限に消えていきますのーっ!」
「ガツガツガツ! なんだこの噛み切れないが美味いゴムは! 弾力と脂が、我の野生を呼び覚ますぞ!!」
俺たち全員が、七輪から立ち昇る凄まじい煙に巻かれて涙目になり、咳き込みながらも、狂ったようにホルモンを網に乗せては焼き、白飯にバウンドさせて貪り食う。
800万ポイントという借金の絶望も、底辺の労働の辛さも、すべてがこの強烈な炭火の煙とニンニクの匂い、そして安いエールの喉越しの中に、完全に溶けて消えていった。
◇
網の上のホルモンを一つ残らず平らげ、大量の白飯と安いエールで完全に腹を満たした俺は、爪楊枝をくわえながら、最高にドヤ顔でシステムウィンドウを開いた。
「ふはははっ! 安上がりで最高に美味かった! しかも、泥塊トロルの不法投棄清掃報酬として、チリツモだが『100万ポイント』もの大金を稼いだぞ! 経費は塩と小麦粉とタレ代の数百ポイントだけだ! このペースでゴミ掃除を続ければ、借金も一気に返せるぜ!」
俺は、【借金返済(1,000,000 pt)】のボタンを、借金完済への希望に満ちた指でターンッ!と力強くタップした。
チャリンッ♪
(※俺の血と汗と涙の結晶が、システムという名のブラックホールに吸い込まれる、冷ややかな音)
「よしよし。800万の借金が、これで700万に減ったな。このペースで毎日ホルモンを食えば、すぐに完済だ……ん?」
画面に表示された『返済明細通知』を見た瞬間。
俺の体温は急激に奪われ、エールの酔いが一瞬にして醒め、顔面から一気に血の気が引いた。
**【システム通知:返済額 1,000,000 pt を受領いたしました】**
**【※自動適用中の『リボルビング払い(リボ払い)』規定に基づき、以下の通り充当いたします】**
「……は?」
**【返済額:1,000,000 pt】**
**【利息手数料(月利・複利計算):-990,000 pt】**
**【元本充当額:10,000 pt】**
「……………………………………………………え?」
**【現在の借金残高:7,990,000 pt】**
**【※次回の利息計算日は30日後です。引き続き計画的なご利用(ご返済)をお願いいたします】**
――静寂。
焦げたニンニク味噌の匂いが色濃く漂うキャンピングカーの前で、俺の心臓は完全に停止した。
100万ポイント。確かに返した。
悪臭に耐え、泥にまみれ、汗水流して稼いだ血と汗の結晶だ。
なのに。
元本が『1万ポイント』しか減っていない。
99万ポイントが、ただの「利息(手数料)」として、システムの懐へと消え去ったのだ。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、今日何度目か分からない血の涙を両目から噴出させ、七輪をひっくり返さんばかりの勢いで地面を叩き割って泣き叫んだ。
「100万返して元本が1万しか減ってねえだとォォォォッ!? なんだその恐ろしすぎる現代金融の最凶の闇は!! 『リボ払い』!? いつの間にそんな悪魔の契約になってたんだよ!! 複利計算!? 雪だるま式に増える利息!? これじゃあ返しても返しても、永遠に借金が減らねえじゃねえか!! 暴利すぎるだろ消費者金融のバカヤローッ!!」
税金や経費、産廃代やみなし課税よりも恐ろしい、現代社会が仕掛けた最凶にして最悪の金融トラップ「リボ払い(複利息の無間地獄)」。
毎月一定額を返しているという安心感の裏で、その返済額のほとんどが利息に食い潰され、元本が永遠に減らないという残酷極まりない現実。
「ル、ルークス君……。借金をする時に、システム規約の最後に書いてある『米粒より小さな文字』を読まなかったのかい? リボ払いは、一度手を出したら最後、自己破産するまで抜け出せない無間地獄だよ……」
「ポイントが! 俺の汗水流して稼いだ100万ポイントが、ただの利息に吸い取られたぁぁぁぁっ!!」
廃棄物を美味しくいただくという最強のB級グルメ作戦も、金融の魔物(リボ払い)の前では全くの無力だった。
1億ポイントへの道のりどころか、背負った借金を返すことすら許容しない「リボ払い」という絶対的な絶望の前に、最強農民はホルモンの脂と血の涙にまみれながら、終わりの見えない暗黒の淵へと完全に沈んでいくのだった。
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**【読者へのメッセージ】**
第三百四話、いかがでしたでしょうか。
800万の借金に追い詰められ、ついに「不法投棄のゴミ魔物の内臓」に手を出したルークス! しかし、そこは最強農民の腕の見せ所。大量の粗塩と小麦粉で揉み洗いし、純白の「極上白コロホルモン」へと昇華させる下処理のカタルシスを描きました。
そして、高級食材の対極にあるB級グルメの王様、激辛ニンニク味噌ホルモン! 炭火に落ちる脂、立ち上がる炎、そして白飯へのワンバウンドと安い冷えたエール! 労働者のDNAにぶっ刺さる、深夜に絶対に食べてはいけない茶色い正義(B級版)をお届けしました。
しかし、食後のハッピータイムを地獄に変えたのは、現代社会で最も恐ろしい金融トラップ「リボ払い(複利息)」!
「100万返したのに、99万が利息で元本が1万しか減っていない」という、クレジットカードの明細で多くの人を絶望させるリアルすぎる闇をファンタジーに持ち込みました(笑)。システム(消費者金融)の容赦のなさ、えげつないですね。
借金地獄&リボ払いの沼に完全にハマったルークス。果たして彼に逆転の目はあるのか!?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




