第三百三話:狂気の一次産業拡張(漁業)。深淵海魔鮟鱇の極上・痛風海鮮鍋と、絶望の漁業権(密漁認定)
「……陸がダメなら、海に行けばいいじゃないか」
キャンピングカーのリビングで、俺は窓の外に広がる世界樹の森を眺めながら、不敵な笑みを浮かべていた。
前回の酪農。牛の乳を搾っただけなのに、「生乳生産枠超過」という理不尽極まりない生産調整ルールによって、売上の95%を事実上の廃棄処分として削り取られた。
さらに飼料高騰のペナルティまで食らい、一次産業の厳しいリアルを骨の髄まで味わわされた。
「ル、ルークス君。君のその顔は、また何かよからぬ抜け道(ポイ活)を思いついた時の顔だな……」
「ガリウス所長、俺はついに『真のブルーオーシャン』を見つけたんです!」
俺はバッ!と立ち上がり、キャンピングカーの地図アプリ(システムマップ)を起動して、大陸の端に広がる広大な「海」を指差した。
「よく考えろ! 畑には面積の限界がある。酪農にはクオータ制(生産枠)がある。だが……『海』はどうだ? 海は誰のものでもない、無尽蔵のボーナスステージだ! 生産枠なんて存在しない! 網を入れて獲れるだけ獲っても、システムは『搾りすぎだ』なんて文句を言えないはずだ! これぞ真の取り放題、完全非課税のユートピアだァァァッ!」
「お、おおっ! 確かに、海のお魚さんたちに生産調整なんてありませんわね! ルークス様、天才的な盲点ですわ!」
エレナ様の(毎度おなじみの)無責任な称賛を背に受け、俺はキャンピングカーを極寒の荒波が打ち付ける「北の最果ての海」へと猛スピードで走らせた。
◇
吹き荒れる吹雪と、黒くうねる極寒の荒波。
断崖絶壁の上に立った俺たちの眼下には、キャンピングカーの何倍もある、おぞましくも肥え太った巨大な深海魚が、波間からそのグロテスクな顔を覗かせていた。
【鑑定結果】
【対象:深淵海魔鮟鱇】
【状態:極寒・脂乗り最高(産卵期前)】
【特徴:北の海を支配する巨大アンコウ。その体内には、海のフォアグラと呼ばれる巨大な『肝』と、極上の『白子』を内包している】
「出たな海のボーナス!! クオータ制のない無尽蔵のタンパク質どもめ! 俺の胃袋と口座残高を満たすために、大人しく水揚げされろォォッ!」
俺は吹雪の中で上着を脱ぎ捨て、『絶対冷却シャツ』の防寒機能(?)だけを頼りに、相棒の『真・アダマンタイトの鍬』を大きく振りかぶった。
釣り竿も網もない。農民にあるのは、己の肉体と農具だけだ。
「フェン! 波を裂け! 俺はあいつを一本釣り(物理)する!」
「ガウッ! 任せろ! 『暴風刃』!!」
フェンの風魔法が極寒の波を真っ二つに割り、巨大アンコウのドス黒い巨体が露わになる。
その瞬間、俺は崖を蹴り、空宙からアダマンタイトの鍬を、まるで巨大な「銛」のように真っ直ぐに突き下ろした。
「農業スキル・『大地の解体新書(一本釣り・銛撃ち)』ッ!!!」
ズバァァァァァァァンッ!!!!
神話級の刃が、巨大アンコウの眉間(急所)を寸分の狂いもなく貫き、一撃で絶命させる。
そのまま鍬の柄をテコにして、俺は数十トンはある巨体を、農民の規格外のパワーで断崖絶壁の上へと一気に引きずり上げた。
「ドッスゥゥゥンッ!!」
「よし! 大漁だ! 生産枠ゼロの極上海鮮、収穫完了だァァァッ!!」
◇
キャンピングカーの前に、風よけの魔法障壁を展開し、特大の土鍋をセットする。
極寒の海風に震える身体が今、最も求めている料理。それは――。
「海のフォアグラと、プリン体の塊! 今日は『深淵海魔鮟鱇の極上・痛風海鮮鍋』だ!!」
俺は巨大アンコウを吊るし切りにし、極上の白身やプルプルの皮、そして何よりも重要な「二つの宝」を慎重に取り出した。
一つは、黄金色に輝く、大岩のように巨大な『あん肝』。
もう一つは、純白で脳みそのように折り重なった、抱えきれないほど巨大な『白子』だ。
「マリアさん! 極上の昆布ダシを張ってくれ!」
「はいっ! 神話級の利尻系魔昆布から引いた、最高のおダシですわ!」
グツグツと煮え立つ透明な昆布ダシの熱湯の中に、俺は惜しげもなく、巨大な「あん肝」をゴロゴロとぶつ切りにして投入した。
そして、白身や野菜を入れた後、最後に純白の「白子」をそっと乗せる。
数分後。
鍋の中では、背徳の錬金術が起きていた。
「おおおおおっ……! 見ろ、スープの色を!」
透き通っていた昆布ダシは、溶け出した「あん肝」の極上の脂と旨味によって、完全にドロドロの『黄金色』へと染まり上がっていたのだ!
ボコッ、ボコッ、とマグマのように煮え立つ黄金のスープ。そこから立ち昇る、むせ返るような濃厚な海の旨味と脂の匂い。
「さあ! 明日の健康診断なんて気にするな! ポン酢と紅葉おろしをたっぷり用意しろ! いただきます!!」
俺は、黄金色のスープがネットリと絡みついた純白の『白子』をお玉ですくい上げ、ポン酢の入った取り皿へ移した。
ピリリと辛い紅葉おろしと、青ネギをたっぷりと乗せ、熱々のままハフッと口に放り込む。
……プツッ。
トロァァァァァァァァッ……!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の脳内プリン体メーターが、一瞬で限界を振り切って爆発した。
美味い!! なんだこのクリーミーな決壊は!!
薄い皮を噛み破った瞬間、中から熱々で、まるで極上のクリームチーズのように濃厚な『白子の旨味』が、トロァッ……と口の中いっぱいに弾け飛んだのだ。
そこに、あん肝から溶け出した黄金スープの圧倒的な暴力(脂の甘み)が襲いかかる。
だが、その濃厚すぎる「ギルティな味」を、すかさずポン酢の爽やかな酸味と、紅葉おろしのピリッとした刺激がスパッと切り裂く!
濃厚、酸味、辛味。この完璧なトライアングルが、胃袋を無限にリセットし、「もう一口、もう一口だけ……!」と箸を強制的に動かさせるのだ。
「う、美味ぇぇぇぇぇぇっ!!! 脂とクリームの暴力だ! 絶対に体に悪い味がする! でも最高に美味い!!」
「はふはふっ! 白子さんがお口の中でとろけますわーっ! ポン酢の酸っぱさが、たまらなく憎らしいですの!」
「ガツガツガツ! なんだこのドロドロの汁は! 白身魚に黄金の脂が絡みついて、白飯が無限に消えていくぞ!」
俺たち全員が、極寒の吹雪の中で汗をかきながら、痛風鍋という名の「背徳の快楽」に完全に理性を明け渡した。
あん肝の脂。白子のクリーム。
罪深き海の恵みを、紅葉おろしと共に胃袋へ流し込む。これぞ一次産業の極致。海鮮の最高峰だった。
◇
巨大なアンコウを数匹平らげ、鍋の底に残った黄金のスープまで、雑炊にして一滴残らず食い尽くした後。
俺は、ポン酢の香りが漂う息を吐きながら、最高にドヤ顔でシステムウィンドウを開いた。
俺の後ろには、まだ無傷のまま氷漬けにされた深淵海魔鮟鱇が、山のように積まれている。
「ふはははっ! 最高の痛風鍋だったぜ! そして、これだけ獲っても『生産調整』のペナルティは一切なし! 海は俺の無尽蔵のATMだ!!」
俺は、勝利を確信しながら【一括納品】のボタンをターンッ!とタップした。
チャリンッ♪ チャリンッ♪
【納品アイテム:深淵海魔鮟鱇×20体】
【基本買取価格:10,000,000 pt】
「よっしゃあああああッ!!!! いっせんまんポイントだァァァッ!! 非課税&生産枠なしの丸儲けだァァァッ!!」
俺が吹雪の崖の上で狂喜乱舞した、まさにその直後だった。
ピピッ! ピーーーーッ!!!
空中に、これまで見たこともない『ドクロマークのついた漆黒の超絶警告ウィンドウ』が、パトカーのサイレンのようなアラート音と共にポップアップした。
「……えっ? な、なんだ? 今回は生産枠なんてないはずだぞ!」
**【システム・海上保安監査プログラム発動:ユーザー『ルークス』による、指定海域での無許可の大量漁獲を検知しました】**
「……は?」
**【※重大な警告:当該海域は『北の海・第1種共同漁業権』が設定されており、地元漁業協同組合の許可なき水産動植物の採捕は『密漁(漁業法違反)』に該当します】**
「……………………………………………………え?」
**【システム・コンプライアンス規約に基づき、以下のペナルティを執行します】**
チャリンッ。(※俺の売上が、無慈悲に全額吹き飛ぶ、法の鉄槌の音)
【売上没収:10,000,000 pt(密漁品の取引無効による全額没収)】
【損害賠償請求(地元漁協への補填金):-5,000,000 pt】
【密漁反則金(システムへの罰金):-3,000,000 pt】
【現在の純利益(手取り):-8,000,000 pt(大赤字)】
――静寂。
黄金スープとポン酢の香りが漂う極寒の断崖絶壁で、俺の心臓は、吹雪よりも冷たく、完全に凍りついた。
1000万ポイント、稼いだはずだった。
海には生産枠なんてないと思っていた。
なのに。
「漁業権」。
海は誰のものでもないが、海の幸を獲る権利は『地元の漁協(既得権益)』がガッチリと握っている。許可なく獲れば、それはただの「犯罪(密漁)」なのだ。
売上は全額没収され、さらに損害賠償と罰金で、既存の口座残高から800万ポイントが消し飛んだ。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、今日何度目か分からない血の涙を両目から噴出させ、雪の積もった崖の地面に頭をめり込ませて泣き叫んだ。
「密漁だとォォォォォッ!? なんだそのリアルすぎる海事法規の壁は!! 海は誰のものでもないって言ったじゃねえか!! 地元漁協ってなんだよ! ファンタジー世界に既得権益団体(漁業組合)を持ち込むなァァァッ!! 売上全額没収からの損害賠償って、ヤクザよりえげつねえぞ農林水産省のバカヤローッ!!」
農業で補助金、酪農で生産調整。
そして漁業には、「漁業権(既得権益)」という、一次産業で最も厳しく、最も冷酷な法的・経済的な壁が存在していた。
「ル、ルークス君……。さすがに『密漁』は犯罪だからね。システム(警察)も、こればかりは見逃してくれなかったようだな……」
「ポイントが! 俺の借金が、ただアンコウを一本釣りしただけで800万も増えたぁぁぁぁっ!!」
海は無尽蔵のボーナスステージだという甘い幻想は、地元漁協という最強の既得権益の前に粉々に打ち砕かれた。
1億ポイントへの道のりは、脱税、産廃、生産調整に続き、「密漁」という取り返しのつかないコンプライアンス違反によって完全に塞がれ、最強農民は極寒の吹雪と血の涙にまみれながら、果てしない絶望のどん底へと沈んでいくのだった。
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**【読者へのメッセージ】**
第三百三話、いかがでしたでしょうか。
酪農のクオータ制に泣き、「海なら生産枠ゼロで取り放題だ!」と極寒の海に繰り出したルークス。鍬を銛のように使ってアンコウを一本釣りする泥臭い農民スキル、さすがです(笑)。
そして今回の飯テロは、禁断の「極上・痛風海鮮鍋」!
あん肝が溶け出してドロドロの黄金色に染まる昆布ダシ、熱々の白子が口の中でトロァッと弾けるクリーミーな決壊……。ポン酢と紅葉おろしの無限ループは、読者の皆様の尿酸値を跳ね上がらせたのではないでしょうか?
しかし、至福の後に待っていたのはシステムからの【密漁認定】!
「海は誰のものでもないが、獲る権利は地元漁協のもの」。ファンタジー世界にまで『漁業権(既得権益)』というリアルすぎる法的・経済的な壁を持ち込むシステム(農水省)、容赦なさすぎます。売上全額没収&損害賠償で、ルークスはついに莫大な借金を背負うことになりました。
農業、酪農、漁業……一次産業のリアルな厳しさを味わい尽くしたルークス。借金まみれの彼が次に向かう先は!?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




