第三百二話:狂気の一次産業拡張(酪農)。豊穣牛(アバンダンス・カウ)の極上ラクレットチーズと、絶望の生乳生産枠(クオータ制)
「農業……一次産業こそが、このクソッタレなシステム(国税庁)を合法的に出し抜く唯一の光だ!!」
キャンピングカーのリビングで、俺はこれまでにないほど晴れやかな、そして底知れぬガメつさを宿した笑顔で高らかに宣言した。
前回の「世界樹の黄金大根」の収穫。純粋な一次産業(無農薬農業)による納品は、システムから税金ゼロどころか「+20%の補助金」という特大のアメを引き出した。
法人成り(起業即倒産)で負った固定費の傷も、大根のおでんダシと共に綺麗に癒え、俺のポイ活魂は完全に息を吹き返していた。
「ル、ルークス君。確かに大根は美味しかったし、補助金も出たが……そんなに都合よく、毎日大根ばかり育てていられないだろう?」
「ガリウス所長、甘いですね! 俺の目はすでに次の『ブルーオーシャン(補助金市場)』を捉えていますよ!」
俺はバンッ!とテーブルを叩き、仲間たちを見回した。
「一次産業は農業だけじゃない! 『酪農(畜産)』があるじゃないか! 倒して肉(加工品)にして売るから、税金やら産廃代やら取られるんだ。ならば、生かしたまま、命を奪わずに『ミルク』だけを毎日搾り取ればいい! これぞ究極の持続可能な非殺傷・一次産業! 非課税&補助金の無限ループだァァァッ!」
「お、おおっ! 毎日ミルクを搾るだけなら、ゴミも出ませんし、命も奪いませんわね! ルークス様、天才的な悪知恵……いえ、ビジネスモデルですわ!」
エレナ様の純粋な称賛を受け、俺はすぐさま行動に出た。
ターゲットは、世界樹の森の広大な草原地帯を縄張りにする、神話級の巨大牛だ。
「シルフィ! 案内しろ! 俺は今日から酪農王になる!」
「ひぃっ!? は、はいぃっ! でも、あの牛さんはすごく気性が荒くて……!」
◇
草原地帯に到着した俺たちの前に現れたのは、キャンピングカーよりも一回り大きい、見事な白黒模様の超巨大な雌牛だった。
しかし、その瞳は血走り、鼻からはシューシューと荒々しい蒸気が噴き出している。
【鑑定結果】
【対象:豊穣の暴れ牛】
【状態:搾乳期(乳張りによる極度のイライラ状態)】
【特徴:森の草花を食み、神話級の濃厚なミルクを生成する暴君。不用意に近づけば、岩をも砕く後ろ蹴りが飛んでくる】
『モォォォォォォォォォッ!!!!!』
暴れ牛が大地を蹴り立て、俺たちに向かって突進の構えを見せる。
「ル、ルークス様ぁっ! あんなのどうやって搾るんですかぁっ! 踏み潰されますぅっ!」
「フェン! シルフィ! ガリウス所長! お前たちの全力であの牛の四肢を押さえ込め!! 絶対に殺すなよ! 肉にしたら税金(みなし課税)だ! 俺は! ただミルクだけを搾り取るゥゥゥッ!!」
俺は『真・アダマンタイトの鍬』をアイテムボックスに封印し、両手に農民用の殺菌済みゴム手袋をはめた。
フェンが風で牛の動きを鈍らせ、シルフィの植物魔法が足元を絡め取り、ガリウス所長とエレナ様が魔法障壁で牛の頭を強引に固定する。
その隙間を縫って、俺は暴れ狂う巨大牛の腹の下へと、文字通り「命懸けのダイブ(スライディング)」を敢行した。
「暴れるなァァッ! 大人しく搾られろォォォッ! 農業スキル・『大地の解体新書(神速・乳搾り)』ッ!!」
ドゴォォォンッ!と牛の蹄が俺の顔の数センチ横の地面を粉砕する中、俺は両手を神速で動かした。
シュガァッ! シュガァァッ!!
巨大な乳首から、真珠のように白く輝く、圧倒的な粘度を持った極上のミルクが、俺が用意した特大のミスリル製バケツへと滝のようにほとばしる。
命懸けの戦闘スキルを、完全に間違った方向(酪農)に全振りした、狂気の搾乳ショー。
「よしっ! バケツ10杯分、満タンだ!! 全機、撤退ィィィッ!!」
俺はバケツを抱え、暴れ牛のキックを間一髪で躱しながら、キャンピングカーへと転がり込んだ。
◇
「はぁっ、はぁっ……! 命懸けだったが、見ろこのミルクを!」
バケツの中では、アバンダンス・マザー・カウの搾りたてミルクが、黄金色がかった乳脂肪分をたっぷりと浮かべて輝いていた。
俺は、そのうちの数バケツ分を、ポイントショップで買った『神話級・瞬間発酵レンネット(凝乳酵素)』と魔法の力で、あっという間に巨大な半円形の「チーズの塊」へと精製した。
「ミルクをそのまま飲むのもいいが、酪農の真髄は『加工』にある! 今日は、この絞りたての濃厚ミルクで作った、極上『ラクレットチーズ』の宴だ!!」
俺はキャンピングカーの前にテーブルを出し、魔導コンロの火をつけた。
そして、先ほど作った直径50センチはある巨大な半円形のチーズの断面を、その直火のすぐそばにセッティングする。
隣のコンロでは、マリアさんが【世界樹の男爵イモ】をホクホクに塩茹でし、分厚く切った翠玉森猪の厚切りベーコンをカリッカリに焼き上げている。
「さあ、見ろ! これが酪農の、チーズの『視覚的暴力』だ!!」
直火に炙られた巨大チーズの断面が、熱を帯びて徐々に変化していく。
最初はうっすらと汗をかいたように脂が浮き出し、やがて。
――グツグツグツッ……プクゥッ、パチンッ!
チーズの表面が黄金色に焦げ始め、風船のように膨らんでは弾け、香ばしい焦げ目を作っていく。
同時に、焦げたチーズ特有の、鼻腔の奥を直接鷲掴みにするような『強烈で濃厚な乳脂肪の匂い』が、暴力的なまでの濃度で周囲に立ち昇った。
「うおおおおっ! 匂いが! 焦げたチーズの匂いがたまらん! もう我慢できねえ!」
「ル、ルークス様! お芋とお肉の準備、できておりますわーっ!」
エレナ様が、ホクホクの男爵イモとカリカリの厚切りベーコンが乗った熱々のお皿を、俺の目の前に差し出した。
俺は、専用のナイフを持ち、グツグツと焦げ目がついてトロトロに溶け落ちそうになっているチーズの断面に、スッ……と刃を当てた。
「いくぞ! ラクレットの滝だァァァッ!!」
ズザァァァァァァァァァァッ!!!!!!
俺がナイフを滑らせた瞬間、焦げ目を纏った黄金色のドロドロのチーズが、まるで雪崩のように、いや、黄金の滝のように、皿の上の男爵イモとベーコンに向かって一気に滑り落ちた。
熱々のイモと肉が、一瞬にして分厚いチーズの海に完全に溺れる。
極上の焦げ目と、どこまでも伸びるチーズの視覚的暴力。
「完成だ! 『豊穣牛の限界突破・極上ラクレット』!! 熱いうちに食うぞ!!」
俺はフォークで、チーズの海に沈んだ厚切りベーコンを、男爵イモごとブスッと突き刺し、大きく持ち上げた。
ビヨォォォォォォンッ!!
弾力のあるチーズが、俺の口から皿まで、途切れることなくどこまでも長く、黄金色の糸を引いて伸びていく。
それを、限界まで大きく開けた口に放り込んだ。
……ハフッ。
モチュッ、ジュワァァァァァァァッ!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の意識が、圧倒的な乳脂肪のコクと塩気で完全にホワイトアウトした。
美味い!! なんだこの濃厚さは!!
口に入れた瞬間、弾力のあるチーズが舌に絡みつき、搾りたてのミルクが持つ強烈なコクと、表面の『焦げ目』の香ばしさが爆発する。
そこに、ホクホクの男爵イモの優しい甘みと、厚切りベーコンから溢れ出す野性味あふれる肉汁と塩気が合流し、チーズの濃厚さを見事に受け止める。
噛むたびにチーズがキュッ、キュッと音を立て、口の中を至福の乳製品天国へと変えていくのだ。
「美味いぃぃぃっ! チーズの伸びが! コクが! ベーコンの塩気と完璧なマリアージュだ!!」
「はふはふっ! あちゅっ! でも、チーズがとろとろで……お芋が甘くて……最高にギルティですわーっ!」
「ガツガツガツ! なんだこの伸びる黄色い塊は! 我の牙に絡みつくが、美味すぎて止まらんぞ!!」
俺たち全員が、ナイフで「ズザァァッ」とチーズの滝を落としては貪り食い、また削り落としては頬張るという、理性を完全に失った無限ループに突入した。
一次産業の恩恵、酪農の真髄。
命を奪わずに、これほどまでに暴力的で背徳的な美味さを味わえる。これぞまさに、俺が求めていた究極のポイ活(飯テロ)だ!
◇
巨大な半円形のチーズを削りに削って完全に食い尽くし、腹がパンパンに膨れ上がった後。
俺は、口の周りにこびりついたチーズの脂を拭いながら、最高にドヤ顔でシステムウィンドウを開いた。
「ふはははっ! 最高のラクレットだった! しかも、俺たちの足元には、まだ納品用の極上チーズと、絞りたてミルクのタンクが山ほどあるぞ!」
農業(大根)の時は、ここで「+20%の補助金」が出た。
非殺傷の一次産業である酪農なら、同じか、それ以上の補助金がシステムから降ってくるはずだ。
「さあ! システムよ! 俺に非課税の莫大なポイントと、特大の補助金をよこせェェェッ!」
俺は、意気揚々と【一括納品】のボタンをターンッ!とタップした。
チャリンッ♪ チャリンッ♪
【納品アイテム:豊穣牛の極上生乳&特製チーズ(大量)】
【基本買取価格:8,000,000 pt】
「よっしゃあああああッ!!!! はっぴゃくまんポイントだァァァッ!! これに補助金が乗れば、一気に1000万の大台だぞ!!」
俺が天を仰いで歓喜の雄叫びを上げた、まさにそのコンマ1秒後。
ピピッ! ピーーーーッ!!!
空中に、これまで見たこともない『赤と黒の点滅する超絶警告ウィンドウ』が、けたたましいアラート音と共にポップアップした。
「……えっ? な、なんだ? 今回は一次産業だぞ! ゴミも出してないし、命も奪ってない非課税の酪農だぞ!?」
**【システム・農業協同組合監査プログラム発動:ユーザー『ルークス』からの、異常な量の生乳および乳製品の市場投入を検知しました】**
「……は?」
**【※警告:指定酪農組合の定める当月の『生乳生産枠』を大幅に超過しています】**
**【市場価格の暴落を防ぐため、生産調整規約に基づき、超過分の納品アイテムの買取価格を『95%減額(事実上の廃棄処分扱い)』といたします】**
「……………………………………………………え?」
**【さらに、近年の世界樹の森における牧草(飼料)の価格高騰に伴い、『特別畜産維持費(飼料代高騰調整金)』を売上から強制徴収いたします】**
チャリンッ。(※俺の口座から、絶望的な額のポイントが天引きされる、酪農家の悲痛な音)
【基本買取価格(クオータ内):400,000 pt】
【超過分買取価格(95%減額):380,000 pt(元の価値760万pt)】
【特別畜産維持費(飼料高騰ペナルティ):-600,000 pt】
【現在の純利益(手取り):180,000 pt】
――静寂。
焦げたチーズの香ばしい匂いが色濃く漂う草原の中で、俺の心臓は完全に、そして物理的に停止した。
800万ポイント稼いだはずだった。
一次産業だから、補助金が出てウハウハだと思っていた。
なのに。
「生乳生産枠の超過」。
牛乳は、絞りすぎると市場で余って価格が暴落する。だから生産枠が決められており、それを超えると「事実上の廃棄(95%オフ)」というペナルティを食らうのだ。
おまけに、牛が食べる草(飼料)の価格高騰の煽りまで受けて、維持費として大金をむしり取られる。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、今日何度目か分からない血の涙を両目から噴出させ、草原の土をバンバンと叩き割らんばかりに泣き叫んだ。
「牛乳は搾りすぎるとペナルティだとォォォォッ!? なんだそのリアルすぎる現代酪農の闇(生産調整)は!! 牛は毎日おっぱいが張るんだから搾るしかないだろうが!! 超過分95%減額って、それもう捨ててるのと同じじゃねえか!! 飼料高騰のしわ寄せまでファンタジーに持ち込むな農林水産省のバカヤローッ!!」
農業(大根)で補助金というアメを与え、酪農(牛乳)でクオータ制と飼料高騰という特大のムチ(鉄球)で殴りつける。
それが、システムという名の無慈悲な国家機関のやり方だった。
「ル、ルークス君……。さすがに現代の酪農家が抱える『牛乳が余って捨てざるを得ない問題』までシステムに組み込まれているとは……。一次産業のリアル、恐るべしだな……」
「ポイントが! 俺の800万ポイントが、ただ牛の乳を搾りすぎただけで消えたぁぁぁぁっ!!」
一次産業なら何でも儲かるという甘い幻想は、生産調整の壁の前に粉々に打ち砕かれた。
1億ポイントへの道のりは、現代酪農の悲痛なリアル(クオータ制)という逃げ場のない壁によって完全に塞がれ、最強農民はチーズの脂と血の涙にまみれながら、果てしない絶望のどん底へと沈んでいくのだった。
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**【読者へのメッセージ】**
第三百二話、いかがでしたでしょうか。
農業の補助金に味を占め、「殺さずに搾る酪農なら丸儲けだ!」と息巻いたルークス。命懸けの乳搾り(スライディング)は農民スキルの無駄遣いですね(笑)。
そして、極上の飯テロ「限界突破ラクレットチーズ」!
魔導コンロで表面がグツグツと焦げ、ナイフでズザァァッと男爵イモと厚切りベーコンの上に滝のように降り注ぐ視覚的暴力! 焦げたチーズの香りと、どこまでも伸びる弾力……。深夜のチーズテロ、理性を破壊できたなら大成功です。
しかし、食後のシステム通知は無慈悲でした。
「生乳生産枠(クオータ制)超過による超過分95%減額(事実上の廃棄)」! さらに「飼料高騰ペナルティ」の追い討ち!
牛乳が余って困窮する、現代酪農家のリアルすぎる悲哀(インフレ対策)がルークスを絶望の淵に叩き落としました。システム(農水省)、容赦なさすぎます。
税金だけでなく、生産調整という経済の壁まで立ちはだかった今、ルークスは次なる一手をどう打つのか!?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




