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ブラック企業でポイントを極めた俺、異世界で最強の農民になります  作者: はぶさん


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第三百一話:狂気の原点回帰(一次産業)。世界樹の黄金大根と、心に染み渡る極上・屋台おでん

「……ひゃく、にじゅう、ぽいんと」


 キャンピングカーのリビング。昨日の「起業即倒産」という狂気の宴から一夜明け、俺はシステムウィンドウに表示された口座残高を見つめながら、虚ろな声でその数字を読み上げていた。

 税金、大暴落、鮮度落ち、ブランド認定料、贈与税、罰金、経費否認、重加算税、みなし課税。

 そして極めつけは、法人登記した瞬間に天引きされた社会保険料(労使折半)と固定資産税、均等割という名の固定費地獄。

 あらゆる手を使ってシステムから逃れようと足掻いた結果、俺の口座残高は見事にショート寸前、実質的な破産(借金スレスレ)状態にまで陥っていた。


「残高……120ポイント!? これまでのマイナスや固定費で、マジで破産寸前じゃねえか!! 1億ポイントどころか、明日のキャンピングカーの魔力燃料代すら払えねえぞォォォッ!!」

「ル、ルークス君……。だから言っただろう。小賢しいマネーゲームなど、我々には向いていないと」

「社長、いえルークス様。お給料が出ないなら、私、森へ帰りますわよ……?」


 ガリウス所長の正論と、シルフィのシビアな現実宣告が、俺の胸にグサグサと突き刺さる。

 CEOだの、ステークホルダーだの、福利厚生費だの、横文字のビジネス用語を並べ立てて浮かれていた自分が心底恥ずかしい。


「……そうだ。俺は、社長なんかじゃない。ただの……農民だ」


 俺はユラリと立ち上がり、壁に立てかけてあった相棒『真・アダマンタイトの鍬』をガシッと握りしめた。


「小賢しい節税対策マネーゲームなんて、もうやめだ! 俺は農民だ! 額に汗して土を耕し、純粋な『一次産業』で泥にまみれて稼ぐんだ! 行くぞお前ら! 今日から原点回帰の土いじりだァァァッ!!」


 ◇


 ビジネス用語を完全に捨て去り、純粋な農民の顔(と泥だらけの作業着)に戻った俺たちが向かったのは、世界樹の森の奥深くに広がる未開拓の超巨大畑エリア。

 そこで俺たちの目に飛び込んできたのは、地面から突き出した、大木ほどもある巨大で青々とした「葉っぱ」の群れだった。


 【鑑定結果】

 【対象:世界樹の黄金大根ワールドツリー・ラディッシュ

 【状態:収穫期(極上の瑞々しさ)】

 【特徴:世界樹の養分を限界まで吸い上げた神話級の根菜。煮込めば煮込むほど、無限にダシを吸い込む奇跡のスポンジ】


「出たな! 土の恵みの結晶、黄金大根!!」


 俺は両手にツバを吐きかけ、大木のような大根の葉の根元をガッチリと抱え込んだ。


「いいかみんな! 魔法は使うな! 小細工は一切なしだ! 純粋な農民のパワー(肉体労働)だけで、こいつを大地から引き抜くぞ!!」

「ガウッ! よく分からんが、力比べなら負けんぞ!」

「ル、ルークス様の後ろは私が引きますわ! シルフィ、私の腰を!」


 俺の後ろにフェンが噛みつき、そのフェンの尻尾をエレナ様が引き、エレナ様の腰をシルフィが引き、シルフィの腰をガリウス所長が引く。

 完全に、絵本の『大きなカブ』状態の泥臭いフォーメーションだ。


「いくぞォォォッ! せーのっ!!」

「「「うんとこしょ! どっこいしょ!!」」」


 全員で泥まみれになりながら、顔を真っ赤にして後ろへ体重をかける。

 ズズッ、ズズズズッ……!!

 大地が震え、周囲の土がひび割れ、大根の巨大な白い頭が少しずつ顔を出し始める。


「まだまだァァァッ! もう一丁、せーのっ!!」

「「「うんとこしょォォォ! どっこいしょォォォッ!!」」」


 ――スポォォォォォォォォォンッ!!!!!


 鼓膜が破れんばかりの凄まじい快音と共に、高層ビルほどの長さがある純白にして黄金色に輝く超巨大大根が、大地から見事に引き抜かれた。

 勢い余って全員が後ろにひっくり返り、泥だらけになって重なり合う。


「ふははははっ! 抜けた! 抜けたぞォォォッ!!」

「あはははっ! お顔が泥だらけですわよ、ルークス様!」

「ふふっ、なんだかすごく、清々しい気分ですぅ!」


 ビジネス(税金)の重圧から解放され、額に汗して純粋な労働の喜びを分かち合う。

 これだ。このバカバカしくて泥臭い達成感こそが、俺たちのスローライフの原点だったんだ。


 ◇


 収穫の喜びに浸った後は、待ちに待った実食(飯テロ)の時間だ。

 泥を綺麗に洗い流した世界樹の黄金大根を、俺は極厚の輪切りにしていく。

 そして、ここからが農民(料理人)の丁寧な手仕事だ。

 煮崩れを防ぐために角を削り落とす「面取り」を施し、味が染み込みやすいように表面に「十字の隠し包丁」を深く入れる。


「マリアさん! 大鍋と、あの『究極の合わせダシ』を頼む!」

「はいっ! これまで皆様が狩猟してこられた神話級の魔物の骨や、極上の魚介の乾物から、三日三晩かけて引いた黄金のダシ汁ですわ!」


 キャンピングカーの前に設置した特大の屋台鍋。

 その中に注がれたのは、琥珀色に透き通る、かつお節や昆布、魔物の骨の旨味が複雑に絡み合った、上品にして圧倒的な『おでんダシ』だ。

 そこに、下茹でを済ませた極厚の大根、神話級怪鳥の巨大ゆで卵、翠玉森猪の牛すじ(猪すじ?)串、練り物などを次々と投入していく。


「あとは……弱火でひたすら、じっくりと煮込むだけだ」


 ボコボコと沸騰させてはいけない。ダシが濁るからだ。

 フツッ、フツッ……と、静かに波打つ程度の火加減で、大根がダシを呼吸するように吸い込んでいくのを待つ。


 数時間後。

 屋台鍋の蓋を開けると、冷たい夜の森の空気に、フワァァァァッと白く温かい湯気が立ち昇った。

 暴力的なニンニクの匂いも、焦げた脂の匂いもない。

 ただそこにあるのは、五臓六腑の隅々まで優しく撫で回すような、深く、甘く、心安らぐ『和のダシ』の圧倒的な香りだった。


「おおおおおっ……! 見ろ、この大根を!」


 純白だった黄金大根は、究極の合わせダシを限界の限界まで吸い込み、完全に半透明の『べっ甲色』へと染まり上がっていた。

 十字の隠し包丁の隙間から、旨味のジュースがキラキラと輝いている。


「さあ! 火傷に気をつけろよ! いただきます!!」


 俺は、お玉で熱々のべっ甲大根をすくい上げ、皿に乗せた。

 チョン、と黄色い和辛子を少しだけ乗せ、箸をスッ……と入れる。


 ――スゥッ……。


 何の抵抗もない。極厚の大根が、まるで柔らかいプリンのように、箸の重みだけでホロリと割れた。

 俺はそれを持ち上げ、フーフーと息を吹きかけてから、大きく口に頬張った。


 ……ハフッ! アツッ!

 ジュワァァァァァァァァァァッ!!!!!!


「んんんんんんんんんッ!!!!??」


 俺の目から、ブワッ!と涙が溢れ出した。

 美味い。美味すぎる……いや、これはもう「美味い」という言葉では足りない。

 噛んだ瞬間、大根の細胞という細胞に限界まで貯蔵されていた『熱々の極上ダシ汁』が、口の中で一気に決壊し、大洪水を巻き起こしたのだ!

 口の中を火傷しそうになるほどの熱量。

 脂の暴力とは全く違う。魔物の骨の深いコク、魚介の複雑な旨味、そして大根自身の持つ優しい大地の甘みが、熱いダシ汁となって胃袋へと流れ落ち、冷え切った身体と、起業に失敗して傷ついた心を、内側からジンジンと温めていく。


「はぁぁぁっ……! し、染み渡るぅぅぅっ! ダシが! ダシの旨味が五臓六腑に染み渡るぞォォォッ!!」

「はふはふっ! あちゅっ! でも、お口の中で大根が溶けてお汁になりますわ……! 和辛子のツンとした刺激が、たまらなく愛おしいですの……!」

「ズルズルズルッ! なんだこの熱い汁を吸った白い塊は! 肉が入っていないのに、心が満たされていくぞ……!」


 俺たち全員が、屋台鍋を囲み、ハフハフ、ズルズルと音を立てながら、熱々のおでんを無我夢中で頬張り続けた。

 税金の重圧も、借金の恐怖も、すべてがこの優しいべっ甲色の大根と共に、湯気となって夜空へと溶けていくようだった。


 ◇


 心も身体もポカポカに温まり、満ち足りた気持ちで迎えた翌朝。

 俺は、残りの世界樹の黄金大根の山を前に、システムウィンドウを開いた。


「はぁ……。どうせまた、難癖つけて税金だの手数料だの取っていくんだろ。もう好きにしろよ、俺は昨日の大根で満足したからな……」


 すっかり悟りを開いた農民の顔で、俺は【一括納品】のボタンをタップした。


 チャリンッ♪ チャリンッ♪


 【納品アイテム:世界樹の黄金大根(極上品)×50本】

 【基本買取価格:5,000,000 pt】


 そして、画面に表示された明細。俺は、いつもの『真っ赤な警告(税金徴収)』が来るものと身構えて、目をギュッと瞑った。


 ――ピロリンッ♪


 鳴り響いたのは、アラート音ではない。どこか祝福するような、ファンファーレのような軽快な音だった。

 恐る恐る目を開けると、そこには『黄金色に輝くメッセージウィンドウ』がポップアップしていた。


 **【システム通知:純粋な第一次産業(農業)による、無農薬・無魔法生産物の大量納品を検知しました】**

 **【システム規約に基づき、『第一次産業特別振興・非課税補助金』を適用いたします】**


「……え?」


 【農業特別振興措置:本納品に関する所得税および全手数料を『免除(税率0%)』とします】

 【さらに、優良農家支援ボーナスとして、買取価格に『+20%の補助金』を上乗せします】


 チャリンッ!!(※口座に、信じられない額のポイントが振り込まれる、奇跡の音)


 【基本買取価格:5,000,000 pt】

 【特別補助金(+20%):+1,000,000 pt】

 【税金・手数料:0 pt】


 【現在の純利益(手取り):6,000,000 pt】


「……………………………………………………え?」


 ――静寂。


 朝の清々しい森の空気の中で、俺の心臓は、昨夜のおでん大根よりも熱く、激しく跳ね上がった。


「ぜ、税金ゼロ……!? いや、それどころか、補助金が100万も上乗せされてるゥゥゥッ!?」


 俺は、画面を二度見、三度見し、そして天を仰いで、今度こそ歓喜の涙を滝のように流した。


「やった……やったぞォォォォッ!! アメだ! ずっとムチ(税金)ばっかりだったシステムが、ついに特大のアメ(補助金)をくれたぞォォォッ!! やっぱ小賢しいビジネスなんてクソ喰らえだ! 純粋な農業(土いじり)がナンバーワンだァァァッ!!」


 起業の失敗から一転、泥にまみれて原点回帰したことで、俺はついにシステムの「インフレ対策」の裏をかき、圧倒的なカタルシス(満額+補助金)を手に入れたのだ。


「ル、ルークス君……。君は本当に、現金な男だな……。だが、まぁ……良かったじゃないか」

「よーし! この調子でガンガン土を耕して、1億ポイントまで突っ走るぞォォォッ!!」


 借金スレスレの絶望から、熱々のおでんに癒やされ、一次産業の圧倒的な恩恵に歓喜する。

 最強農民のスローライフ(という名のポイント経済サバイバル)は、清々しい朝日とダシの香りに包まれながら、ついに完全なる原点へと戻ってきたのだった。


---



**【読者へのメッセージ】**

第三百一話、いかがでしたでしょうか。

怒涛の税金地獄と起業即倒産の絶望から、口座残高120ポイントという破産寸前からのスタート!

ビジネス用語を捨て去り、泥にまみれて「うんとこしょ!」と巨大な大根を引き抜く姿は、まさに原点回帰のバカバカしさ(スローライフ)でしたね。

そして、脂の暴力とは違う、和の極み「屋台おでん」!

半透明のべっ甲色に染まった極厚の大根、箸で切れる柔らかさ、そしてハフハフと噛んだ瞬間に決壊する熱々ダシ汁の大洪水……。起業の傷も癒える、究極の和食テロをお届けしました。

ラストはシステムからのご褒美カタルシス

散々ムチ(税金)で痛めつけてきたシステムですが、純粋な一次産業に対しては「非課税&補助金」という特大のアメを用意していました。やはり農業は偉大です!

原点に立ち返り、息を吹き返したルークス。1億ポイントへの道のりは、ここからリスタートです!

次回からも、泥臭くも最高に美味しい農民ライフをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!


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