第二百九十七話:狂気の節税対策(経費全振り)。世界樹の白松露(ホワイト・トリュフ)の成金削りと、還付金への執念
「……65パーセント。ろくじゅう、ご、ぱーせんと……」
キャンピングカーのリビング。その冷たい床の上に大の字になって寝転がり、俺は天井の木目を見つめながら、虚ろな、まるで壊れた蓄音機のような声で同じ言葉を呟き続けていた。
どんなに命懸けで神話級の巨大イカを狩っても。どんなに知恵を絞って、ゴミを一切出さない究極のエコ(ゼロ・ウェイスト)に徹しても。
稼いだ累計ポイントが一定のラインを超えたという、ただそれだけの理由で発動した資本主義のラスボス『累進課税』。
今後の全収益から、自動的に65%の所得税がピンハネされるという絶対的なシステムの宣告は、俺のポイ活魂を完膚なきまでにへし折っていた。
1億ポイント。
世界樹の『黄金林檎』を極上の鮮度で食うために必要な、途方もない金額。
65%も税金で持っていかれるなら、単純計算で3億ポイント近く稼がなければ、手元に1億ポイントは残らない。もはや、まともに稼いで貯められる次元ではなくなっていた。
「……なぁ、フェン」
「なんだ主よ。まだ死んだ魚のような目をしているのか」
「俺は、ある重大な、そして画期的な真理に気がついてしまったんだ」
俺はユラリと上体を起こした。
その両目はドス黒く濁り、口元には歪んだ、狂気に満ちた笑みが張り付いている。
「システムは『利益』に対して税金をかけてくる。……なら、答えは簡単じゃないか」
「は、はい……? ル、ルークス様、また何か恐ろしいことを……」
エレナ様が青ざめて後ずさりする中、俺は狂ったように高笑いを上げた。
「利益を出さなきゃいいんだよ!! 稼いだポイントを全部『経費(食事代)』として使い切っちまえば、利益はゼロ! 利益がゼロなら、憎き累進課税も計算上はゼロだ!! どうせ65%もピンハネされるくらいなら、稼いだ全額を俺たちの胃袋にブチ込んで、システムに一円たりとも渡さねえ!!」
「ル、ルークス君!? ヤケクソにも程があるぞ! それじゃあ一生1億ポイントなんて貯まらないじゃないか!」
「うるさーい! これは立派な『節税対策』だ! むしろ、事業に必要な経費を使いすぎれば、年末調整でシステムから莫大な『還付金』が戻ってくるはずだ!!」
もはや論理は完全に破綻していた。
俺は「経費で落とせば全部タダになる」と錯覚している、典型的なダメな成金社長のマインドへと完全に堕ちていた。
俺は虚空を激しくタップし、ポイントショップの『超高級食材カテゴリー』を開く。
普段なら「高すぎる!」と一瞥して閉じるはずの、神話級の食材たちが並ぶVIP専用ページ。
その中でも、一際狂った価格設定がされている「森の宝石」を、俺は躊躇なく、親の仇を討つような勢いでカートに放り込んだ。
【神話級食材:世界樹の白松露特大サイズ】
【価格:3,000,000 pt】
チャリンッ♪
(※なけなしの貯金が吹き飛ぶ、狂気の決済音)
「ひぃぃぃっ!? さ、さんびゃくまんポイントぉぉぉっ!?」
横から画面を覗き込んだエルフの少女・シルフィが、白目を剥いて泡を吹いて倒れそうになる。
「ル、ルークス様、正気ですか!? そんな超高級品をポチるなんて! 1億ポイントが完全に遠のきましたよぉぉっ!」
「いいんだよ! これは『接待交際費』であり、明日の狩りへの『事業投資』という立派な経費だ! システムに税金として没収されるより、俺の血肉にしたほうが100倍、いや1億倍マシだァァァッ!!」
光の粒子がキャンピングカーのテーブルの上に収束し、俺の手の中に「それ」が現れた。
ソフトボールほどの大きさがある、ゴツゴツとした土気色の塊。見た目はただの泥だらけの石ころのようだ。
だが、それが空気に触れた瞬間だった。
「……っ!!」
キャンピングカーの中が、一瞬にして「異次元」へと変貌した。
それは、もはや「良い匂い」などという生易しい言葉では表現できない。
森の奥深くの湿った土の匂い、発酵した極上のチーズの熟成香、そして妖艶で官能的な、頭がクラクラするような甘いガスのような……。脳の理性を直接麻痺させ、本能を激しく揺さぶる、強烈で暴力的な『香りの塊』だった。
「な、なんだこの匂いは……! 嗅いだだけで、頭の奥が痺れてきますわ……!」
「ガウッ……! 肉が焼ける匂いではないが、なぜかヨダレが滝のように止まらん! これが300万ポイントの力(匂い)か!」
「さあ! 究極の節税(限界突破飯テロ)の時間だ!!」
俺はすぐさまキッチンの前に立ち、調理の準備に取り掛かった。
白トリュフの香りを最大限に楽しむなら、料理は引き算だ。余計な具材、強い味付けは一切いらない。主役はあくまで「香り」なのだ。
マリアさんに手伝ってもらい、古代砂小麦に、最高級の卵の『濃厚なオレンジ色の卵黄』だけをたっぷりと練り込んで打った、極上の平打ちパスタ(フェットチーネ)を茹で上げる。
熱したフライパンに、極上の発酵バターの塊をドカンと入れ、茹で汁と極上の岩塩を少しだけ加えて乳化させる。そこに、アルデンテに茹で上がった熱々のフェットチーネを投入し、バターソースをねっとりと絡め取らせる。
ただそれだけ。究極にシンプルな「卵黄とバターのフェットチーネ」を、特大の平皿にこんもりと、黄金色の山のように盛り付けた。
「みんな! ここからが本番だ! 息を止めろよ、香りの暴力でむせるぞ!」
俺は、ポイントショップで買った『神話級・専用トリュフスライサー(刃の厚み調整機能付き)』を右手に持ち、左手に300万ポイントの白トリュフを鷲掴みにした。
そして、熱々の湯気を立てるパスタの山の真上で。
――シャッ。
スライサーの刃がトリュフの表面を極薄に削り取り、透き通るほど薄い、ひらひらの白トリュフの一片が、パスタの上へと舞い落ちた。
ホワァァァァァァァァッ!!!!!
熱々のパスタの蒸気とバターの熱に触れた瞬間、白トリュフの中に閉じ込められていた香りのカプセルが一斉に弾け飛び、先ほどの何十倍、何百倍もの「官能的な香りの暴力」がキャンピングカーの中で核爆発を起こした。
「うおおおおっ! なんだこれ! 香りが……香りが重い!! 肺がトリュフで満たされる!!」
「ル、ルークス様! もう十分ですわ! 匂いだけでお腹がいっぱいになりそうですの!」
エレナ様が顔を赤らめて悲鳴を上げるが、俺の狂気は止まらない。
親の仇。いや、税務署への憎しみを込めて、俺は狂ったようにスライサーを上下に動かし続けた。
シャッ! シャッ! シャシャシャシャシャッ!!!
「『ストップ』って言うまで削る高級店があるらしいが、俺の辞書にストップの文字はねえ!! 経費だ! これは全額経費で落ちるんだよォォォッ!!」
ひらひらと舞い散る白トリュフの雪が、黄金色のパスタを完全に覆い隠していく。
10万、50万、100万……。スライサーを動かすたびに、数十万ポイントの価値がパスタの上に降り積もる。
もはやパスタを食べているのか、トリュフを食べているのか分からない、背徳的で狂気に満ちた成金限界突破プレイ。
パスタの山が、完全に「白トリュフの土気色の山」へと姿を変え、ソフトボール大の塊が完全に削り尽くされたところで、俺はついにスライサーを置いた。
「完成だ! 『世界樹の白松露の成金限界突破フェットチーネ』!!」
「ル、ルークス君……。君は本当に、税金のせいでどこか狂ってしまったんだな……」
「熱いうちに食うぞ!! いただきます!!」
俺はフォークを白トリュフの山に深々と突き刺し、下のフェットチーネと一緒に豪快に巻き取り、大きく口を開けて放り込んだ。
……フワッ。
モッチィッ。
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の意識が、香りの宇宙へと完全に吹き飛ばされた。
味ではない。白トリュフ自体には、ほとんど味はないのだ。
だが、噛み締めた瞬間、鼻の奥から脳天を突き抜けるような、あまりにも強烈で、エロティックで、芳醇な香りが大爆発を起こす!
そのむせ返るような官能的な香りが、卵黄と発酵バターの濃厚なコク、岩塩の鋭い塩気と口の中で完璧に融合し、「味覚」という概念を超越した未知の快楽へと脳を強制進化させる。
「う、美味ぇぇぇぇぇぇぇっ!!! 香りが! 香りが美味しすぎる!!」
「はふっ! んんっ……! あかん、これはあかんですわ! お口の中が森の宝石箱ですの! 鼻から抜ける香りで、ワインも飲んでいないのに酔っ払いそうですわーっ!」
「ガツガツガツ! なんだこの不思議なキノコは! 肉が一切入っていないのに、肉以上の満足感と多幸感だぞ!」
俺もエレナ様もフェンも、そしてシルフィまでもが、顔を火照らせ、完全に理性を香りの暴力に明け渡しながら、白トリュフの山を狂ったように貪り食った。
これぞ成金の極み。税金から逃れるための、究極の経費散財(飯テロ)。
◇
300万ポイントの白トリュフを削り尽くし、皿に残ったバターとトリュフの香りが移ったソースの一滴まで、パンで綺麗に拭い取って完食した後。
俺は、むせ返るようなトリュフの残り香の中で、バターでテカテカになった顔を歪めてシステムウィンドウを開いた。
「ふはははっ! 最高の経費だったぜ……! さあシステム(国税庁)よ! これで俺の今月の利益は完全に『ゼロ(マイナス)』だ! 税金は1ポイントも払わねえぞ! むしろ、過剰な経費計上による払いすぎた税金の『還付金』をよこせェェェッ!!」
俺は、意気揚々と【経費精算(確定申告)】のボタンを、親指が砕けんばかりの勢いでターンッ!とタップした。
チャリンッ♪
(システムが俺の愚かさを嘲笑うかのような、冷たい決済音)
「よしよし、還付金はいくらだ……って、あれ?」
画面に表示された『確定申告結果』を見た瞬間、俺の顔からスッと血の気が引き、冷や汗がドッと噴き出した。
【申告内容:世界樹の白松露(3,000,000 pt)の購入費用】
【経費項目:接待交際費(飲食代)】
ここまではいい。俺の申告通りだ。
だが、その下の行。真っ赤な文字で書かれた、無慈悲なシステムからの宣告文。
**【※税務プログラムによる監査の結果、事業の実態にそぐわない『過度な接待交際費(飲食代)』の計上を検知しました】**
**【判定:本件支出は業務との関連性が認められない『私的な飲食(単なる贅沢)』とみなし、全額を『経費否認(損金不算入)』と決定いたしました】**
「……は?」
**【さらに、利益圧縮を目的とした悪質な所得隠し(脱税行為)と認定し、『追徴課税』および『重加算税(最高税率)』を課します】**
チャリンッ。(※俺の口座残高が、容赦なくマイナスへと抉り取られる地獄の音)
【経費否認:3,000,000 pt(全額自腹)】
【重加算税(追徴ペナルティ):-1,500,000 pt】
――静寂。
白トリュフの芳醇な香りが色濃く漂うキャンピングカーの中で、俺の心臓は完全に停止した。
利益をゼロにするために、なけなしの300万ポイントを使い切った。
経費で落ちて、タダになるはずだった。
なのに。
「経費否認」。
ただの贅沢だと見なされ、300万ポイントは丸々自腹になり、さらに「重加算税」という恐ろしい罰金まで追加でむしり取られたのだ。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、今日何度目か分からない血の涙を両目から噴出させ、キャンピングカーの床をバンバンと叩き割らんばかりに泣き叫んだ。
「高すぎるメシ代は経費で落ちないだとォォォォッ!? なんだそのリアルすぎる税務調査の監査基準は!! 俺の胃袋に入ったんだから、明日の魔物討伐への立派な事業投資(ポイ活の原動力)だろうが!! 損金不算入からの重加算税!? どこまで俺からむしり取れば気が済むんだ国税庁のバカヤローッ!!」
稼げば累進課税で持っていかれ、ヤケクソで使えば経費否認で追徴課税を食らう。
逃げ場のない、完璧な税務包囲網。
「ル、ルークス君……。さすがに税務署を甘く見すぎたようだな……。彼らは領収書の1枚1枚まで、AIによる超高度な監査でシビアにチェックしているんだよ……」
「ポイントが! 俺の還付金どころか罰金がぁぁぁぁっ!!」
どんなにヤケクソになっても、絶対に抜け穴を許さない強固な経済の壁。
1億ポイントへの道のりは、現代社会の闇を全て煮詰めたような鬼畜税務プログラムによって完全に粉砕され、最強農民は白トリュフのむせ返るような香りに包まれながら、果てしない絶望のどん底へと沈んでいくのだった。
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**【読者へのメッセージ】**
第二百九十七話、いかがでしたでしょうか。
累進課税の絶望から「利益をゼロにして税金から逃れる」という成金社長マインドに堕ちたルークスのヤケクソ節税!
300万ポイントの白トリュフを、パスタが見えなくなるまで削りまくる限界突破の飯テロ! むせ返るような官能的な「香りの暴力」を画面越しに感じていただけたなら大成功です。
しかし! システム(国税庁)は甘くありませんでした。
「過度な飲食代は経費で落ちない(損金不算入)」という生々しすぎる税務調査、さらに悪質とみなされて「重加算税(追徴課税)」のコンボ!
還付金狙いが見事に打ち砕かれ、血の涙を流すルークスに、読者の皆様も同情(と爆笑)していただけたのではないでしょうか。
インフレ対策の壁が、完全に「異世界税金対策セミナー」の様相を呈してきましたね(笑)。
八方塞がりとなったルークスは、次こそどうやって1億ポイントを稼ぐのか!?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




