第二百九十六話:狂気のゼロ・ウェイスト(SDGs)。幻影深森烏賊(ファントム・クラーケン)の漆黒パスタと、絶望の累進課税
「ゴミ……。そうか、ゴミを残すからいけないんだ」
キャンピングカーのリビングで、俺は虚空を見つめながらブツブツと呟いていた。
美味しいウニの身だけを食い、猛毒の殻をその場にポイ捨てした結果、システムから「特別産業廃棄物処理代」として売上の90%を強制徴収された前回の悲劇。
税金、価格暴落、鮮度低下、手数料、そして産廃処理代。
1億ポイントという目標に対し、システムはあの手この手で俺からポイントをむしり取っていく。
「ル、ルークス君……。さすがに疲れているんじゃないか? 今日はもう休んだ方が……」
「ガリウス所長。俺は真理に辿り着きました」
俺はユラリと立ち上がり、血走った両目を見開いた。
「ゴミを捨てるから処分代を取られる! ならば……殻も骨も内臓も、スミの一滴に至るまで『100%可食』の魔物を狩ればいいんだ! 余すところなく全てを胃袋という名の焼却炉で処分してやれば、廃棄コストは完全ゼロだ! 究極のエコ(SDGs)だ!!」
「ル、ルークス様、お顔が完全に環境保護活動家を装った悪徳商人ですわーっ!」
俺はエレナ様の悲鳴をBGMに、エルフの少女・シルフィに迫った。
「おいシルフィ! この森に、頭の先から尻尾まで、一ミリも残さず食い尽くせる『可食部100%』の美味い魔物はいないか!?」
「ひぃっ!? か、可食部100%……? そ、それなら、森の地下深くにある地底湖に、骨を持たない巨大な軟体魔獣が……」
「行くぞ!! 究極の原価ゼロ&廃棄ゼロ作戦の開幕だァァァッ!!」
◇
シルフィの案内で辿り着いたのは、鬱蒼とした森の地下に広がる、広大で静寂に包まれた地底湖だった。
その透明な水鏡の下に、ドス黒い、キャンピングカーよりも巨大な「影」がゆっくりと蠢いている。
【鑑定結果】
【対象:幻影深森烏賊】
【状態:極上(肉厚)】
【特徴:地底湖の主たる神話級の巨大イカ。高度な擬態能力と、全てを溶かす漆黒のスミを持つ】
【討伐推奨価格:3,000,000 pt】
「出たな! 歩く……いや泳ぐ巨大なタンパク質の塊! 骨がないならゴミも出ねえ! フェン! あいつを水面まで引きずり出せ!」
「ガウッ! 任せろ! 『大竜巻・水柱』!!」
フェンの風魔法が地底湖の水を激しく巻き上げ、巨大なイカのバケモノが空宙へと放り出された。
ウネウネと蠢く太い十本の触手。そして、獲物を丸呑みにせんとする巨大なトンビ(くちばし)。
「農業スキル奥義・『大地の解体新書(巨大軟体締め)』ッ!!」
俺は『真・アダマンタイトの鍬』を振るい(今回は修繕費をケチらずに一撃必殺を狙う)、ファントム・クラーケンの眉間(神経の集中する急所)を正確に打ち抜いた。
巨体がドスゥゥン!と岸辺に打ち上げられ、絶命と共に体表の色がスーッと白く透き通っていく。極上の鮮度の証だ。
「よし! ここからが本番だ! 一切の無駄なく、1ミリのゴミも残さず完全解体するぞ!!」
俺は目を血走らせ、ミスリルの包丁を握りしめた。
純白で分厚い胴体の身は、極上の刺身とステーキ用に切り分ける。
太く吸盤のついたゲソ(触手)は、特製の衣をつけて唐揚げ用に。
コリコリとした軟骨や、巨大なトンビ(くちばし)、さらには目玉の周りの身に至るまで、余すところなく串焼きの具材として確保する。
「ル、ルークス君……。さすがにそのクチバシや軟骨は固くて食べられないのでは……?」
「甘い! 包丁で細かく叩いてツクネにするか、圧力鍋でトロトロになるまで煮込めば極上のダシが出る! ゴミなんて一ミリも残さねえ!」
「主よ、お前の食への執念、恐ろしいを超えて感動すら覚えるぞ……」
そして、イカの解体において最も重要かつ、今回の最大の目的である「アレ」を、俺は慎重に、慎重に取り出した。
破らないように、傷つけないように。
「……獲ったぞ。神話級の『イカスミ袋』だ!」
黒光りする巨大な袋の中には、ファントム・クラーケンが溜め込んでいた、暴力的なまでの旨味とアミノ酸を凝縮した「漆黒の液体」がたっぷりと詰まっていた。
「よし、解体完了! 現場にはゴミ一つ落ちてない! 完全なるSDGs(産廃ゼロ)だ! さあ、実食(飯テロ)の時間だ!!」
◇
俺はキャンピングカーの前に巨大な特注フライパンをセットした。
たっぷりのエキストラバージン・オリーブオイルを引き、これでもかというほど大量のニンニク(微塵切り)と、以前手に入れた【極炎唐辛子】を少しだけ加えて弱火でじっくりと香りを移していく。
シュワァァァァ……。
ニンニクが狐色に変わり、食欲を直接殴りつけるような暴力的な香りが立ち昇る。
そこに、細かく刻んだファントム・クラーケンのゲソと身を投入。強火で一気に炒め、白ワインを振ってアルコールを飛ばす。
「そしてメインイベント! 神話級のイカスミ、全弾投下!!」
ドプゥゥゥゥッ……!!
フライパンの中に、漆黒の液体が雪崩れ込んだ。
一瞬にしてフライパンの中は暗黒に染まるが、熱せられたイカスミからは、生臭さなど一切ない。
磯の深い香りと、凝縮された海鮮の旨味、そしてニンニクとオイルが完璧に乳化し、むせ返るような重厚なソースへと仕上がっていく。
「古代砂小麦の極太パスタ、茹で上がりだ! ソースと絡めるぞ!」
茹でたてアツアツのパスタを漆黒のソースの海へダイブさせ、フライパンを豪快に煽る。
パスタの一本一本に、ドロリとした真っ黒なソースがねっとりと絡みつく。
「完成だ! 『幻影深森烏賊の極上・漆黒イカスミパスタ』!!」
大皿にドーンと盛られた、見た目は完全に「暗黒物質」。
だが、そこから放たれる香りは、理性を一瞬で焼き切るほどの強烈なニンニクと海鮮のオーケストラだった。
「さあ! 見た目にビビるな! 豪快に啜れ! いただきます!!」
俺はフォークに真っ黒なパスタをたっぷりと巻きつけ、大きな口を開けて放り込んだ。
……ズズッ!
ムチィッ! ジュワァァァァァッ!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
美味い!! なんだこの圧倒的な旨味の暴力は!!
口に入れた瞬間、イカスミが持つ規格外のアミノ酸とコクが爆発する。
見た目のグロテスクさとは裏腹に、味はどこまでも上品で深く、それでいてニンニクのパンチがガツンと脳を揺さぶる。
極太の古代砂小麦パスタの小麦の甘みと、イカスミの塩気、そしてゴロゴロと入ったイカの身のプリプリとした食感。
全てが完璧。パスタの王様だ!
「う、美味ぇぇぇぇっ! 見た目はヤバいのに、味が濃くて止まらない!!」
「はふっ、ズズッ! あかん、これはあかんですわ! お口の周りが真っ黒ですけど、フォークが止まりませんのーっ!」
「ガツガツガツ! なんだこの黒いソースは! 我の牙が黒く染まるが、旨味が凄まじいぞ!」
俺もエレナ様もフェンも、そしてシルフィまでもが、口の周りを泥棒のように真っ黒に染め上げ、ニカッと笑うと歯まで真っ黒(お歯黒状態)になりながら、狂ったように漆黒のパスタを貪り食った。
お互いの真っ黒な顔を見てゲラゲラと笑い合いながら、濃厚な海鮮の旨味に完全に理性を明け渡す。
これぞ、最高の食事。最高の飯テロだ。
◇
巨大なイカを文字通り骨の髄(軟骨)からスミの一滴まで食い尽くし、大鍋一杯のパスタを完全に平らげた後。
俺は、お歯黒のままニヤリと笑って、システムウィンドウを開いた。
「ふはははっ! 食った食った! しかも現場にはゴミ一つ落ちていない! 産廃処理代ゼロ! 経費も最小限! 完璧なゼロ・ウェイスト作戦の大勝利だ!」
俺は、意気揚々と【討伐(収穫)報告】のボタンをタップした。
チャリンッ♪ チャリンッ♪
【討伐報告:幻影深森烏賊】
【基本報酬:3,000,000 pt】
【※現場の環境負荷(廃棄物)ゼロを確認。特別産業廃棄物処理代の免除を適用】
「よっしゃあああああッ!!!! さんびゃくまんポイント、丸儲けだァァァッ!!!」
俺はお歯黒の口を大きく開けて歓喜の声を上げ、キャンピングカーの中で小躍りした。
税金、暴落、鮮度、手数料、産廃代。すべての壁を乗り越え、ついに俺のポイ活がシステムを出し抜いたのだ!
――そう、勝利を確信した、まさにその直後だった。
ピピッ! ピィィィィィーーーッ!!!
黄金色に輝いていた画面に、これまでで最も禍々しい、紫と黒の『超特級警告ウィンドウ』がポップアップした。
「……えっ? な、なんだ? 今回はゴミも出してないし、非課税クエストのはずだぞ!」
**【システム通知:ユーザー『ルークス』の利益率100%の超高収益事業を検知しました】**
**【また、本取引により、ユーザーの『累計獲得ポイント』が一定額のボーダーラインを超過したことを確認しました】**
「……は?」
**【税務プログラム発動:累計所得額の増加に伴い、『累進課税(所得税)』のブラケット(税率階層)が一段階引き上げられました】**
**【今後の全収益(すべての討伐・納品報酬)に対し、ベースとなる所得税率『65%』が強制適用されます】**
「……………………………………………………え?」
――静寂。
ニンニクと磯の香りが漂うキャンピングカーの中で、俺の心臓は完全に、そして物理的に停止したかのように冷え切った。
産廃代をゼロにした。
あらゆるペナルティを回避した。
なのに。
「稼いだ総額が増えたから」という、ただそれだけの理由で、今後のすべての収入から『65%』が自動的にピンハネされることが決定したのだ。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、お歯黒の口から今日何度目か分からない血の涙を噴出させ、床をバンバンと叩き割らんばかりに泣き叫んだ。
「累進課税だとォォォォォッ!? なんだそのリアルすぎる現代資本主義のラスボスは!! 稼げば稼ぐほど税率が上がる!? じゃあ俺が頑張って知恵を絞って利益率を上げた努力は全部水の泡かよ!! 金持ち(ポイ活上位勢)を絶対に許さないシステムかバカヤローッ!!」
特定のペナルティを回避する術を身につけた俺に対し、システムが突きつけてきた最終兵器。
それは「そもそもベースの税率を上げる」という、逃れようのない、あまりにも残酷な社会のルール(累進課税)だった。
「ル、ルークス君……。お歯黒で泣き叫ぶ姿は滑稽だが……さすがに同情するよ。システムは、君に1億ポイントを稼がせる気がないんじゃないか……?」
「ポイントが! 俺の未来のポイントがぁぁぁぁっ!!」
どんなにエコに徹しても、どんなに賢く立ち回っても、稼いだ額に応じて増大する『税の重圧』。
1億ポイントへの道のりは、現代社会の闇を全て煮詰めたような鬼畜システムによって完全に塞がれ、最強農民は真っ黒な口から魂を吐き出しながら、果てしない絶望のどん底へと沈んでいくのだった。
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**【読者へのメッセージ】**
第二百九十六話、いかがでしたでしょうか。
産廃代を恐れるあまり、巨大イカを「スミの一滴まで完全消費」する究極のゼロ・ウェイスト(SDGs)作戦!
そして、真っ黒な見た目を裏切る、ニンニクと磯の旨味が爆発する「極上イカスミパスタ」! 全員がお歯黒になって笑い合いながら貪り食う姿は、飯テロでありながら最高のコメディです。
しかし! 産廃代ゼロで丸儲けと喜んだ直後……。
システムからの最終兵器、「累計獲得ポイント超過に伴う『累進課税』のブラケット引き上げ(税率65%)」という、現代社会で最も心を折る通知がルークスを絶望に突き落としました!
稼げば稼ぐほど税率が上がる。特定のペナルティを回避しても、ベースの税率を上げられてしまっては逃げ場がありません。
インフレ対策のラスボスとも言える「累進課税」の前に、果たしてルークスはどう立ち向かうのか!?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




