第二百九十五話:狂気の原価ゼロ作戦。激棘の森海胆(フォレスト・デス・ウニ)の山盛り丼と、絶望の廃棄コスト
「経費……ランニングコスト……修繕費……光熱費……」
キャンピングカーの薄暗い隅っこで、俺は両膝を抱え、うわ言のように呪詛をリピートし続けていた。
500万ポイントという非課税の巨額報酬を得ておきながら、武器の修繕費とガス代の自動引き落としにより、手取りがたったの10万ポイント(利益率2%)にまで激減した前回の絶望。
最強の武器を使い、最高の火力を出せば、それだけ『維持費』という名の血が流れるのだ。
「ル、ルークス様……。どうか元気を出してくださいませ。昨日のラーメン、とっても美味しかったですわよ……?」
「エレナ様、俺は悟りました。1億ポイントを稼ぐための真理に」
俺はユラリと立ち上がり、血走った両目でエルフの少女・シルフィをロックオンした。
「武器を使うから『修繕費』がかかる! 火を使うから『光熱費』がかかる! ならば答えは一つだ! 『素手』で狩れて、『生(非加熱)』で食える魔物を狙えば、経費(原価)はゼロで利益率100%の丸儲けだ!! おいシルフィ! この森に、生で食える美味い魔物はいないか!?」
「ひぃっ!? な、生で食える魔物……? そ、それなら、この先にある『沈黙の沼地』に、恐ろしいトゲを持つ魔物が……」
「行くぞ!! 究極の原価ゼロ作戦(ポイ活)の始まりだ!!」
◇
シルフィの案内で辿り着いたのは、森の最深部にある、底なし沼が広がる不気味な地帯だった。
その沼の岸辺に、ズラリと群生していたのは――。
真っ黒で、鋼鉄の槍のように鋭く長いトゲを無数に生やした、キャンピングカーのタイヤほどもある巨大な球体だった。
それが、グニグニとトゲを動かしながら、沼地の養分を啜っている。
【鑑定結果】
【対象:激棘の森海胆】
【状態:身入り最高(極上の食べ頃)】
【特徴:鋼鉄すら貫く猛毒のトゲを持つ陸生巨大ウニ。内部には森の養分を濃縮した黄金の生殖巣(身)が詰まっている】
【危険度:災害級(触れた瞬間に猛毒で即死する)】
「おおおおおっ!! 森のウニ!! しかも身入り最高だと!? これなら火を通さずに生でイケるぞ!!」
「ル、ルークス様ぁっ! ダメです! あのトゲは竜の鱗すら貫く猛毒です! 絶対に近づいては……」
「フェン! 風魔法で動きを封じろ! 俺が『素手』で解体する!」
俺は、腰の『真・アダマンタイトの鍬』には一切手を触れず、アイテムボックスから100ポイントの『農作業用軍手(滑り止め付き)』を取り出し、手にハメた。
「な、なんだ主よ!? なぜ鍬を抜かんのだ! あんなトゲの塊、素手で触ったら死ぬぞ!」
「バカヤロー!! 鍬を使ったら、また刃こぼれして『修繕費350万ポイント』を請求されるだろうが! 命より経費削減だ! 俺の素手の握力(農民パワー)を舐めるなァァァッ!!」
俺は『絶対冷却シャツ』の身軽さで宙を舞い、フェンの風魔法で動きを止められた巨大ウニのド真ん中へと跳躍した。
四方八方から鋼鉄の猛毒トゲが迫る。
だが、俺は軍手をハメた両手を、トゲとトゲのわずかな隙間へと神業的な精度でねじ込んだ。
「農業スキル・『大地の解体新書(素手パカ)』ッ!!」
俺は全身の筋肉を爆発させ、軍手の滑り止めをウニの殻にガッチリと食い込ませて、力任せに左右へと引き裂いた。
メキメキメキッ……パカァァァァァッ!!!!
鋼鉄のウニ殻が、素手の握力によって真っ二つに割れた。
そして、その断面から姿を現したのは――。
「……!! す、すげえ……!!」
タイヤほどの大きさの殻の内部に、ぎっしりと、隙間なく詰まった『黄金色に輝く巨大な身(生殖巣)』だった。
プリップリで、一粒一粒がはっきりと際立ち、太陽の光を反射して神々しいまでの光沢を放っている。
「よし! 完全無傷で収穫完了だ! しかも武器を使ってないから修繕費ゼロ!!」
「……あ、あのトゲの塊を、軍手でパカッと……。もう、何がなんだか……」
シルフィが白目を剥いて震える中、俺はすぐさま実食(飯テロ)の準備に取り掛かった。
「ウニと言えば、絶対に『熱々の白飯』だ! マリアさん! アレを頼む!」
「はいっ! 昨晩のフェン様の火魔法の『余熱』を利用して、魔法の土鍋でふっくらと炊き上げておきましたわ! ガス代(光熱費)はゼロですの!」
完璧な経費削減だ。
俺は、湯気を立てる熱々でツヤツヤの【古代砂小麦の白米】を、特大のどんぶりに並々とよそった。
そして、割りたての巨大ウニから、黄金色に輝くプリプリの身を巨大なスプーンで豪快にすくい出し、熱々の白飯の上にドカッ、ドカッ!と乗せていく。
ご飯の「白」が完全に見えなくなるまで、黄金の「ウニ」で覆い尽くす。
これぞ、海鮮(森鮮)の王様。贅沢の極み、『極上山盛りウニ丼』の完成だ。
「仕上げは……これだ!」
俺は、ポイントショップで買った『神話級・熟成たまり醤油』を、山盛りのウニの上からタラリ……と回しかけた。
熱々の白飯の熱で、ウニの身がふわりと温まり、醤油の香ばしい匂いと混ざり合って、磯(森)の香りが爆発的に立ち昇る。
「うおおおおっ! たまらん! いただきます!!」
俺は大きな木のスプーンで、山盛りのウニと熱々のご飯を一緒にすくい上げ、大きな口を開けてかき込んだ。
……ハフッ。
トロァァァァァァァァッ……!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の脳髄が、黄金の甘みで完全にメルトダウンした。
なんだこの舌触りは!!!
口に入れた瞬間、冷たいウニが熱々のご飯の熱で『熱と冷たさの境界線』を越え、まるで極上のクリームのように、トロァッ……と一瞬にして溶け去ったのだ。
ミョウバンを使った安物のウニ特有の苦味など一切ない。
あるのは、森の生命力を限界まで凝縮した、上品で、暴力的で、脳を直接殴りつけるような「圧倒的なウニの甘み」と「濃厚な旨味」だけ。
そのとろける甘みを、たまり醤油の塩気と熱々の白飯が完璧に受け止め、口の中を至福の竜宮城へと変えていく。
「美味いぃぃぃぃぃっ!! 溶ける! ウニが飲み物のように溶けて消えるぞ!!」
「はふっ、とろとろですわ! お口の中でウニの甘みがお米に絡みついて……あかん、これは止まりませんわーっ!」
「ガツガツガツ! 生肉(?)も悪くないな! このクリーミーさは反則だぞ!」
俺も、エレナ様も、フェンも、そしてシルフィまでもが、顔を醤油とウニの黄金色でテカテカにしながら、狂ったように山盛りウニ丼をかき込み続けた。
濃厚な豚骨ラーメンの重さとは違う、どこまでも上品で、それでいて限界まで濃厚な「生食」の極致。
◇
巨大なウニを何十個も割り、山盛りのウニ丼を腹の限界まで平らげた後。
俺は、軍手についたウニの甘みを舐め取りながら、意気揚々とシステムウィンドウを開いた。
足元には、中身をくり抜かれた巨大なウニの「猛毒のトゲ付き殻」が、文字通り山のように積み上げられている。
「ふはははっ! 最高のウニ丼だった! しかも今回は、武器も使ってないから修繕費ゼロ! 火も使ってないから光熱費ゼロ! 原価ゼロの完全利益100%だ!!」
俺は、システムに向けて【討伐(収穫)報告】のボタンを、自信満々にターンッ!とタップした。
チャリンッ♪ チャリンッ♪
【討伐報告:激棘の森海胆×30体】
【基本報酬:3,000,000 pt(※害獣駆除につき非課税)】
「よっしゃあああああッ!!!! さんびゃくまんポイント、経費ゼロで丸儲けだァァァッ!!!」
俺は沼地の前で飛び跳ね、両手を突き上げて歓喜のダンスを踊った。
税金なし! 暴落なし! 鮮度落ちなし! そして何より、経費ゼロ!!
俺の完璧なポイ活ロジックが、ついにシステムに完全勝利したのだ。
――そう、確信した、そのコンマ1秒後。
ピピッ! ピーーーーッ!!!
黄金色に輝いていた画面に、けたたましいサイレン音と共に、「黄色と黒のトラ柄の警告ウィンドウ」がポップアップした。
「……えっ? な、なんだ? 今回は経費は一切かかってないはずだぞ!」
**【システム警告:環境汚染行為(不法投棄)を検知しました】**
**【討伐現場に、大量の『猛毒トゲ付きのウニ殻(危険物)』が放置されています】**
「は……?」
俺は、自分の足元に積み上げられた、巨大なウニの殻の山を見下ろした。
美味しい中身だけをくり抜き、厄介な殻をその場にポイ捨てした残骸。
**【システム・コンプライアンス規約に基づき、放置された危険物を『特別管理産業廃棄物』に指定します】**
**【『産業廃棄物処理代(危険物回収・浄化費用)』として、総収益の90%を強制徴収いたします】**
「……………………………………………………え?」
チャリンッ。(※口座から桁違いの残高が吹き飛ぶ、現代社会の闇の音)
【売上高(報酬):3,000,000 pt】
【特別産業廃棄物処理代:-2,700,000 pt】
【現在の純利益(手取り):300,000 pt】
――静寂。
磯の香りが漂う沼地で、俺の時間は完全に停止した。
経費をゼロにした。
武器も火も使わなかった。
なのに。
「ゴミを捨てるための費用(産廃処理代)」という、現代ビジネスで最も企業を苦しめる残酷なコストが、売上の9割を吹き飛ばしたのだ。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、軍手を地面に叩きつけ、今日何度目か分からない血の涙を噴出させた。
「産廃処理代だとォォォォォッ!? なんだそのリアルすぎる現代社会の闇は!! 美味しいところだけ食べて、殻を捨てただけで270万ポイントも没収されるのかよ!? ゴミを捨てるのにも莫大な金がかかるって、ここはどこのブラック企業だ!! 環境省のバカヤローッ!!」
税金、暴落、手数料、そして経費。
それらをすべて回避したと思ったら、最後に待ち受けていたのは「廃棄コスト」という逃れられない第5の壁だった。
事業活動において、ゴミの処理にお金がかかるのは当然の義務である。
「ル、ルークス君……。さすがに猛毒のゴミを森に放置するのは、不法投棄でマズかったようだな……。SDGsの時代だよ……」
「ポイントが! 俺の270万ポイントがぁぁぁぁっ!!」
どんな手段を使っても、絶対に満額を払おうとしない強固な経済の壁。
1億ポイントへの道のりは、税金と経費、そして産廃コストというリアルすぎるビジネスの壁に阻まれ、最強農民はウニの殻の横で、果てしない絶望のどん底へと沈んでいくのだった。
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**【読者へのメッセージ】**
第二百九十五話、いかがでしたでしょうか。
修繕費をケチるために、猛毒の巨大ウニを「軍手と素手の握力」だけでパカッと割るルークスの守銭奴っぷり!
そして、熱々のご飯の上で「トロァッ……」とクリームのように溶け出す極上ウニの限界突破シズル感! 濃厚なラーメンの翌日のウニ丼テロ、皆様の胃袋にダイレクトアタックできたなら大成功です。
しかし! 経費ゼロで丸儲けと喜んだのも束の間。
美味しい中身だけ食べて放置した殻に「特別産業廃棄物処理代(売上の90%)」が課せられるという、現代社会の過酷なリアル(ゴミの処分には金がかかる)がルークスを絶望に突き落としました!
税金、暴落、手数料、ランニングコスト、そして産廃コスト。システムのインフレ対策(経済の壁)が完璧すぎて笑いが止まりませんね。
果たしてルークスは、この鬼畜システムからどうやって1億ポイントを稼ぎ出すのか?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




