第二百九十四話:狂気の経費倒れ(ポイ活)。黄金骨竜の濃厚白湯ラーメンと、絶望の修繕費
「税金、大暴落、鮮度落ち、ブランド認定料、挙句の果てに贈与税と罰金……。ダメだ、どうやってもシステムに金をむしり取られる……」
キャンピングカーのリビングで、俺は頭を抱え、ブツブツと呪詛を吐き続けていた。
1億ポイント。世界樹の『黄金林檎』を救う(食う)ために必要な途方もない金額。
闇市での直販すらシステムに潰された今、俺のポイ活は完全に手詰まりになっていた……かに思えた。
「いや、待てよ」
俺はガバッと顔を上げた。
「正規の『討伐クエスト』の報酬ならどうだ? システムが公式に発行している依頼なら、あらかじめ予算が組まれているはずだ。つまり、報酬は『完全非課税』で全額受け取れるんじゃないか!?」
「ル、ルークス様、また何か良からぬことを思いついたようなお顔ですわよ……?」
「シルフィ! この森で一番厄介で、システムが討伐依頼を出してそうなヤバい魔物はいないか!?」
急に肩を掴まれたエルフの少女・シルフィは、ヒィッと身をすくめながらも、震える指で森の最深部を指差した。
「も、森の最深部にある『竜の墓場』に……大昔に死んだ竜が、森の澱みを吸って蘇った【黄金骨竜】が徘徊しています……。硬すぎてどんな魔法も通じず、森の木々を薙ぎ倒す厄災ですぅっ!」
「それだァァァァッ!!」
俺は虚空をタップし、システムの『クエスト掲示板』を開く。
あった。
【緊急討伐依頼:黄金骨竜。報酬:5,000,000 pt(※非課税)】
「ごひゃくまん! しかも非課税の文字が輝いている! 行くぞお前ら! 500万ポイント丸儲けのボーナスステージだァァァッ!!」
◇
薄暗い森の奥底、巨大な白骨が散乱する「竜の墓場」。
そこにそびえ立っていたのは、全身の骨が黄金にギラギラと輝く、ビルほどもある超巨大なアンデッド・ドラゴンだった。
【鑑定結果】
【対象:黄金骨竜】
【状態:澱みによる異常硬化】
【特徴:神話級の硬度を誇る黄金の骨。物理・魔法を完全に弾く絶対防御】
『グォォォォォォォォォッ!!!!!』
空気を震わせる咆哮と共に、黄金骨竜が巨大な尾を振り回す。
太さ数メートルの大樹が、まるでマッチ棒のようにバキバキとへし折られていく。
「ひぃぃぃぃっ! やっぱり無理ですぅっ! あんな硬い化け物、どうやって倒すんですかぁっ!」
「硬い? 関係ねえ! こちとら神話級のアダマンタイトだぞ! どんな硬い畑(骨)でも耕してやる!」
俺は『絶対冷却シャツ』の身軽さで空高く跳躍し、相棒である『真・アダマンタイトの鍬』を、全身の筋肉がちぎれんばかりの力で大きく振りかぶった。
狙うは、黄金骨竜の巨大な頭蓋骨のド真ん中。
「農業スキル奥義・『大地の解体新書(岩盤砕き)』ッ!!!」
俺の体重と、落下スピード、そして神話級の金属の絶対的な硬度が一つになった、会心の一撃。
ガギィィィィィィィィィィィィィンッ!!!!!!!
森全体が揺れるほどの、凄まじい金属の衝突音。
黄金骨竜の頭蓋骨に、ピキッ、メキメキメキッ!と巨大な亀裂が走り、そのままキャンピングカーほどもある巨体が、光の粒子となることもなく地面に崩れ落ちた。
一撃必殺。俺の完全勝利だ。
――だが。
その瞬間、俺の農民としての動体視力は、ある「恐ろしい光景」をスローモーションのように捉えていた。
……パキンッ。
「……え?」
俺の手元。
これまでどんな神話級の魔物を相手にしても傷一つ付かなかった、無敵の相棒『真・アダマンタイトの鍬』。
その鋭い刃の先端が、黄金の骨の異常な硬さに耐えきれず、ほんのわずかに、数ミリだけ「欠けて」飛び散ったのだ。
「……うそ、だろ。アダマンタイトが、欠けた……?」
俺は着地し、鍬の刃先を震える手で撫でた。
確かに、小さな欠けがある。
だが、すぐに俺は頭を振ってその事実を思考の隅へと追いやった。
「ま、まあいい! ほんの数ミリだ。研げば直る、後で考えよう! それより今は……この巨大な『黄金の骨』だ!」
「ル、ルークス君? まさか、骨を食う気か!?」
「当たり前だ! 極上の骨が手に入ったら、やることは一つに決まってるだろ!!」
俺はアイテムボックスから、キャンピングカーよりもデカい特大の寸胴鍋を引っ張り出した。
そして、砕け散った黄金骨竜の骨(髄液がたっぷり詰まっている部分)を大量に放り込み、キャンピングカーの『魔導コンロ』に直結させた特大バーナーのスイッチを「最大出力」でひねった。
「フェン! 火力が足りない! お前の炎も全力で足せ!」
「ガウッ! 分かったが、これをどうする気だ!?」
「煮込むんだよ! 徹底的にな! 骨の髄から極上のエキスが完全に溶け出すまで、三日三晩、休まずに強火でガンガン炊き続ける!!」
ゴォォォォォォォォッ!!!
それから三日間。
俺たちは交代で寝ずの番をし、キャンピングカーの魔力燃料を湯水のように継ぎ足しながら、ひたすら黄金の骨を煮込み続けた。
アクを丁寧に取り除き、ひたすら強火でガラを砕くようにかき混ぜる。
そして、三日目の夜明け。
「……できたぞ」
巨大な寸胴鍋の中。
透き通っていた水は、完全に姿を変えていた。
黄金骨竜の骨の髄から溶け出した圧倒的なゼラチン質と脂、そしてマナのエキスが完全に乳化し、鍋の中は「真っ白に濁った、ドロドロの液体」へと変貌を遂げていた。
お玉を入れると、シチューよりも重たい「モタァッ……」とした粘度が手に伝わってくる。
「匂いだけで……暴力的な旨味が押し寄せてきますわ……!」
「うおおおおっ! これだ! これぞ男のロマン、究極の『濃厚白湯(豚骨風)スープ』だ!!」
俺は、あらかじめ古代砂小麦をこねて打っておいた『極太のちぢれ麺』をサッと茹で上げ、特大のどんぶりに放り込んだ。
そこに、特製醤油ダレと、このドロドロの黄金白湯スープを並々と注ぎ込む。
具材なんていらない。ネギすら不要。
必要なのは、このスープと麺の暴力的な絡み合いだけだ。
「さあ! 熱いうちに啜れ! いただきます!!」
俺は箸で極太麺をガシッと持ち上げた。
その瞬間、ドロドロのスープが麺にこれでもかとネットリ絡みつき、重力に逆らって持ち上がってくる。
……ズズズズズズズズッッ!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の脳髄が、コラーゲンの濁流に完全に飲み込まれた。
美味い!! なんだこの圧倒的な濃度は!!
口の中に入れた瞬間、スープが「液体」ではなく「固体と液体の狭間の旨味の塊」として舌に張り付く。
黄金骨竜の骨の髄まで溶け出した、豚骨の何百倍も強烈で、それでいて獣臭さが一切ない極上のクリーミーな旨味。
ワシワシとした極太ちぢれ麺を噛み砕くたびに、絡みついたスープが爆発し、口内をギトギトの快楽で満たしていく。
「ズズズッ! ハフッ! う、美味ぇぇぇぇっ!! 唇が! 唇がコラーゲンでペタペタにくっつくぞ!!」
「はむっ、ズズッ! あかん、これはあかんですわ! 濃厚すぎて、カロリーが直接脳みそに突き刺さりますのーっ!」
「ガツガツガツ! 骨の味がする! 最高にワイルドでクリーミーだ!」
俺も、エレナ様も、フェンも、シルフィも。
全員が無言で、唇をテカテカ、ペタペタに輝かせながら、どんぶりに顔を突っ込むようにしてドロドロの麺を啜り続けた。
屋台の焼きとうもろこしの「香ばしさ」とは真逆のベクトル。
すべてを旨味の粘度で塗りつぶす、暴力的なまでの「重さ」と「背徳感」。
深夜に絶対に食べてはいけない、悪魔のラーメンがここにあった。
◇
極上の濃厚白湯ラーメンをスープの最後の一滴まで飲み干し、至福の溜息(と重たいゲップ)を吐き出した後。
俺は、唇をコラーゲンでペタペタにさせたまま、ニヤリと笑ってシステムウィンドウを開いた。
待ちに待った、クエスト達成報告の時間だ。
「ふはははっ! ラーメンも最高だったが、こっちが本命だ! 非課税の500万ポイント! これで一気にゴールに近づくぞ!」
俺は意気揚々と「クエスト完了」のボタンをタップした。
チャリンッ♪ チャリンッ♪
【クエスト達成:黄金骨竜の討伐】
【基本報酬:5,000,000 pt(※クエスト報酬につき非課税)】
「よっしゃあああああッ!!!! 500万丸儲けだァァァッ!!!」
俺はキャンピングカーの中で飛び跳ね、フェンとハイタッチを交わした。
税金ゼロ! 値崩れなし! 完全なる大勝利!
……と、俺が有頂天になって天国へと昇り詰めた、まさにその直後だった。
ピピッ! ピピッ!
システムの画面に、見慣れない「グレーの請求書ウィンドウ」が、ポップアップしたのだ。
「……ん? なんだこれ」
**【システム通知:当月分の『設備維持管理費』の自動引き落としを実行します】**
「は……?」
ウィンドウには、無慈悲な明細がズラリと並んでいた。
**【①『真・アダマンタイトの鍬』刃こぼれ修繕費(神話級鍛冶オプション適用):3,500,000 pt】**
**【②キャンピングカー魔導コンロ(三日三晩連続フル稼働)光熱費及び魔力燃料代:1,400,000 pt】**
**【合計経費:4,900,000 pt】**
チャリンッ。(※口座から容赦なく金が吸い取られる、死の音)
【売上高(報酬):5,000,000 pt】
【経費引き落とし:-4,900,000 pt】
【現在の純利益(営業利益):100,000 pt】
――静寂。
コラーゲンの匂いが漂うキャンピングカーの中で、俺の心臓は完全に停止した。
俺の目は、信じられない数字を何度も、何度も往復した。
ごひゃくまん、稼いだ。
非課税だった。
なのに。
「修繕費」と「光熱費」という、恐ろしくリアルな「経費」が引かれた。
手元に残ったのは、たったの「10万ポイント」。
「………………………………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
俺は、今日一番の、いや、この異世界に来て最大の血の涙を流し、どんぶりを抱えたまま床に突っ伏した。
「経費ィィィィィッ!? 修繕費350万ってなんだよ! ちょっと欠けただけだろうがボッタクリ鍛冶屋かァァァッ!! それに光熱費140万!? ラーメンのスープ炊くのにどんだけガス代かかってんだよォォォォッ!!」
売上高500万。営業利益10万。
利益率、たったの『2パーセント』。
「経費倒れの赤字スレスレじゃねえかバカヤローッ!! 重厚長大産業(農業・製造業)の世知辛さをファンタジーに持ち込むなァァァッ!!」
税金よりも、暴落よりも恐ろしい、ポイ活の真の敵。
それは、最強のチート武器を維持し、極上の飯を作るために絶対にかかる「ランニングコスト(経費)」だったのだ。
「ル、ルークス君……。どんまい。ラーメンのスープは、最高に濃厚だったよ……」
「ポイントが! 俺の490万ポイントがぁぁぁぁっ!!」
どんなに稼いでも、経費で消え飛ぶ。
1億ポイントへの道のりは、税金と経費というリアルすぎる経済の壁に阻まれ、最強農民は唇をペタペタにさせたまま、果てしない絶望のどん底へと沈んでいくのだった。
【読者へのメッセージ】
第二百九十四話、いかがでしたでしょうか。
無敵のチート農具『真・アダマンタイトの鍬』が欠けるという伏線!
そして、黄金の骨を三日三晩炊き出して作った「ドロドロ濃厚白湯ラーメン」の限界突破シズル感! 唇がコラーゲンでペタペタになる背徳的な美味さ……深夜にカップ麺にお湯を入れたくなった方は、完全にルークスの飯テロの犠牲者です(笑)。
しかし、非課税で500万ポイント丸儲けと有頂天になった直後……。
「修繕費」と「光熱費(ガス代)」という、生々しすぎる「経費の自動引き落とし」によって、手取りがたったの10万ポイントに!
売上はデカいのに経費で消し飛ぶという、モノづくりや飲食店の残酷なリアルがルークスを襲いました。インフレ対策が完璧すぎますね。
1億ポイントの壁はあまりにも険しい……。ルークスの次なる一手は!?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




