第二百九十三話:狂気の闇市(ダイレクト・マーケティング)。中抜き回避の屋台営業と、黄金もろこしの焦がし醤油バター
「税金で80%ピンハネ。大量納品すれば価格暴落。時間をかければ鮮度落ちで値崩れ。挙句の果てに、熟成肉には謎のブランド認定料で40%の中抜き……」
キャンピングカーの運転席で、俺は虚ろな目をしながら、これまでのシステムの悪行(インフレ対策)を指折り数えていた。
どんなに命懸けで神話級の極上食材を狩っても、システムという名の「強欲な卸売業者」を通す限り、俺の利益は理不尽なまでに削り取られていく。
1億ポイント。世界樹の黄金林檎を食うための資金。
このままバカ正直にシステムに納品し続けていては、森の生態系が更地になるのが先か、俺の精神が崩壊するのが先かというチキンレースだ。
「……気づいてしまった」
俺は、カッ!と血走った目を見開き、助手席でガタガタ震えるエルフの少女、シルフィの肩をガシッと掴んだ。
「プラットフォーム(システム)に卸すから、理不尽に中抜きされるんだ。なら……システムを通さずに、消費者に直接売りつける『直販』なら、手数料はゼロなんじゃないか!?」
「ひぃっ!? る、ルークス様、お顔が完全に悪徳商人のそれですぅっ!」
「おいシルフィ! お前の集落は、森の危機で飢えに苦しんでいると言っていたな!?」
「は、はい……。世界樹が澱みに侵されてから、森の恵みは枯れ果て、皆お腹を空かせて倒れそうです……」
「よし! 決まりだ! 今すぐお前の集落を案内しろ! 最強農民の『産地直送・闇市(BtoC)』の開幕だァァァッ!!」
俺はアクセルをベタ踏みし、キャンピングカーをエルフの集落へと急行させた。
◇
たどり着いたエルフの隠れ里は、悲惨な有様だった。
美しいはずの木造りの家々は活気を失い、広場には、頬をこけさせ、フラフラと幽鬼のように彷徨うエルフたちが溢れている。
「おお……シルフィよ、無事だったか……。しかし、もう我らには森の恵みを見つける力すら残されておらぬ……」
杖をついたヨボヨボの長老が、絶望に満ちた声でシルフィを迎え入れた。
そんな感動的で悲痛な再会のシーンの真横で。
カンカンカンッ! トントンッ!
「へいらっしゃい! 飢えたエルフの皆さーん! 産地直送、完全無農薬! 最強農民の出張直売所(屋台)がオープンしたよォ!」
俺はキャンピングカーのサイドオーニングを展開し、紅白の垂れ幕を下げた「屋台」を光の速さで設営していた。
「な、なんだあの人間は……!? こんな神聖な里のど真ん中で、下品な店を……」
「ル、ルークス君、君は本当に空気を読まない男だな……」
エルフたちが訝しげな視線を向ける中、俺は屋台の裏の土に、地下迷宮で手に入れていた神話級の種を素早く植え付けた。
「農業スキル・『大地の解体新書(超速・促成栽培)』ッ!!」
俺がマナを込めた水を撒いた瞬間、土がボコボコと盛り上がり、あっと言う間に大人の背丈を超える立派な緑の茎が伸び、その先端に、はち切れんばかりにパンパンに実った巨大な【世界樹の黄金玉蜀黍】が大量に実をつけた。
「よし! もぎたて新鮮! 炭火の準備だ!!」
俺は屋台に設置した特大の七輪に、最高級の備長炭を敷き詰めてカンカンに火を熾す。
そして、皮を剥いたばかりの、宝石のようにキラキラと輝く黄金のもろこしを、そのまま炭火の網の上へ並べた。
パチッ、パチッ、と炭がはぜる音。もろこしの水分が熱せられ、甘い香りが微かに漂い始める。
だが、屋台メシの王者は、ここからが本番だ。
「マリアさん! アレを頼む!」
「はいっ! 特製ダレ、完成しておりますわ!」
俺が受け取った壺の中には、神話級の極上醤油、濃厚な発酵バター、そして先日『森の処刑部隊』から命懸けで強奪した【世界樹の琥珀蜂蜜】を完璧な黄金比でブレンドした、『特製甘辛ハニーバター醤油』が入っている。
「いくぞ! 匂いの暴力だ!!」
俺はハケに特製ダレをたっぷりと吸わせ、炭火の上で熱された黄金のもろこしに、一気に塗りたくった。
――ジュジュワァァァァァァァァァァッ!!!!!!
特製ダレがもろこしの粒を伝い、真っ赤に燃える備長炭の上へとポタポタと滴り落ちた。
その瞬間。
焦げた醤油の香ばしさ、溶けたバターの暴力的なコク、そして熱せられた琥珀蜂蜜のむせ返るような甘い香りが、核爆発のようにエルフの集落全体を包み込んだ。
「くぉぉぉっ!! たまらん! 夏祭りの屋台の、あの絶対に抗えない『焦がし醤油』の匂いが、神話級の食材で限界突破してるぞ!!」
「主よぉぉぉっ! 早く! 早くその黄金の棒を我の口に突っ込んでくれぇぇ!」
ハケでタレを塗るたびに、ジュワァァッ!と白い煙が上がり、もろこしの表面が琥珀色のテリヤキコーティングで艶やかに光り輝いていく。
焦げた醤油とバターの匂い。
それは、飢えたエルフたちにとって、もはや致死量の誘惑(飯テロ)だった。
「……あ、あぁ……」
「な、なんだ、この……鼻の奥から脳髄を直接鷲掴みにされるような、おぞましくも芳醇な香りは……」
先ほどまで「神聖な里で下品な店を」と眉をひそめていたエルフたちが。
杖をついていた長老までもが。
全員が滝のようにヨダレを垂らし、ゾンビ映画の群れのように、フラフラと両手を前に出して俺の屋台へと引き寄せられてきた。
「へいお待ち! 『黄金もろこしの焦がしハニーバター醤油焼き』だ!! 熱いうちに食いな!!」
俺は焼き上がったばかりのアツアツのもろこしを、先頭の長老の手に強引に握らせた。
長老は、震える手でそれを口元へ運び、そのままガブリと食らいついた。
……プチッ!
ジュワァァァァァァッ!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
長老の目が、限界まで見開かれ、そして完全に白目を剥いた。
弾けるような食感!
噛み破った薄皮の中から、極上のフルーツすら凌駕する、トウモロコシの熱々で濃厚な甘い果汁が口いっぱいに弾け飛ぶ。
そこに、表面に焦げ付いた『ハニーバター醤油』の、ガツンとくる塩気と香ばしさ、そしてハチミツの深いコクが完璧に絡み合う。
「う、美味ぇぇぇぇぇぇぇっ!! なんだこの粒は! 甘さと塩気と香ばしさの無限ループ! 炭火の香りが鼻を抜ける! 森の恵みよぉぉぉっ!!」
「長老様が壊れましたわーっ!? でも私も……はふっ、プチッ、ジュワッ! ああぁぁ、焦げたお醤油とバター、最高にギルティですわーっ!」
長老を皮切りに、飢えたエルフたちは次々と焼きもろこしに群がり、顔中をタレと炭で真っ黒にしながら、狂ったようにかじりついた。
神聖なエルフの集落は、完全に「縁日の屋台の前に群がる食いしん坊の集団」へと陥落した。
「ふはははっ! 食え食え! 在庫は山ほどあるぞ!」
全員が腹を満たし、至福のゲップを放って地面に転がったのを見計らい、俺は屋台のカウンターをバンッ!と叩いた。
「さあて、皆の衆! 美味かっただろ? お代の清算の時間だ!」
「ル、ルークス様……。あんなに親切に振る舞ってくれたのに、やっぱりお金を取るんですね……」
「当たり前だシルフィ! 俺は慈善事業で屋台を開いたんじゃない! 1億ポイントを稼ぐための『闇市』だぞ!」
俺は、満腹で動けない長老を見下ろして、ニヤリと悪徳商人の笑みを浮かべた。
「システム(市場)は通さない! 手数料ゼロの個人間取引だ! 現金がないなら、エルフの里に伝わる古代の宝でも、国宝級の魔石でも構わない! 超高額で換金できるアイテムを直接置いていきな!」
「お、おお……命の恩人よ……。これほど美味なるものを食わせていただいたのだ。代金は惜しまぬ。里に伝わるこの『精霊王の星玉』を受け取ってくれ……!」
長老が懐から取り出したのは、夜空の星を閉じ込めたかのように眩く輝く、ピンポン玉ほどの大きさの宝玉だった。
【鑑定】
【対象:精霊王の星玉】
【推定換金価値:10,000,000 pt】
「いっ……いっせんまん!!?」
俺の心臓が爆発しそうになった。
焼きもろこし数本で、1000万ポイント!?
システムを通さない個人間送金(P2P)の破壊力、恐るべし! これなら、あと何度か屋台を開けば1億ポイントなんてあっという間だ!
「まいどありィィィッ!!」
俺が歓喜の涙を流し、長老の手からその『精霊王の星玉』を直接受け取った、まさにその瞬間だった。
ピピッ! ピーーーーッ!!!
俺の目の前に、これまでで最も禍々しい、血のような『真っ赤な警告ウィンドウ』が、けたたましいサイレン音と共にポップアップしたのだ。
**【システム・セキュリティ・アラート:重大な規約違反を検知】**
**【システムを介さない、超高額資産(1,000万pt相当)の不透明な個人間譲渡(P2P)を確認しました】**
「……は?」
**【税務プログラム発動:本取引を『贈与』と認定し、最高税率である『贈与税(55%)』を適用します】**
**【さらに、営業許可証を持たない『無許可営業(闇市)』の罰金として、固定額3,000,000ptを徴収します】**
「……………………………………………………え?」
チャリンッ。(※口座から桁違いの残高が吹き飛ぶ、絶望の音)
【精霊王の星玉の価値(1,000万pt)】
【贈与税(-550万pt)】
【無許可営業罰金(-300万pt)】
【現在の純利益(手取り):1,500,000 pt】
――静寂。
焦がし醤油の香ばしい匂いが漂うエルフの集落で、俺の時間は完全に停止した。
システムを通さなければいいと思った。
直販なら中抜きされないと確信していた。
なのに。
贈与税。無許可営業の罰金。
手元に残ったのは、1000万ポイントのうち、たったの「150万ポイント」。
税率と罰金のコンボで、実に『85パーセント』が国税庁に没収されたのだ。
「………………………………………………ふざ、ふざけるなァァァァァァァァァッ!!!」
俺は、精霊王の星玉を握りしめ、天に向かって血の涙を噴出させた。
「直販(個人間取引)でも贈与税取るのかよォォォォッ!? なんだそのリアルすぎる最高税率55%って!! しかも無許可営業の罰金!? じゃあ営業許可証はどこで取れるんだよ!! 脱税(?)は絶対に許さない国税庁のバカヤローッ!!」
「ル、ルークス君……。さすがに国家の税務署を甘く見すぎたようだな……。彼らは1ポイントの逃税も許さないのだよ」
「ポイントが! 俺の850万ポイントがぁぁぁぁっ!!」
システムという名の巨獣は、逃げ道を塞ぐことにかけては天才的だった。
税金、暴落、鮮度落ち、手数料、そして贈与税と罰金。
どこまでも逃げられない税務署的システム包囲網の前に、1億ポイントの壁はさらに高く、絶望的にそびえ立つ。
「この人、本当に森の救世主なのかしら……。ただの脱税で捕まった悪徳屋台のおじさんにしか見えない……」
シルフィの冷ややかなツッコミを背に受けながら、最強農民の果てしないポイ活(税務署との戦い)は、焦がし醤油の匂いと血の涙と共に、まだまだ続くのだった。
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**【読者へのメッセージ】**
第二百九十三話、いかがでしたでしょうか。
「システムが搾取するなら、闇市(直販)で荒稼ぎしてやる!」と、究極のポイ活(BtoC)に手を出したルークスの悪徳商人っぷり!
炭火で焼ける黄金のトウモロコシに、ハチミツとバターを効かせた「焦がし醤油」を塗る……あの屋台特有の「匂いの暴力」を画面越しに感じていただけたなら大成功です。エルフたちも一瞬で陥落しましたね!
しかし! その直後に待っていたのは、システムの『税務調査』!
「贈与税(最高税率55%)」と「無許可営業の罰金」という、逃げ道を完全に塞ぐ国税庁の容赦ない追撃に、ルークスが血の涙を流す完璧なオチとなりました。
現代社会の闇(税金)を煮詰めたようなこのポイ活サバイバル。果たしてルークスは、どうやってシステムを出し抜き、1億ポイントを貯めることができるのでしょうか?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




