第二百九十二話:狂気の非生鮮ポイ活。悠久の塩刃猪(エターナル・プロシュート)の極薄生ハムと、絶望のブランド審査料
「……ナマモノがダメなら、最初から『保存食』を狩ればいいんだよ」
神話級の巨大卵から作った究極のオムライスを堪能した直後、時間経過による「鮮度低下(値崩れ)」というシステムの無慈悲なタイムセール仕様によって、120万ポイントもの大金を失った俺。
キャンピングカーの床で一晩中血の涙を流し、絶望のどん底を這いずり回った末に、俺の狂気じみたポイ活脳は、一つの完璧な真理へと到達していた。
「おい、シルフィ」
「ひぃっ!? は、はいぃっ!」
俺は、隈だらけの血走った目で、エルフの少女を振り返った。
「この森に、時間が経っても価値が落ちない……いや、むしろ時間が経つことで価値が上がる『熟成された魔物』はいないか? ナマモノじゃなくて、最初から『加工食品』みたいになってる都合のいいヤツだ!」
「か、加工食品の魔物、ですか……? そんな無茶苦茶な……」
シルフィは怯えながらも、一生懸命に森の記憶を探り始めた。
「あ、あの……『加工食品』と言っていいのか分かりませんが……。この先にある『岩塩の洞窟』に、特殊な生態を持つ猪の魔獣がいます。体表から常に良質な岩塩を分泌していて、洞窟を吹き抜ける乾燥した森の風を何十年も浴び続けることで、自身の肉を信じられないほど凝縮させているという……」
「……それだァァァァァッ!!」
俺は両手を突き上げ、完全復活の雄叫びを上げた。
「体表の塩と、乾燥した風による長期熟成! それって完全に『生ハム(プロシュート)』の製法じゃないか! 生きながらにして自らを極上の生ハムへと仕上げている、究極の非生鮮食品! 案内しろシルフィ! 俺の失われた120万ポイントを取り戻すぞ!」
◇
シルフィの案内で辿り着いたのは、世界樹の森の奥深く、切り立った崖に開いた巨大な洞窟だった。
中はひんやりと乾燥しており、壁一面がキラキラと輝く純白の岩塩で覆われている。奥からは、常に一定の心地よい風が吹き抜けていた。
まさに、生ハムを熟成させるために神が誂えたかのような完璧な天然の貯蔵庫。
そして、その洞窟の最奥に「そいつ」は鎮座していた。
見上げるほどの巨体を持つ、岩のようにゴツゴツとした猪。
しかし、その体表は普通の毛皮ではなく、分泌された岩塩が結晶化し、白い鎧のようにびっしりと覆い尽くしている。
そして、その塩の鎧の隙間から漂ってくるのは、獣臭さなど微塵もない、ナッツのように香ばしく、そして果てしなく芳醇な「熟成肉(生ハム)」の極上の香りだった。
【鑑定結果】
【対象:悠久の塩刃猪】
【状態:超・長期熟成完了(食べ頃)】
【特徴:自らの体を極上の生ハムへと昇華させた神話級の猪。その肉は永遠の保存性を誇る】
【買取参考価格:1頭 3,000,000 pt】
【※熟成加工肉のため、時間経過による鮮度低下(値崩れ)ペナルティ無効】
「……ビンゴだ」
俺は、鑑定結果の最後の文字を見て、口角を耳まで吊り上げた。
鮮度低下ペナルティ無効! これなら、狩った後にのんびり飯を食っても、絶対に値下がりしない。額面通り、300万ポイントが丸儲けだ!
『ブゴォォォォォォォッ!!!』
俺たちの侵入に気づいたエターナル・プロシュート・ボアが、塩の鎧を軋ませながら、大地を揺るがす猛突進を仕掛けてきた。
「ル、ルークス君! あんな塩の塊に体当たりされたら、キャンピングカーごと粉砕されるぞ!」
「ガリウス所長、あれがただの塩の塊に見えるんですか? あれは『歩く原木(生ハムの塊)』です! フェン! あいつの動きを風で固定しろ!」
「ガウッ! 分かったが、あんな硬そうな肉、どうやって食うのだ!?」
「生ハムはな……切り方が命なんだよ!!」
俺は『真・アダマンタイトの鍬』を構え、突進してくる巨大猪の正面へと躍り出た。
分厚く切ったら、塩辛くて硬いだけの肉塊になってしまう。
生ハムの真髄は、光が透けるほどの「極薄」にスライスすることで、舌の上で脂を溶かし、旨味を爆発させることにある!
「分厚く切ったら台無しだ! 1ミリ以下の極薄でスライス(討伐)しろ!」
俺はフェンの風魔法で突進の勢いが殺された巨大猪の背中へと跳躍し、アダマンタイトの鍬を、まるで巨大な「カンナ」のように構えた。
「農業スキル奥義・『大地の解体新書(極薄カンナ削り)』ッ!!」
シュパァァァァァァァァンッ!!!!!
俺は巨大猪の背中から尻にかけて、鍬の刃をミリ単位の絶妙な角度で滑らせた。
その瞬間。
塩の鎧の下に隠されていた、美しいルビー色の赤身と、雪のように白い網目模様の脂が織りなす極上の肉が、文字通り「極薄の生ハム」となって空中にフワァァッと舞い上がった。
『ブギィッ!?』
俺は着地するなり、再び跳躍し、突進の余韻で走り抜けていく猪の巨体に向かって、目にも止まらぬ速さで鍬をカンナのように滑らせ続けた。
シュパパンッ! シャシュシュシュシュッ!!
「もっと薄く! 光が透けるように! 細胞の壁を壊さないように削り出せェェェッ!!」
それは、もはや戦闘ではなかった。
キャンピングカーほどの大きさがあった巨大猪が、走りながら、俺の鍬の神業によって、次々と極薄の生ハムへと姿を変えていく、狂気の解体ショー。
数秒後。
洞窟の奥で完全に削り尽くされたエターナル・プロシュート・ボアは、光の粒子となることもなく、山のような「極薄生ハムの絨毯」となって、純白の岩塩の床に美しく降り積もっていた。
「よしっ!! 収穫完了だ!!」
俺は額の汗を拭い、フワフワの生ハムの山を見て狂喜した。
「す、すごい……あんな巨大な魔獣が、一瞬で薄いお肉の山に……。ルークス様、本当に農民なんですか……?」
「さあ! 鮮度は落ちないが、美味いものは今すぐ食うに越したことはない! マリアさん、さっき森で見つけたアレを茹でてくれ!」
俺は、洞窟へ向かう途中の森で自生しているのを発見し、収穫しておいた神話級の芋――【世界樹の男爵イモ】をマリアさんに手渡した。
大鍋でたっぷりの塩茹でにされた男爵イモは、ソフトボールほどの大きさがあり、皮が弾けてホクホクの湯気を立てている。
「生ハムの最高の相棒は、メロンでも酒でもない。……『熱々のポテト』だ!」
俺は、茹でたての熱々ホクホクの【世界樹の男爵イモ】を真っ二つに割り、皿に乗せた。
立ち上るジャガイモの甘い湯気。
その上に、削り出したばかりの、冷たくて極薄の【エターナル・プロシュート】を、空気をまとわせるようにフワリ、と何枚も折り重ねて乗せる。
その瞬間だった。
――トロァッ……。
「おおおおおおっ……!!」
熱々のポテトの蒸気と熱に触れた生ハムの「白い網目模様の脂」が、一瞬にして融点を迎え、魔法のように透明へと溶け出したのだ。
ルビー色の極薄の赤身が熱を帯びて艶やかに輝き、溶け出した極上の脂が、下のホクホクのジャガイモへとじんわりと染み込んでいく。
「や、ヤバいですわ……! 脂が……脂が透き通ってキラキラ光っていますの……!」
「主よぉぉぉっ! もう限界だ! 食わせろォォッ!」
俺は、溶けた脂でテカテカに輝く生ハムで、熱々のポテトをくるりと包み込み、そのまま大きな口を開けて頬張った。
……ハフッ。
ホクゥッ。
ジュワァァァァァァァァァッ!!!!!
「んんんんんんんんんッ!!!!??」
俺の脳内で、ファンファーレが鳴り響いた。
なんだこれは!! 美味すぎる!!
舌の上で、極薄の生ハムが文字通り「溶けた」。
何十年もかけて凝縮された豚肉の強烈な旨味と、岩塩の極上の塩気が、口の中に爆発的に広がる。
そこに、男爵イモのホクホクとした優しい食感と、素朴で力強い大地の甘みが合流する。
芋の甘みが、生ハムの塩気を完璧に受け止め、生ハムの溶けた脂が、芋のパサつきを極上の滑らかさへと変える。
塩気と甘み。冷たさと熱さ。極薄の肉とホクホクの芋。
すべてが対極にあるのに、口の中で一つに溶け合い、究極のマリアージュ(背徳感)を完成させていた。
「美味いぃぃぃっ! 芋の甘みと生ハムの塩気が無限ループだ! 脂が軽いのに旨味が重い!!」
「はふっ、とろけますわ! お肉が舌の上で消えましたの! でもお芋に旨味が全部染み込んで……ああっ、止まりませんわーっ!」
「おいちい! お芋さんと塩のお肉、おいちいよぉぉぉっ!」
シルフィもエレナ様もフェンも、全員が無言で、熱々のポテトに生ハムを巻いては貪り食い、時折冷えた炭酸水で口をリセットしては、また無限のループへと突入していった。
◇
巨大な生ハムとポテトの山を信じられない量平らげ、至福のゲップを放った後。
俺は、指についた生ハムの脂を舐め取りながら、意気揚々とシステムウィンドウを開いた。
これだけゆっくり飯を食っても、今回は「鮮度低下(値崩れ)」のペナルティはない。熟成肉バンザイだ。
「ふはははっ! 最高の飯だった! そして、ここからは最高のポイ活(収穫祭)だ!」
俺は、残りの山のようなエターナル・プロシュートを一括選択し、「納品」ボタンを力強くタップした。
チャリンッ♪
【納品アイテム:悠久の塩刃猪(極薄スライス・熟成完了状態)】
【買取査定:3,000,000 pt】
【※熟成加工肉のため、時間経過による鮮度低下ペナルティは適用されません】
「よっしゃあああああッ!!!! 300万ポイント丸儲けだァァァッ!!」
俺は洞窟の中で飛び上がり、ガッツポーズを決めた。
税金なし。値崩れなし。完璧な勝利。
――しかし。
システムは、ポイ活の亡者にそう簡単に1億ポイントを渡すほど、甘い世界ではなかった。
黄金色に輝いていた画面に、突如として「黄色と黒の警告トラ柄」のウィンドウがポップアップしたのだ。
ピーッ! ピーッ!
「……えっ? な、なんだ?」
**【システム警告:高級加工肉(ブランド熟成肉)の大量取引を検知しました】**
**【本アイテムは未認可の加工施設(洞窟)で製造された非正規流通品です】**
「は……?」
**【システム・コンプライアンス規約に基づき、『食品衛生検査費』および『高級ブランド認定(鑑定)手数料』を適用します】**
**【プラットフォーム利用料として、総収益の40%を徴収いたします】**
チャリンッ。(※お金が容赦なく吸い取られる、絶望の音)
【徴収額:-1,200,000 pt】
【現在の純利益(手取り):1,800,000 pt】
――静寂。
ひんやりとした岩塩の洞窟が、俺にとっては絶対零度の地獄へと変わった。
さんびゃくまん、稼いだ。
鮮度も落ちてない。税金もかからない。
なのに。
「手数料」という名目で、120万ポイントが消えた。
「………………………………………………はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
俺は、今日何度目か分からない血の涙を流し、純白の岩塩の床に突っ伏して大地をバンバンと叩き割らんばかりに泣き叫んだ。
「ナマモノじゃなくても手数料(みかじめ料)取るのかよォォォォッ!! なんだよ『食品衛生検査費』って! 俺たちはピンピンしてるだろうが! 『ブランド認定料』!? 勝手にブランド化して中抜きしてんじゃねえよプラットフォーマー(システム)のバカヤローッ!!」
税金、暴落、鮮度落ち。
それらをすべて完璧にクリアした俺の前に立ちはだかった、第4のインフレ防止の壁。
それは、現代のプラットフォームビジネスの闇を煮詰めたような、無慈悲な「謎の手数料(中抜き)」だった。
「ル、ルークス君……。どんまい。ポテトと生ハムは、最高に美味しかったよ……」
「ポイントが! 俺の120万ポイントがぁぁぁぁっ!!」
どんなに知恵を絞っても、絶対に満額を払おうとしない強固な経済の壁。
最強農民の1億ポイントへの道のりは、あまりにもシビアで、理不尽で、果てしなく遠い。
俺の悲痛な叫びは、岩塩の洞窟の奥深くへと虚しく吸い込まれていくのだった。
【読者へのメッセージ】
第二百九十二話、いかがでしたでしょうか。
鮮度落ちを回避するため、「最初から熟成されている魔物」を狙うというルークスの斜め上のポイ活!
突進してくる巨大猪を、鍬で走りながら「極薄の生ハム」にスライスしていく狂気の解体ショーは、農民スキルの無駄遣いの極致ですね。
そして、熱々の男爵イモの上で、生ハムの脂が「トロァッ……」と透明に溶け出す瞬間の限界突破シズル感! ホクホクの芋と極上の塩気の無限ループ、読んでいるだけで生唾が出たなら大成功です。
しかし、そんな至福の時間の後に待っていたのは、「ブランド認定料」と「衛生検査費」という名の、無慈悲なプラットフォームの中抜き(手数料)!
税金や鮮度をクリアしても、あの手この手で満額を払わせないシステムの執念(インフレ対策)に、ルークスが血の涙を流す完璧なオチとなりました。現代のフリーランスの悲哀を感じますね(笑)。
1億ポイントの壁はあまりにも高く、理不尽です。
果たしてルークスは、この鬼畜システムからどうやってポイントをむしり取るのか?
次回もノンストップでコメディと飯テロをお届けしますので、ぜひブックマークと評価をお願いします!




